98.ほぼ互角ね
魔石への魔法付与は無事成功した。
それでももう少し様子を見ていくことになり、私たちはあと数日トーリに滞在することになった。
今日は、レオさんとミルコさんは領主や第三騎士団の団長様たちとお話があるそうなので、手が空いている私は騎士様たちの訓練を見学させてもらうことにした。
「光る汗に真剣な表情、剣を握っている大きな手も、たくましい腕も、騎士様は本当にすべてが格好いい……」
「……わかる。堂々とした大きな背中に、勇敢な姿勢。俺も早くああなりたい……」
「きっとなれますよ」
私の隣にはアルミン君がいて、一緒に並んで稽古を見ていた。
ああ……本当に素敵。役得です。眼福です。
思わずよだれが出そうな気がして、二人一緒にじゅるっと口元を拭った。
「……!」
「?」
思わず漏れた心の声に同調してくれたアルミン君だけど、突然我に返ったようにはっとして、私から一歩距離を取る。
「どうかしましたか?」
「違うぞ! 俺はおまえと違って、ただ騎士に憧れているだけだからな!?」
「? もちろん、わかってますよ」
もしかして、アルミン君は心の声が漏れていたことに気づいていなかったのかしら?
うふふ、可愛い。
やっぱり、アルミン君には親近感を覚えるわ。
でも、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。
騎士様は本当に格好よくて素敵で尊い存在なのだから……ああ、もっと一緒に語り合いたいわ。
まぁ、私も昔は誰にも言えず隠していたから、気持ちはわかるけど。
「兄貴、リックさん! 俺、二人の模擬戦が見たいです!」
ヨティさんとリックさんも第三騎士団に混ざって彼らに稽古をつけていたのだけど、その様子を見ていたアルミン君が思い切ったように駆け出して叫んだ。
「ええ? リックと?」
「兄貴とリックさんって、実際どっちのほうが強いんですか?」
「そりゃあ俺だよ」
「いや、俺だろ」
「おまえなんて、魔法がなかったら俺に敵わないだろ!」
「そんなことねぇよ」
「じゃあやるか!?」
「望むところだ」
「やった!」
「……まぁ」
なんだか二人とも、アルミン君にまんまと乗せられた気がするけど……。
でも私も、ヨティさんとリックさんの模擬戦を見るのは初めて。
だから、ちょっと嬉しかったりして。
「なんだ、なんだ、どうしたんだ?」
「リックとヨティが模擬戦をするらしいぞ」
「おお、それは見物だな! おーい、みんなも来いよ!」
訓練していた手を止め、他の騎士様たちも集まってきた。
「魔法はなしだからな」
「いいぜ。おまえ如き、魔法を使わなくても余裕だ」
「へっ、言ったな。後で泣くなよ」
「おまえがな」
「……!」
牽制し合うように睨み合っていた二人だけど、先に動いたのはヨティさんだった。
腰に帯びている剣を抜き、とても早い動作でリックさん目がけて振り下ろす。
「……!」
危ない、そう思って私の手に力が入るけど、リックさんもすぐに剣を抜いて受け止めた。
キン――という鋼鉄の音が辺りに響く。
「細っこい身体でなかなかやるな」
「細くねぇし! おまえが無駄にごついんだよ!」
ヨティさんは、以前ミルコさんに稽古をつけてもらっているところを見たことがあるけれど、そのときよりも動きが俊敏になっているように思う。
ヨティさんの身のこなしはしなやかで、力強さと技術のバランスが絶妙。
剣と剣がぶつかり合う音とともに、ヨティさんの動きは美しいダンスのように見える。
ああ……素敵。
「どうしたリック。おまえはやっぱり、魔法がないと駄目か?」
「は? どの口が。弟の前だから手を抜いてやってんだよ」
「なに?」
「兄貴がすぐに負けたら、アルミンがかわいそうだろ」
「……言ったな!!」
リックさんの挑発に乗って、ヨティさんは大きく剣を振りかぶった。
もしものことがあったら、私がすぐに治癒魔法を使う準備はできているけれど……。
できればお二人のどちらにも、怪我なんてしてほしくない。
……もちろん、騎士様たちはいつも命をかけて戦っているし、稽古だって真剣に取り組んでいるからこそ、ときには怪我をすることもあるでしょうけど。
第三騎士団の方たちも、アルミン君も、私も。
息をするのも忘れるほど夢中で、二人の動きを目で追っていた。
〝キン――――ッ〟
ヨティさんの剣を紙一重で躱したリックさんは、すぐに反撃の一撃を繰り出した。
皆さんの剣よりも少しだけ太くて大きなリックさんの愛剣は、ヨティさんの剣を弾き飛ばす。
……ヨティさんの、負け?
一瞬、周囲の空気が凍ってしまったと感じるほどの静寂に包まれたけど。
「……ちっ」
勝ったはずのリックさんの舌打ちが、辺りに響いた。
その直後、リックさんの頰をつーっと赤い鮮血が流れる。
「引き分けってところか?」
「まぁ、今日のところはそうしておくか」
リックさんの手にはまだ剣が握られているけれど、ヨティさんもすぐに仕込みナイフを手に取り構えていた。
やろうと思えばまだやれるという気持ちの表れでもあるのだろうけど、このまま続ければ、どこまでいくかわからない。
だからもう終わらせたほうがいいと思う。
「お二人とも、本当にすごかったです!」
ハラハラドキドキしたけど、すごかったのは違いない。
二人の剣技はまるで芸術のような美しさを持っていた。
でもその裏には熱い闘志があり、一歩も引かないという強い意志を感じた。
やっぱりお二人はとても優秀な騎士様。
間違いなく、聖女の護衛として相応しい騎士様だわ……!
「リックさん、頰を見せてください」
「あ? 別にいいって、これくらい」
「駄目です! ちゃんと治しましょう!」
ヨティさんが落ちた剣を拾っている横で、私はリックさんの頰の傷を治すため手を近づける。
「……すごい」
そうしていたら、後ろでアルミン君がぽつりと呟いた。
「二人とも、本当にすごい……!! これが第一騎士団の実力!!」
リックさんの頰の傷はすぐに治った。
アルミン君に視線を向けると、彼は目をキラキラと輝かせて、希望に満ち溢れた表情を浮かべていた。
「兄貴! リックさん! 俺にも稽古をつけてください!!」
「あー、また今度な」
「それはいつですか!」
「おまえはそこの木の棒で素振りでもしておけ」
剣の腕だけで言ったら、実力はほぼ互角。
さすがに疲れたようで、お二人の額には汗も浮いている。
「シベルちゃん」
「レオさん、ミルコさんも」
そのとき、ちょうど話し合いが終わったのか、レオさんとミルコさんがやってきた。
「どうしたんだい?」
「今、騎士様の訓練を見ていて」
「また見ていたのか」
「うふふ、とてもいいものが見られました。でももう終わります」
ちょうどレオさんも迎えにきてくれたし、いいものを見て大満足の私は、そのままレオさんと一緒に室内に戻ることにした。
ヨティとリックのやり取り書くの楽しいです(*´`)♡
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7話は16日(火)更新予定です〜!
神回なのでお楽しみにᕙ( ˙꒳˙ )ᕗ