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物の様な者 ~物に宿る魂の修理屋~  作者: 十八番
1章『銀髪のサクソフォンは笑わない』
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01『褪せた銀色.1』

よろしくね。

古来から日本では、物に神様が宿ると信じられてきた。九十九神などと呼ばれるそれらは、実のところ神聖な存在ではなく、もっと自然で人間味溢れているのだ。しがない骨董品兼修理屋を営む僕は、その事実をよく知っている。


「ありがとうございます、宗一郎さん!! これでまた私、文字が書けますっ!!!」


今しがた修理を終えた万年筆を机に置く。

視界の先では金髪の少女が狭い工房の中を踊る。手が棚にぶつかりそうになるが、幻影のようにすり抜ける。人ではありえない。よくみると少し浮いている。

そう、何を隠そう、彼女は万年筆の九十九神その人なのだ。


「直って良かったよ。これでまた笹本先生も小説が書けるといいな」


はい!と元気な声を上げ、彼女はニッコリと笑う。

万年筆を布地で包み、修理を終えたものを入れる棚へしまうため母屋へ向かう。母屋に向かう僕のその後ろを万年筆の九十九神がひょこひょことついてくる。座っているときは気づかなかったが、キレイな金髪ショートのその頭頂部はインクが染み込んだように黒い。顔には無邪気さが張り付いていて、とても活発な性格なのがひしひしと伝わってくる。


「笹本先生が取りに来るまで数日あるから、しばらくはここにいてね。古臭い家なのが恥ずかしいけど・・・・」


「いえ! そんなこと無いです! 私こういう雰囲気落ち着くのでとても好きです!」


はつらつとした元気な声が耳を抜ける。

近所迷惑になりそうだが、声も姿も他の人には見えないので、全く心配いらない。ただ、僕一人が誰もいないのに会話しているという、"危ない人"と思われる可能性がありそれだけは避けねばならない。

過去の黒歴史を少しだけ思い出して、涙目になりそうだったがなんとか堪えて居間の襖を開けた。


「おや、ソレが噂に聞く新人か」


自分の身長程の翡翠の髪を雑に床に広げて、ぐーたら寝そべる九十九神。せんべいをかじりながら、漫画を足の置き場もなくなるほど散らかす姿に目も当てられない!


「初めまして、万年筆です。これからよろしくお願いします!」


「はっはは! 元気がいいな! 私はマホだ、こちらこそよろしく頼む――と・・・宗一郎、これは違うんだ、今丁度片付けるところだったのだ」


僕の視線に気づいたマホはそそくさとせんべいの袋と漫画を片付けて弁明を図る。そのずる賢さを見ると、やはり九十九神とは言い伝えのそれと比べてよほど人間味がある。


「マホ、次散らかしたらせんべい買わないよ」


「!? はは、宗一郎。誓うぞ、私は。今までの自堕落な私とは決別だ」


菓子をこよなく愛するマホにはこれがてきめんに効く。しかし忘れた頃に誓いを破るので、その度に同じことを言っている気がする

漫画を重ねて棚に戻そうとするマホを見て、万年筆が驚いた声を上げる。


「マホさんって物を触れるんですか!?」


「ん、ああ、私はこの家だ。この家にあるものなら私は触れるし、家の中なら宗一郎以外の人間に姿を見せることもできる」


所謂、幽霊だなとケラケラと笑い、マホは片付けを終える。

マホはこの家に宿る九十九神。僕が子供の時から彼女は存在していて、この建物の前所有者である祖父のこともよく知っている。


「へぇ・・・そうなんですね! 私マホさんみたいな人、初めて会いました!!」


「ふっふふ! 人ではないがな! 君、なかなかおもしろい、名はなんという?」


「あ、そういえば名前聞いてなかったね。何か、個別の名前はあるかい?」


「あー、そういえば型名はありますけど個別名は無いですね~」


考え込むようにマホが唸り、人差し指を眉間にグリグリと押し付ける。何やら難しそうに悩む顔をしているが、その実あまり深く考えていない。


「よし、君はこの家ではティロと呼ぶこととする。ペンを意味するスティロから取った」


私はこの家なので、つまるところ私が家のルールなのだと言い添えて、マホは高らかに笑う。


「ティロ・・・・えへへ・・ティロです!」


どうやら本人のウケは良いらしい。僕もそう呼ぶことにする。


「時に宗一郎。今日は百貨店のセールではなかったか? 数日前からあれほど気合を入れていたのに、良いのか?」


マホの言葉に背筋が凍った。

冷や汗がなぜ冷や汗と言われるのか。体をつたうその嫌な冷たさを、僕の肌は身をもって体感した!


「や、ヤバイ! 修理に夢中になって完全に忘れてた・・・・! マホ、今何時!?」


「丁度13時だ」


慌てて身支度をする僕をマホはケラケラと笑う。


「ティロ、君も一緒に行ってくるといい。どうせ家にいたって暇さ」


「いいんですか? ぜひ行きます!・・・・ん? マホさんは行かないんですか?」


「ああ。私は家から離れられんのだ。まあ、家の中で色々できるかわりだな」


ひらひらと手をふるマホに、元気にお辞儀をしてティロはすっと立ち上がった。


「じゃあ、行ってくるよ! 留守番お願いね!」


「おー、行ってこ!? ま、まて宗一郎! その服装はダサすぎる!!! ジーンズに迷彩を合わせるな! 前私が選んでやった服を着ろ!!!」


僕は服に頓着がない。だが、ダサいと言われて僕の心は大ダメージ受た。

沈んだ心が重たいが、それでも早急に着替え、ティロを引き連れて百貨店へ向かうのだった。

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