02『褪せた銀色.2』
全力ダッシュの甲斐あって、セールになんとか間に合い笑顔の僕をティロが見る。
「良かったですね、宗一郎さん!」
「うん、色々掘り出し物もあったし最高だったよ」
小声でティロに行って、僕は今日の戦利品を確認する。
百貨店で行われていたセールは骨董品のセールだ。僕はライターと木でできたからくり金庫を買った。正直、必要なものではないが、骨董品を漁ることが唯一の趣味の僕にとって、あそこは黄金の山が積まれた宝部屋だった。
九十九神が宿っているものは無かったけど、十分質の高いものが置いてあって、伸びる手を止めるのに必死だった。
「あとは晩御飯の材料を買って帰るだけかな」
今は正午。とはいえ11月。頬を撫でる風が冷たさを吹く。
その冷たさが、僕に今日は鍋を食べるという確固たる意志を芽生えさせ、足早に最寄りのスーパーへ向かう。
「宗一郎さん! あれみてください!!」
鍋のことしか考えていなかった僕を、ティロが呼び止めた。駅周辺のちょっとした広場まで来ていて、なんだか人が集まっているのが見て取れた。
ティロが指差す方向をじっと見てみると、各々の楽器を持った学生たちが、小高い舞台の上で演奏の準備をしていた。
「わあ、どこかの学校の吹奏楽部かな」
見慣れない制服だった。深緑のブレザーに、チェックのズボン。手には煌めく楽器。
緊張している様子もあるが、それ以上に堂々としていてこれからの演奏を期待させてくれている。
「違いますよ! あれですよ、あれ!」
僕は言われるがまま視線を向けた。
「あ・・・・九十九神だ・・」
人数分用意された席。それに背筋を伸ばして座るとある学生。その隣に不自然に佇む"モノ"。
肩ほどに短く切りそろえられた銀髪が太陽に揺れて、その儚げな表情を覗かせる。
「なんだか・・寂しそう・・・・・」
ティロがこぼす。僕と同意見だったのは、意外ではなかった。それほど、彼女の顔は何かを思い詰めたようだった。隣の学生に目をやると、その手には銀色のサックスが構えられていた。その彼女もなにか不安そうな面持ちだ。それは緊張からくるものではないような気がした。
気づけば、準備が完了し、演奏が始まるまで僕はその場に立ち尽くしていた。
おそらく部活の顧問であろう強面の指揮者が前に現れ、学生たちの表情は一気に引き締まる。
程なくして、列の後部から軽快なリズムが鳴り響く。アゴゴベルと呼ばれる楽器のカンカンという音とシェーカーの音がリズムを作った。聞き馴染みのあるそのリズムで、僕はすぐになんの曲かわかった。
――宝島だ
金管楽器の弾ける音が空間に響いて、広場に音の熱が伝わった。
にぎやかで、祭りのような曲調。その曲調に周囲の心が動かされる中、僕は一つのことが気になっていた。
鳴り響く楽器の音。それは当然止まることなく、楽譜の小節を進む。
この曲には、二度サックスのソロパートが存在する。知ってか知らずか、ティロも若干不安そうな目を銀髪のサックスに向けている。
一度目のソロ、これは茶髪をポニーテールにした学生が演奏した。そして二度目のソロを数小節後に控えたタイミングで、銀色のサックスを持った少女がゆっくりと立ち上がる。
「震えてる」
少女ではなく銀髪のサックスが。演奏を、音を怖がるように。
少女はゆっくりとマウスピースに口をつけ、息を、音を吹き込んだ。演奏はとても上手だ、恐らくはその吹奏楽に属する誰よりも。だが、その音が曲調と、当人の本意と無関係に寂しげで、楽しさを忘れてしまったかのようだった。