96.俺にとってもご褒美だよ※レオ視点
夕食は第三騎士団の者たちと一緒に、大食堂で食べた。
シベルちゃんが作る料理を初めて食べる第三騎士団の者たちは、皆その美味さに感動している。
「う、美味い……!」
「なんだこれ!? こんなの食べたことないぞ!」
「なんだか力がみなぎってくる!!」
ふっ……そうだろう? シベルちゃんが作る料理は本当に美味いからな。
久しぶりのシベルちゃんの料理は相変わらず美味かったし、長旅の疲れが吹き飛んでいった。
大勢でわいわい食べる食事も久しぶりで楽しいし、ヨティもリックもワインを開けて盛り上がっている。
「二人ともいい飲みっぷりですね!」
「酒が飲めなくて騎士が務まるか〜!」
「おまえは酔いすぎだけどな」
「全然酔ってないって! ほら、リックももっと飲め〜!」
〝ハハハハハ――!〟
王宮ではこうしてみんなで食事をすることはなかなか難しいが、時々は彼らにもリラックスしてもらいたい。
「……本当に美味しいな。シベルがこんなに料理上手だとは、知らなかった」
「マルクス様も、いつもより食が進んでますね」
「ああ、これならいくらでも食べられそうだ」
「じゃあ俺の肉もあげましょうか?」
「えっ」
「ほらほら、たくさん食べないと大きくなれませんよ?」
「僕はもう大人だぞ……!?」
弟……マルクスも、シベルちゃんの料理をとても美味しそうに食べているし、第三騎士団の者たちとも仲良くやっているように見える。
それでも俺とマルクスは席が離れているということもあり、あまり会話はできなかったが。
そもそも、これまでろくに話したことがない弟と、どのように接すればいいか、俺自身もまだわかっていない。
シベルちゃんを追放した件は彼も本当に反省しているようだが、ずっと自分が王位を継ぐと思っていたのに、突然兄が立太子し、元婚約者と婚約したことを、彼が快く思っているはずがない。
たとえ自分のせいだとしても、俺さえいなければこうはなっていなかったと、考えているのではないだろうか。
その証拠に、彼はなかなか俺の目を見て話してくれない。
「――原因を追及するなら、森に騎士を派遣させるか?」
「……それは慎重に考えなければならないな」
まだ食堂で盛り上がっているヨティたちを残し、俺とミルコは今夜借りた客室に戻り、話をすることにした。
シベルちゃんはエルガと風呂に行った。
「まさか聖女の加護を付与した魔石が割れるとはな。よほど強い魔物が現れたのかもしれない」
「しかし、魔石が割れた後もそんな魔物が出たという情報はないぞ」
「そうだよな……」
魔石が割れる理由はいくつか考えられるが、聖女の加護を付与して時間が経ってから勝手に割れるということは、非常に珍しい。
聖女の魔力を注ぎすぎて魔石が耐えられなくなったわけではないだろう。
トーリに置く魔石に、質の悪いものを選んではいない。
となれば、強い魔力を有した何者かが意図的に破壊したか……あるいは魔石が耐えられないほど強いなにかを受けたか。
第三騎士団の中にわざと魔石を破壊するような者がいるとは考えにくい。
となると、魔族やドラゴンのような強い魔物が出現し、魔石が反応したのか……。
トーリの奥にあるとても広大な魔の森には、多くの魔物が存在している。
その実態は、俺たちでも把握し切れていない。
街に出てきて人を襲うようなことがあれば戦うが、悪さをしていない魔物をこちらから討伐しに行くということはなるべく避けたい。
我が国には定期的に聖女が誕生する。
聖女のおかげで数百年の間、人と魔物の間で大きな争いは起きていない。
だから、森の奥に調査に入るということにも、慎重にならざるを得ない。
「単に彼女の力が解放されたばかりで弱かったということも考えられるぞ」
「まぁな。シベルちゃんの力が安定していなかったのなら、それもないとは言えないが……」
「とりあえずは新しい魔石を用意して、様子見というところか」
「ああ……それが妥当だろう」
彼女はこの先、何年……何十年も、この国の平和のために聖女として力を使わなければならない。
俺は全力で彼女を支えていくつもりだが、シベルちゃんへの不要な負担はなるべく減らしたい。
「第三騎士団の団長にはこのことを伝えておく。第二や第一騎士団も、なにかあればすぐ動けるようにしておいたほうがいいな」
「わかった。しかしそんなことは起きないよう、祈るばかりだな」
「ああ、本当に……」
ミルコとの話を終えた俺は、シベルちゃんの様子を見に彼女が今夜過ごす部屋を訪ねることにした。
「――シベルちゃん、いるかな?」
「はい、レオさん。どうぞ」
扉を開けると、笑顔のシベルちゃんが俺を迎えてくれる。
その笑顔に、俺の心は一瞬にして癒やされていく。
「今日の夕食は本当に美味しかった。疲れていたのにありがとう」
「いいえ! レオさんにそう言っていただけると、私も元気になれます!」
社交辞令ではなく、本当に嬉しそうに笑っているシベルちゃん。
彼女はこの街にいた頃からそうだった。
いつも明るく、前向きで、俺たちを癒やしてくれていた。
たとえそれが、彼女が〝騎士好き〟だったからだとしても、心から俺たちのために頑張ってくれるシベルちゃんを、愛おしく思わないはずがない。
「お礼になにか、シベルちゃんのお願いを聞こうかな」
「え? 私のお願いですか?」
「ああ。君が作ってくれた夕食に元気をもらえたから、その礼に俺も君を元気にしたい」
「まぁ……」
俺たちは互いが支え合うことで頑張れている。
そう思って提案すると、シベルちゃんはなにか思案するように黙り込んだ後、ぽっと頰を赤くさせて小さく首を横に振った。
「ううん……いくらなんでも王太子殿下にそれは駄目よ、シベル……」
「なんだい? 言ってごらん?」
「え……っ、でも……」
心の声が口から漏れたように呟いたシベルちゃんが今なにを考えたのか、俺は知りたい。
シベルちゃんが望んでいることがなんなのか、聞きたい。
「俺はシベルちゃんの婚約者だ。なんの遠慮もいらないよ」
「……では、一つ我儘を聞いていただけますか?」
「もちろん」
「レオさんに、『頑張ったね』と言って、頭を撫でてほしいです……」
「そんなことでいいの?」
「できれば腕まくりをして、お願いします」
「ああ」
恥ずかしそうに頰に手を当てているシベルちゃんだが、そんなことくらい喜んでやるというのに。
彼女は本当に謙虚だ。
「おいで、シベルちゃん。頑張ったね、本当にありがとう」
「レオさん……」
ご要望通りに腕まくりをして彼女の頭を優しく撫でると、途端に幸せそうな表情を見せるシベルちゃん。
「レオさんからのご褒美があれば、シベルはいくらでも頑張れます……」
「ご褒美って?」
「よしよしとか、ぎゅーとか、すりすりとか……」
「なるほど」
夢心地のような顔で素直に答えてくれたシベルちゃんの身体をそのままぎゅっと抱きしめて、髪を撫でる。
「……!! レオさん……!?」
「シベルちゃんは本当にすごいよ。いつもありがとう」
「私ったら、なんて欲張りを……!」
「この時間は、俺にとってもご褒美だよ」
「まぁ……」
風呂に入ってきたばかりなのだろうシベルちゃんからは、とてもいい匂いがする。
本当に、いつも俺のほうが我慢しているということを、彼女はわかっているのだろうか?
「レオさん、好きです」
「俺のほうが好きだよ」
「私のほうがもっと大好きです」
「はは、シベルちゃんは本当に可愛いな」
この平和で幸せな時間がずっと続きますように。
彼女を胸に抱きしめながら、改めてそう強く願った。
シベルは謙虚な変ta……です( ◜ω◝ )
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めげない前向きヒロインのスカッとするお話です!(*^^*)
下からも行けます!!