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物の様な者 ~物に宿る魂の修理屋~  作者: 十八番
1章『銀髪のサクソフォンは笑わない』
3/6

03『褪せた銀色.3』

「ほう、そんな事があったのか」


長い箸で鍋をつつきながらマホが零す。豪快に肉を掬い上げ、整った顔の口を大きく広げて頬張る姿に朗らかな気持ちではいられない。


「そうなんだよ・・・・・・めっちゃ肉取ったね・・・」


頬張った肉を咀嚼し、恍惚とした表情で飲み込んだマホが、僕の気持ちなど一切意に介さず言葉を続ける。


「なんとも不思議な話だ。モノを見る目は確かな君だ、ティロの証言もあるし、寂しそうなという形容は間違っていないのだろう。本来、我々は雑に扱われようが壊されようが基本的には悲しくも寂しくもないからな」


マホの言葉に僕は頷く。

随分前に壊れた茶碗を金継ぎしたときの話だ。その茶碗には九十九神が宿っていた。

茶碗の修理は老齢の女性が依頼してきた。あまりにも酷い割れ様だったのでその事情を伺うと、喧嘩になって苛立った孫が壁に投げて割ったらしい。

そんな壊れ方をしたにも関わらず、その九十九神はずっと楽しげで、悲しむような様子はなかった。


「有り体にいえば、我々に悲しむという感情は無いのだ。いいや、極端に薄いといったほうがいいか。悲しんだところで、寂しがったところで、我々に何かできるわけでもないしな!」


そう言ってマホは再び肉を大量に掬う。僕も負けじと鍋をつつくが、猫舌なので食べる速度は圧倒的に劣る。


「そういえばティロは?」


「ん? ああ、長く本体から離れて疲れたので暫く眠るそうだ。あ! 宗一郎、私の肉を取るな!」


「そうなんだ・・っく! なんで人間の僕より大食いなんだよ!」


鍋の上で繰り広げられる箸の剣戟。己の鍋をかけた幕末の世界。負けじと繰り広げられる箸の応酬はある種の戦争だった。

〆の雑炊も平らげ(主にマホが)、僕は作業場へと戻る。店のシャッターを閉めるために外に出ようと、作業場の明かりをつけると、外に続く磨りガラスの戸の奥に、大きな人影が写った。


「ヒッ!」


なんとも情けない声が出た。すぐにお客ではないかという推論が立ったが、その影の主が大きなものを背負っていて、シルエットがとても大きく見えたのだ。


「すみません」


澄んだ声がした。女性の、それも相当若い声だ。

恐る恐る戸を開けると、そこには見覚えのある学生が佇んでいた。


「楽器の修理をお願いしたいのですが」


その凛とした顔立ちは記憶に新しい。


「いらっしゃいませ・・」


僕の視線はゆっくりと彼女から外れ、その奥の暗い表情を貼り付けた銀髪の九十九神に向けられた。

銀髪のサックスは、僕と視線が合うと小さく会釈をした。


「あの」


「あ、ご、ごめん! 楽器の修理だっけ!」


店の営業時間はすでに過ぎているが、無理に返すのも心苦しい。何より、僕はなにか訳がありそうなこの依頼を早く請けたかった。


「どうぞ、中に入って。詳しい話をしたいんだけど時間とか大丈夫?」


「はい、大丈夫です」


時計はすでに七時を回っていた。学生服そのままの、おそらく高校生をこんな時間に店内へ入れて、マホが見たらなんていうか想像に難くない。

というか、振り返ったら廊下の方からこちらを犯罪者を見るような目で見ている! 彼女の前でマホに弁明するわけにもいかずに僕はその視線を受け止めた。

応接間に案内し、簡単な粗茶を出す。作業場の暖房は切っていたので、それもつけ直す。


「それにしてもサックスの修理か・・・・必要なもの借りなきゃ・・」


「え・・・? なんでサックスだってわかったんですか?」


こんどは女子高生の不審な人を見る目が刺さる!

彼女の持つ楽器のハードケースはボックス型で外見で中に入ってる楽器は想像できない。なので、彼女は持ってきた楽器を見せずに言い当てられて少なからず驚いたようだった。


「実は昼の演奏を聴いたんだ。宝島のソロを吹いていたよね?」


彼女は一瞬目を見開いた。


「・・そうですか、とんだ偶然ですね・・・・・お恥ずかしい」


奇跡的なまでの偶然に二人で微笑した。


「僕は、雨木宗一郎と言います。失礼ですが、お名前と、ご要件を改めて伺ってもいいですか?」


「私は月ヶ瀬菜々です。今回は――」


そう言って彼女は隣に立てかけていたハードケースをテーブルの上に丁寧に置き、ロックを外してサックスを顕にした。

見事に煌めく銀色のサックス。全身が鏡のように輝き、曇一つない。間違いなく今日の昼に演奏れていたサックスだ。


「このサックスの修理をお願いしたいんです」


サックスに映った彼女の顔は、その何処かに不安を帯びていた。

ふと後ろの銀髪の九十九神が動き出す。どうやら、マホに呼ばれたらしい。依頼主の前で、僕が表立って九十九神と話すわけには行かないので、大まかな情報収集はマホに任せている。僕が話を訊くよりも、九十九神であるマホが情報収集したほうが効率が良いと言うのもある。


「拝見します」


僕は布手袋をつけて、身長にその美しいサックスに触れる。


――その瞬間に、本当は気づいていた。この依頼が僕の身に余る程の、様々な事が絡み合った難儀な依頼であることを。

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