魔術師専用結婚相談所
リハビリ兼ねて!
やあ、こんにちは。見かけない顔だね。誰かの紹介かな?
——なるほど、そうかい。いや、君が誰から紹介を受けたかは関係ないよ。ただの話の潤滑剤さ。
——まあまあ、落ち着いて。君も登録をしにきたんだろ? この「魔術師専用結婚紹介所」に。
まあ、世の中の魔術師ってのは、なかなか気難しい人が多いからね。引きこもりがちだし、友人関係も深く狭くが基本だ。その一方で、国は魔術師同士の結婚を推奨している。当然だよね。魔術師は魔術師同士の方が圧倒的に生まれやすい。魔術師の数が国力とも言われている現代において推奨しない国の方が少ない。
だからって魔術師の結婚紹介所への登録義務づけは横暴だって? まあまあ、今まで君の学費や生活費も国から出ていたわけだから、そのくらいは我慢してくれ。成績や恋人の有無で猶予期間も設定されてたわけだしね。
さて、それじゃあうちが適当に紹介はしない、相性判定をしている紹介所と知って——ああ、そう。知ってるならいいよ。
それじゃ、まず貴方のプロフィールを書いて。そう、その紙にだ。別に魔術で転写しても構わないよ。とにかく埋めてくれ。
——よし、こんなもんか。じゃあ紙を預かるよ。えっ、この紙を何に使うかって? 周りから何も聞いてないのか?
うちはね、その辺の公立の結婚紹介所と違って、きちんと相性判断をして紹介してるんだよ。できる限り相性の良い人同士の結婚が望ましいからね。特に魔術師は内向的な人が多いから、そういう気遣いしてあげた方が良い結果になりやすいね。
さてと、君は火属性魔術師なんだね。魔術師にしては外向的だし、自信家の多い属性だ。いやいや、馬鹿になんかしてないぞ。むしろその傾向の出てない火属性魔術師なんかはこじらせてるから、君みたいにわかりやすく火属性魔術師だと、とても相性判断がしやすい。
ははは、別に褒めたわけじゃないよ。やり易いなと思ったのは確かだけどね。
さて、君と相性が良いのは、そうだな……この娘なんてどうだ。とても穏やかで優しいと評判の娘だ。魔術師らしいと言えば魔術師らしくもあるが、君が暴走した時に嗜めることはできるだろう。そして何より、水属性魔術師だ。やはり火属性の男には水属性の女に限るね。
ん? それじゃあ夫婦喧嘩になったら勝てないじゃないかって?
ははは、まず喧嘩をする前提の結婚はやめなさい。不幸になるだけだよ。特に火属性魔術師は喧嘩っ早いからね。そういう意味でも水属性魔術師との相性は良いんだよ。そもそも喧嘩にならないからね。
……ああ、そうかい? 別属性がいいと。しかも、氷属性魔術師が良いだって? あんたそりゃ、相性悪いよ。
いや、氷属性魔術師の性格はそんなんじゃないよ。世間ではは根暗だの冷たいだの属性の印象が先走るけど、実際は明るくて優しい人が多いよ。表情筋が死んでることが多いから、そう思われるだけじゃないかな。「あの娘の氷を溶かすのは俺だー!」って恥ずかしげもなく言ってる火属性魔術師をたまに見かけるけど、相手の氷属性魔術師、それ聞いても「きもっ」としか思わないらしいから、もし氷属性魔術師に会う機会があっても、そういうことは言わない方がいいよ?
それから、氷属性魔術師は一途な人が多いけど、一方で興味ないことには全く関心を寄せないからね。相手によっては相性がいい時もあるんだけど、うちでは基本火属性魔術師とは引き合わせないよ。難しいし、苦情の元だから。
しかし、君みたいな典型的な火属性魔術師だと、水属性魔術師以外は難しいんだよな。幻属性魔術師なんかは悪くないんだが、滅多にいないしな。後は火属性魔術師同士も、相性が良ければ良い選択肢になるが、うちでは紹介しないよ。なんでかって? そんな相性の良い相手ならもう出会ってるでしょ。ここに登録しに来る時点で、火属性同士では難しい魔術師がほとんどだから。
ん? 風属性魔術師はどうかって? ははは、やめときな。毟られるだけ毟られて、気付いたら有責離婚になってるよ。男の風属性魔術師はアホ——いや、考えなしの根無草がほとんどだが、女の方は強かなのが多い。特に、火属性魔術師の男がおだてに弱いことをよく知っている。まだ土属性魔術師の方が相性良いよ。
まあ、土属性魔術師は紹介しないけどな。あんたには合わないよ。あんたもそう思うだろ? 地味だから嫌い? まあ、あんたがそう思うならそれでいいさ……相手が不幸になるだけだしね。
いや、何でもないさ。ただの独り言だよ。
さて、ここまで話したらもう分かるだろ? あんたには水属性魔術師が合っている。とりあえず、一度会ってみると良い。それでダメなら、また別の魔術師を紹介しよう。
……そうか、納得してくれたか。じゃあ、こちらからも女性には連絡しとくよ。うまくいくことを祈ってるさ。うまくいくとも思ってるがね。
やあ、いらっしゃい。おや、君は先日うちに登録してくれた魔術師だね。水属性魔術師を紹介したんだが、あれからいかがかな?
……そうか。いや、上手くいってるなら良かったよ。
付き合ってて喧嘩にならないことがこんなに気持ちの良いものとは思わなかった? ははは、君今までどんな相手と付き合ってきたんだい? いや、言わなくていいよ。見たところ君は議論好きだから、相手にも同じものを求めたんだろう?
ははは、私じゃなくてもわかるさ。君みたいなタイプは、むしろ恋愛には議論を持ち込まない相手の方が良いんだよ。価値観の異なる相手との方が理解しようと歩み寄れるし、価値観が違うからこそ、歩みを合わせ易い。
価値観が近いと、君たちは合わせさせようとしがちだからね。
さてと、そんなことはどうでもいい。上手くいってるのに、どうしてうちに来たんだい?
——ほう、友人を連れてきたいと。しかも、どこからも断られた相手?
まあ、何も聞かず断るだなんてことはしないけれど、一体どんな人なんだい?
——ああ、なるほど。そういうことか。いや、性格を聞くまでもない。どうせ人当たりも良くて協調性があり、誰からも好かれるような魔術師だろ?
ははは、そりゃわかるさ。無属性魔術師ってのは、そういう奴が多い。そして、どうして同業者が断るかもわかってる。もちろん、申し訳ないけど私も断るよ。
理由かい? 聞かない方がいいよ。その魔術師との付き合いを続けたいならね。
……そうかい。そこまでいうなら教えてあげよう。無属性魔術師っていうのはね、本来ならありえない存在だからだよ。
魔力の揺らぎは個々人よって異なり、その揺らぎが属性となる。得意属性が二つあるだけでも相当特殊な揺らぎを持っていて、えてしてそういう魔術師は心に爆弾を抱えている。性格が破綻してるとでも言おうか。二面性があったり、怒りの沸点が驚くほど低かったり、まともな人間はほとんどいない。それは君も知ってるだろ?
それなら、無属性魔術師ってのはなんだ? 滅多にいない無属性しか使えない魔術師は例外として、無属性魔術師ってのはほとんどが全属性魔術師といえる連中だ。
連中は確かに優秀だ。何せ全属性扱えるんだからな。だが、全属性使えるってことは、魔力が揺らぎまくってるか、全く揺らぎがないかのどちらかだ。そして前者のことは、精神異常者という。
じゃあ後者は何かって? 簡単だよ——人の心らしきものがないってことだ。
人当たりが良くて協調性があるのは、そうすれば何事も円滑に進むからそうしているだけ。深く付き合えば付き合うほど、何の信念もこだわりもなく、損得だけで物事を判断する人間だとわかる。
君は、生涯を共にする相手が、損得勘定だけしか基準を持たない人間で良いかい? 健やかなる時だけでなく、病めるときでも愛し続けてくれる相手でなければ嫌ではないかい? だから無属性魔術師の結婚には手を貸さない。ほっといても連中は勝手に無属性魔術師同士でくっつくからね。
ん、まだ何かあるのかい。苦情は受け付けないけど……おいおい、それを先に言ってくれよ。無属性しか使えない魔術師なのかよ。
それなら登録してもいいけど、そいつは先に専門検査を受けに行くべきだな。
多分そいつ、無属性だけしか使えないんじゃなくて、光魔術とか聖魔術とか、系統外魔術師の可能性が高い。無属性しか使えないのは、魔力の揺らぎ方を捉えきれてないだけだからだよ。だから無属性魔術師みたいに、揺らぎがないように見えるだけ。専門検査受けたらわかるはず。
もし何の魔術が得意かわかったら、是非来てくれ。なかなか系統外魔術師に会う機会は少ないからな。どんな相手との相性が良いか、しっかり調べてやるよ。
自分の時と反応が違うって? ははは、そりゃそうさ。君の友人の属性を調べることで、私の結婚相手も見つかるかもしれないからね。
ああ、そういえば言ってなかったね。私は、聖属性魔術師なんだよ。しかも治癒系ではなく、婚姻特化。縁結びにしか適正のない、超絶ピーキーな魔術師なんだよね。
だから結婚相談所なんてやってるわけだよ。人の縁を結ぶのは得意だからね。自分の縁はさっぱりなのにね。ははは……何笑ってんだよ縁切り魔術使うぞ。
そういうわけなんで、君の友人の属性わかったら必ずここへ呼んでくれ。紹介料タダにするから。何ならお金払ってもいいから。まじで頼むよ。君にも追加で縁繋ぎの魔術かけてあげるからさ。つーかむしろ来なかったら縁切り魔術を……いや、何でもないよ。冗談冗談。ははは。
——いやあ、君が話を聞いてくれる人で良かったよ! じゃあ、本当に、後生だから、頼んだね!!