そのひまわりが咲く事は無い
『なろうラジオ大賞4』参加作品です。
事前にあらすじをお読みいただければ幸いです<m(__)m>
ボールチェーンが外れてしまった『マタニティロゼット』は両面仕様で、表にも裏にも『おなかに赤ちゃんがいます』とのマタニティマークがあり、周りにプリーツが施されたひまわりの花のようなデザインだ。
この少し使われた感のあるマタニティロゼットを拾い上げた時、私は早坂さんと朱美の“お披露目会”への出席を決めた。
「来年2月にセブ島でラグーン・ウェディングするから、同じゼミ生だった皆にはその前に報告したい」
9月には夢見る瞳で話していた朱美から案内が来たのが11月末。
そしてクリスマスイルミネーションが溢れる街中をくぐって、私はその会場へ向かう。
本当は皆知っている。
少なくとも女子は…
ふたりが既に破局している事を…
そして破局の事実が知られている事を
実は朱美も知っている。
不幸の花の蜜はこの上も無く甘く…その内輪仕立てのコメディを観劇する為に
メス蜂どもは姦しく群がる。
だからこその仮装を私はする。
ボーナスをつぎ込んで買ったダイヤのプラチナリングは左の薬指。
コートを脱ぐと…
極限までふっくらかさ上げさせた胸の谷間が露出するワンピースで
牛皮トートの持ち手に付けられたマタニティロゼットを揺らし、ゆっくりと今日の主役達に近づいてゆく。
学生時代…この人をずっと目で追っていた私は…ゼミ合宿の最中、ペンションの庭に植え付けられたひまわり達の目隠しの向こうで…朱美と縺れ合っている有様に涙を落とした。
あの当時は地味で無口だった私もブラックに揉まれて…
誰にも触れられる事の無いこのやせっぽちな胸に何かを語らせることができるようになった。
「腹の中に子供がいる女にはえも言われぬ色気があるってのはホントだな」
挨拶代わりにこんな事を言う目の前の男を…私はなんで好きだったのだろう?…
薄く目を反らす朱美に満面の笑みでお祝いを言うと、彼女も幸せいっぱいの笑顔を作ってこの男の腕を巻き込んだ。
「今何ヶ月?」
「18週」
「やっぱり大変?」
「二人で旅行できるくらいに落ち着いているわ」
この日までは…殆ど憎んでいた朱美との滑稽な台本の読み合わせを終えて
私は独り、冷え切った部屋に戻る。
大丈夫!私はあなたより滑稽なピエロ…
“お腹に居ない”赤ちゃんを後期流産した不幸な女として
あなた達にとっての甘い蜜を持つ花を
ひっそりと咲かせるわ。
燦燦としたお日様の花びらの代わりに
卑下の重い頭巾を被ったひまわりは
ずっとうなだれたままで
永遠に
咲く事は無いのだから。
今回も大幅に詰めて1000字以内に収めました。
いつもの?事ながら、こういった不幸バナはスラスラと筆が進む(^^;)
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