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日常のあった村で

俺はまた遺跡を超えた丘に立っていた。初めてここへ来た時は絶望のあまりそのまま飛びかかってきたブラッディウルフに噛みつかれ、抵抗する事も無く死を受け入れた。何もする気が起きなかったのだ。

 また17時20分に戻り、その回は呆然とした。

 

 きっちり24時間後、俺はまた戻って来た。


「クソ……、クソ……!まだだ……!」


 サイクロプスを倒して丘を超える所までは行けたんだ。その先へだって行けるだろ。まだやれる。俺はまだ立ち上がる事が出来る。

 いつも通り【混合】のスキルを取り錆びた剣と遺物を回収。懐中時計も拾う。まずはファイアーラットを殴り殺す所からだ。大丈夫、もう1000回以上繰り返した事じゃないか。体に染み付いている。


 そして俺はまた丘を越えて村の端に立つ。いつも通り涎を撒き散らしながらブラッディウルフが数体飛びかかってくる。ただ何度やっても同じ、こいつらは俺の左側から襲ってくる奴はいない。左に大きく身をかわせば難無くかわせる。知能は犬以下だな。俺は突進をかわされて体制を崩しているブラッディウルフを背後から斬りつけまとめて殺す。飛びかかって来た5匹を全て倒し死体に触れ【解体術】で『血まみれの鋭牙』を入手。それを全て遺物にしまう。

 残りのブラッディウルフも排除するのには苦労はしない。地面の石ころを数個拾い『火鼠の牙』と【混合】、燃え盛る石ころを【スリングショット】で頭を撃ち抜いてやると即死はしないが驚いて暴れ回って逃げて行く。程度の低い魔物は動物と同じで火が怖いのか?暴れ回る奴のおかげで群れは大混乱、その隙に群れのど真ん中に突っ込み邪魔なブラッディウルフを切り飛ばし走り抜ける。群れを抜けるとブラッディウルフは追ってくる事は無い。


 ブラッディウルフの群れを抜けるとその先は噴水のあるちょっとした広場になっていた。なんだかすでに懐かしいな。それもそうか、ここへたどり着くまでにもう1000回以上同じ日を繰り返しているんだ。言ってみれば数年ぶりにここへ来たのと変わりはない。

 そう言えばこの広場はここへ来てすぐ、まだこの村の人間とも親しくなれていない時に母さんと2人で良く訪れたのを覚えている。それがまさかこんな形で訪れる事になろうとは。

 あの噴水、なんでも大地のマガを使って魔法で吹き出しているとか何とか言っていたな?確かに今の俺ならわずかなマガの流れが感じられる。


「ん……?なんだ……?人……?」


 噴水の近くに1人、人影らしき物が見えた。その人影は遠目でも人影と認識出来る。何だろう?グールやスケルトンの様な人型の魔物とは何となくフォルムが違うのだろうか?


 もしかして……生存者か?


 いやそんなはずは無い。もしそうだったとしたら、この魔物だらけの場所であんなに静かに突っ立っているはずが無い。ここであんな風に静かでいられるのは魔物である事の何よりの証拠だ。


 危ない危ない、変な淡い期待を持つな。ここには俺を襲う魔物しかいない。アレも間違い無くそのひとつだ。


 まだかなりの距離があるが注意深くそれを観察する。見た目は完全に普通の人間。ただこの距離からでも感じる、何とも言えない威圧感は魔物ゆえのものなのだろうか。少しづつ距離を詰めて行く。もちろんあちらも気が付いているようだ。

 そこでふと妙な事に気が付いた。


「あいつ1人......?他に魔物は......?」


 そうだ、禁忌の遺跡を出てからここまでずっと、間もは群れで襲って来た。隙あらばそこかしこから襲いかかって来る程に大量の魔物がいたはずだ。


 それがここには1人しかいない。


 なぜだろう?あいつが1体だけの特殊な個体だとしても、別の魔物が周りをウロついていてもおかしく無いはずだ。

 その1体だけの魔物の周囲を見回していると、視界の端でそいつがゆらりと動いた様に見えた。


 急いで視線をそいつに戻す。その距離約10メートル程度。そいつはそのまま前に倒れ込むかの様に、ほんの少しだけ体を前方へ傾けたかと思うと次の瞬間、信じられない事に俺の目の前まで移動して来ていた。


「なっ……!?!?」


 次の瞬間、視界が時計回りにぐるりと回り、最後に見たのは自分の靴だった。




「なんだったんだ……あいつは......」


 また振り出しに戻って来たがすぐには動けなかった。前回の最後がまだ理解出来ていない。

 おそらくは最後、視界が回ったのは予測がつく。単純に俺の頭だけが首から転げ落ちたのだ。つまりは綺麗に首を撥ねられた訳だ。

 だが問題はその前、10メートル先のあいつが一瞬で俺の目の前まで来ていたアレだ。そしてそもそもあいつは何だ?魔物の割には見た目も動きも、殺し方も人間そのものじゃないか。死ぬ間際に一瞬見えたあいつの武器はおそらく剣、だと思う。一瞬だったのもあるが、見た事が無い剣だった様に思える。その刀身は細く、片刃、その刃には波の様な模様が見えた。背の方が若干反っていた様に思える。錆一つ無く、黒く光りまるで殺傷する道具では無く芸術品の様でもあった。総合すると何だか分からないが、少なくとも刃物である事は間違い無い。なんてったって首を撥ねられた訳だからな。


 そして俺はまたあいつの前に立つ。ここまでの手順はもう完璧だ。今回であいつを倒せるとは思っていない。あいつが何なのか、その一端でも掴む事が出来れば今回は上出来だ。まずは一瞬で首を撥ねられるのだけは回避しなくては。そしてある程度近づく事が出来れば【鑑定眼】で何かしらの情報を得られるはずだ。だから俺は前回とまったく同じに歩みを進める。


 その距離約10メートル。


 ゆらり


 来る……!


 俺は何も見ずに眼前に錆びた剣を両手で縦に構えた。


 思った通り、振るわれた剣が俺の持つ錆びた剣とけたたましい音を立てながら十時にぶつかり合う。


「よし!【鑑定眼】!」


『憑き物蟲』

 ランク:マゼンタ

 死に向かうモノに取り憑きしばしの間、仮初の生を与えそのモノの望みを叶える機を与える。それと引き換えに仮初の生が尽きた後はその体は蟲の住処となり、手となり足となる。その蟲は全てを喰らい、その力、能力、スキルの全てを手に入れる。


 なんだ?蟲?どこをどう見ても蟲になんて見えないぞ?

 あ......もしかしてこいつ、蟲の様な魔物に操られているって事なのか?


 考えたのはほんの一瞬、瞬きをする間もない一瞬だった。その隙に蟲に憑かれたこいつは、いやすでにそれは『蟲』そのものか、そいつは拮抗している十時に交わる己の剣から力を抜き、さらには自分の両膝からも力を抜き、全身を沈み込ませた。

 と、俺は思った。しかし何故か俺の腹は横に勢い良く切り裂かれ腸がずり出てきた。

 俺は力が抜け、地面に両膝を付いた。目の前には俺の血がべったりと付いた剣を振り抜きこちらに背を向ける『蟲』がいた。


「一体……どうなってやがるんだ……」


 自分の血の海に突っ伏して意識が遠のいて行った。




「クソ……どうなってるんだ?あいつは?」


 死に戻ってすぐに考え込んだ。

 まずは外見を思い出そう。冷静になって考えると、外見はほぼ人間そのもの。とは言えあまり生きている感じがしない。生気を感じないと言えばいいのか?だがしかしグールやスケルトン等のアンデッドと呼ばれる魔物とは印象が違う様な......。おそらくはあの体自体まだ生きているのだろう。いや、取り憑いた蟲によって生かされていると言えばいいのか?だが良く細部まで記憶を辿ると、戦闘を始める前から破損していた服の下に見える肉体は若干欠損していた様に思える。

 つまりだ、あれは蟲の能力で仮初の生とやらを与えられ、本来は死んでいる体を無理矢理動かしているのでは無いか?アンデッドと違い死体では無く、期限付きの命を与えられ、それを蟲の意のままに操られているのでは無いか?だから愚鈍なグールとは違い、体の持ち主の技や力が遜色無く使えるのでは無いか?となればきっと、あの体は長くは持たず、朽ちれば取り憑いた蟲は別の宿主を探すのか、はたまたそこからは己の体のみで生きていくのか。

 そんな事はどっちだっていい。問題なのはあのとんでもなく厄介な強さの体であそこに居座っているという事だ。


「何でまた、今で、ここなんだよ」


 全くもって迷惑極まりない。別の場所で勝手に朽ちてくれればいいものを。

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