93.兄弟がいるっていいなぁ
「へぇ、それじゃあリックさんは兄貴と同い年なんですね」
「ああ、まぁな」
「それなのに魔法も得意で身体もでかくて……すごいっす!!」
その日の夜。
宿を取った隣のお店で夕食をとることにした私たちだけど、リックさんと話をしていたアルミン君は自分の兄(ヨティさん)とリックさんを見比べて目を輝かせた。
「でかけりゃ強いってもんでもないだろ? 実際、剣の腕は俺のほうがリックより上だし」
「は? なに言ってんだ。俺に勝てたことないくせに」
「いやいやいや! 負けたこともないだろ! それに本気でやったらおまえ、死んでるからな!!」
「はいはい、そうですか」
「あ、信じてないな!? じゃあ本気でやってやろうか!?」
「いつでも受けてやる」
「まぁまぁ、お二人とも……!」
この二人は同い年のせいか、すぐに張り合ってしまう。
仲が悪いわけではないのだけど……。
……でも、そういえば私はお二人が模擬戦を行っているところを見たことがない。
リックさんは炎魔法が得意だし、力も強い。
でも、ヨティさんは動きが速くて剣技に優れている。
実際、どちらのほうが強いのかしら?
……うう、見てみたいわ……!!
「シベルは聖女なんだから、魔法が得意なんだろう?」
「え? ええ、そのはずだけど」
「なんか見せてくれよ!」
「ええっ? うーんと……そうねぇ」
いがみ合っている二人をよそに、アルミン君が今度は私に目を向けた。
確かに私は聖女だから人より強い魔力を持っているし、魔法が得意と言っていいと思う。
でも、考えてみたら人に見せて喜んでもらえるような魔法が思いつかない。
聖女の加護を付与したり、怪我を治したりするのが得意だからなぁ……。
「アルミン。俺が面白い魔法を見せてやるよ」
「?」
悩んでいると、リックさんがそう言ってもう一度アルミン君の気を引いた。
「見てろよ? ――ほら」
「わぁ……! すっげー!!」
私も一緒になってリックさんの手元に視線を向けると、彼の手のひらから現れた小さな炎の塊は空中で鳥の姿になり、その場で羽ばたいた。
「こんなことができるなんて……リックさんは本当にすごいですね!」
きっと魔力が強いだけではなく、器用な方なのね。
魔法はイメージする力がとても大切で、繊細なもの。
だから私も、加護をする対象者が見えていたり、対象への気持ちがより強かったりするほうがうまく使える。
「まだまだ」
「おお……!」
喜んでいるアルミン君に、リックさんも気分がよさそう。
炎の鳥が大きく羽根を広げると、今度はドラゴンのような姿に形を変え、大きく口を開いて炎を吐き出した。
もちろん、リックさんの手のひらの上で行われていることなので、誰も火傷はしない範囲で。
「すっっっげー!!」
「本当にすごいな」
「ああ、こういうのは俺も初めて見た」
レオさんとミルコさんも感心しているし、ヨティさんも素直に驚いて大きな目を見開いている。
「どうだ、面白いだろ」
「本当にすごいです……! 炎魔法、格好いいっす!! リックさん、俺を弟子にしてください!!」
「ははっ、俺は弟子なんて取らねぇよ」
リックさんが手を下ろすと、炎のドラゴンも消えた。
アルミン君は尊敬の眼差しをリックさんに向けて「すごいすごい」と、弟子入り志願している。
でも確かに、リックさんの炎魔法は本当にすごいし、格好いいと思う。
……筋肉では到底敵わないけれど、私もレオさんたちを喜ばすことができるような楽しい魔法の一つでも覚えたいわ。
リックさんのような大きな炎は出せなくても、生活魔法程度のことならできるし、イメージ力を鍛えれば、私もなにかできるかもしれない。
……あとでこっそり、練習してみましょう。
そんな決心をしながら、食事を終えた私たちは今夜の宿へ戻った。
「――それじゃあシベルちゃん、ゆっくり休んでね。おやすみ」
「はい、レオさんも。おやすみなさい」
今夜は、私とエルガさんが同室で休むことになった。
レオさんはミルコさんと。
アルミン君はヨティさんとリックさんと三人部屋だけど……二人とも喧嘩しなければいいな。
アルミン君が一緒だから、大丈夫かしら?
部屋の前でレオさんと別れて、自分のベッドに腰を降ろした私は、早速リックさんの真似をして手のひらの上で魔力を操ってみることにした。
「……あれ? うまくいかない……」
けれど、手のひらの上にほわんと現れた丸い光の塊は、リックさんがやっていたようには形を変えてくれない。
「……ううん、イメージ力が足りないのかしら?」
「シベル? なにをしているの?」
「エルガさん。リックさんのように、私も面白い魔法が使えないかと思って」
「え?」
一人葛藤して唸っている私を見て、エルガさんが不思議そうに問いかけてきたけれど。
「そんなことに無駄な魔力を使っては駄目よ。あなたは聖女なのよ?」
「……そうですね、確かに」
慣れないことに力を使うのは、少し疲れる。
エルガさんの言うように、こんなことに無駄な魔力を使って、もし今この街にとても強い魔物が現れでもしたら大変だわ。
「シベルはそんなことできなくていいと思うわよ? あなたには誰にも真似できないような、とても素晴らしい魔法が使えるのだから」
「……そうですね、ありがとうございます。もう寝ましょうか」
「そうしましょう」
優しく私を諭してくれるエルガさんは、やっぱり私の姉のよう。
きっと私に姉がいたら、こんな感じだったんだわ。
ヨティさんとアルミン君を見ていたら、兄弟がいるっていいなぁと思える。
血の繋がりはないけれど、私にも一応姉妹はいる。
義理の妹、アニカ。
……アニカは、元気でやっているかしら?
トーリに行けば、久しぶりにアニカにも会えるのね。
灯りを消してくれたエルガさんに「おやすみなさい」を言って。
そんなことを考えながら、私は眠りに落ちていった。
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