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99.マルクス様、どうしたの?

 その日の夕食も、大食堂で第三騎士団の皆さんと一緒に食べた。

 あたたかい笑い声と美味しい料理が満ちあふれるこの場所で、大好きな騎士様(ひと)たちと過ごす時間が流れていく。

 こうしてトーリの大食堂でわいわいできるのも、あと少しね……。


 それを思うと少し寂しいけれど、この一瞬一瞬の思い出を大切にしながら、これからも聖女として頑張りましょう。

 心の中でそう決意すると、私は深呼吸をして目の前の光景をしっかりと目に焼き付けた。


「シベルちゃん、明日は街に行ってみようか」


 そんな私に、レオさんが声をかけた。


「トーリの街にですか?」

「ああ、トーリを離れる前に寄って行こうと思うのだが、よかったらシベルちゃんも一緒にどうかと」

「嬉しいです。ぜひ!」


 レオさんとは、以前にもトーリの街に出かけたことがある。

 思えばあれがレオさんとの初めてのデート……だったのよね。

 あのときのドキドキした気持ちがよみがえり、ほんのりと胸が熱くなる。


「街に行くんすか? じゃあ俺も一緒に行こっかなー」


 そんな私たちの会話を聞いていたのか、ヨティさんの明るい声が飛んできた。


「えっ!? ヨティ、君も来るのか……?」

「冗談っすよ。そんなあからさまに嫌そうにしないでください」

「い、いや、そんなことはないが!」

「殿下はシベルちゃんと二人っきりでデートしたいんすよね? わかってるっすよ。邪魔しませんて」

「まぁ」

「別にそういうわけでは……!」


 からからと笑っているヨティさんに、レオさんは熱くなっている様子。


 もちろんヨティさんが一緒でもいいけれど、本当にレオさんが私と二人きりでデートをしたいと思ってくれたのなら、ちょっと嬉しい。



「うふふふ」

「シベル」

「はい?」


 レオさんとヨティさんを眺めて幸せな気持ちでいた私に、今度はマルクス様が話しかけきた。

 彼の表情にはどこか緊張感のようなものを感じる。


「その……よかったら、後で――」

「どうしたんだ?」


 マルクス様がなにか言おうとしている途中で、その空気を感じ取ったレオさんが問いかけた。


「……いや、あの」

「マルクス様? どうかされましたか?」


 私も心配になって声をかけたけど、マルクス様は私とレオさんの交互に視線を向けると、言葉に詰まらせて俯いた。


「…………なんでもない!」


 そしてそう言い残すと、急ぎ足で食堂を出ていってしまった。マルクス様の背中が小さく見える。


「マルクス様、私になにか話があったのでしょうか?」

「……さぁ」


 レオさんも不思議そうに首を傾げる。

 マルクス様の神妙な雰囲気に、私たちはしばらくの間、彼の去りゆく背中を見送っていた。

 彼がなにを言おうとしたのか、その答えはわからないままだけど、その後ろ姿がどこか寂しげで、少し心に引っかかった。



「――アルミンはまだ子供だから酒は駄目だって言ってるだろ!」

「ちぇっ、ケチ!」

「いいからおまえはさっさと風呂に入って寝ろ」


 マルクス様のことは気になるけれど、ヨティさんと不満そうなアルミン君の声が聞こえて、私たちはもう一度そちらに目を向けた。


「……それじゃあレオさん、一緒に入りましょうよ!」

「ああ、構わないが」

「やった!」


 ヨティさんに相手にしてもらえないことで不満そうだったアルミン君だけど、レオさんの腕を引っ張って、お風呂に入りにいくことにしたようだ。


 この寮には大浴場があって、昔から訓練の後、皆さんでよく一緒に入っていたのよね。


 ……いいなぁ。


 って、なにを考えているのよ、シベル! 私は駄目に決まっているじゃない……!


 無意識に、そんなレオさんとアルミン君の後をついていこうとしていた私は、食堂を出たところで我に返り、レオさんたちとは反対側へ足を進めた。


「――シベル」

「はいっ! すみません……っ!!」

「……は? なにが?」

「あ……っ、いえ、なにも……」


 そのタイミングで名前を呼ばれて思わず謝ってしまったけれど、そこにいたのはマルクス様。


「今、少しいいだろうか」

「はい。……?」


 マルクス様は真剣なご様子だ。

 やっぱり少し緊張されているようにも見えるけど……どうしたのかしら?




「――こうして話すのは本当に久しぶりだな」

「はい、そうですね」


 静かな中庭に出て、ベンチに座る。

 マルクス様とは婚約中もあまり会話をしたことがなかったけど、一応二人でお茶をする機会はあって、そのときはいつも王子とその婚約者として当たり障りのない言葉を交わしていた。


 まるで教科書に書かれているような、台詞を読み上げるような会話は、正直楽しいものではなかった。

 だから余計に、レオさんとはいつも心の内を正直に語り合えてとても楽しく感じる。


「……王宮ではどうだ? 聖女の力に目覚めて、忙しいか?」

「それなりに……ですが、レオさんやリックさんたちが気遣ってくださいますし、楽しくやっています」

「そうか……楽しいのか」

「はい」


 気まずそうな顔をしているマルクス様。どうしたのかしら?


「なにか私にお話したいことがあるのでしょうか?」

「え?」

「お困りのことがあるのですか? 聖女の力が必要でしたらどうぞおっしゃってください」

「いや……、聖女の力が必要というわけではないのだが」

「?」


 なにか言いたそうなのに、口籠もってしまうマルクス様。

 昔は言いたいことははっきり言う性格をしていたように思うけど。


「シベル……改めてになるが、あのときは本当にすまなかった。僕はとても焦っていて、君を信じてやることができなかった」


 意を決したように身体を私のほうに向けてそう言うと、マルクス様は頭を下げた。


「そのことでしたら、もういいですよ?」

「君と二人きりで、直接謝罪したかったんだ。七年もの間婚約していたというのに、僕は君のことを全然知らなかった。知ろうともしていなかった。本当に、すまなかった」

「マルクス様……」


 マルクス様がこうして私に謝罪してくれるなんて、きっと本当に後悔しているのね。


「お顔を上げてください」

「シベル……」

「私は今、本当に幸せです。トーリに行ってからも、とても楽しい時間を過ごしていました。ですから、マルクス様には感謝しているくらいです」

「……」


 本当にそう。

 あれは間違った判断だったとわかっているけれど、私はトーリに行ったおかげで聖女の力に目覚めることができた。

 とても強い第一騎士団の方たちが近くにいてくれたし、結果的にはこうなってよかったのよ。


「……君は、兄上と婚約して、幸せか?」

「はい! とても幸せです!」


 そう。私にとってなにより一番よかったのは、レオさんと出会えたこと。

 レオさんと婚約できたこと。


「……君のそんなに幸せそうな笑顔は、見たことがなかった」

「え?」

「そうか、よくわかったよ。君は兄上と結ばれる運命だったんだな。どうか兄上とともに、この国を平和で豊かな国に導いてくれ」


 マルクス様はそう言い残すと、それ以上私の顔は見ずに行ってしまった。


 その背中には、どこか哀愁のようなものを感じた。



来週はマルクス視点です。


本日PASH!UPさまにてコミカライズ第7話が更新されています(*^^*)

7話はレオさんとのあのハプニング回です!

(しかも騎士団の中でも特にたくましいあの人の筋肉も見れちゃうからきっとシベルが羨ましがっている……)

神回ですよ〜!!( ;ᵕ;)筋肉お好きな方は絶対絶対見てください!!( ᵕ̩̩ㅅᵕ̩̩ )

なんと今なら7話まで登録不要で無料で読めちゃいます!!すごすぎる……!!

https://pash-up.jp/content/00002552

下からもいけます!

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