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92.トーリの魔石が?

 私が直接各地を回って魔石に加護を付与していきたい。


 その提案は、まずレオさんにしてみた。

 レオさんも同意してくれて、国王陛下にも相談してみると言ってくれた。


 陛下の許可が下りるまでの間、私にできることはとにかく一つでも多く魔石に聖女の加護を付与することと、一つでも多く上級回復薬を作ること。


 とにかく、私は聖女としてこの国のためにできることをやっておかなければ。


 ――そう思っていた矢先だった。



「え……? トーリの魔石が壊れた? 本当ですか、マルクス様」

『ああ、どういうわけか、突然な。それから魔物が頻繁に現れるようになった』

「そんな……」


 メラニー王妃に呼ばれた私とレオさんは、魔法の鏡越しでマルクス様の口から語られた話に、動揺を隠せない。


『今のところ第三騎士団だけでなんとかなっているが、このまま魔物が増え続けるのは困る。だから至急、シベルにもう一度聖女の加護を付与した魔石を用意してもらいたい』

「もちろんです、すぐに用意します……!」

「話はわかった。こちらで検討して、また連絡する」

「兄上……、よろしくお願いします」


 レオさんが答えると、マルクス様は目を逸らすように視線を下げて小さく呟き、通信が切れた。


 このお二人は血の繋がりがある兄弟だけど、わだかまりがあるままマルクス様はトーリに行ってしまった。

 だからか、マルクス様は今でも少し気まずそうにしている。


「魔石が壊れるとは……」

「すみません、私の力が足りなかったせいでしょうか」

「いや、そんなことはないと思うし、それにしても魔石が勝手に壊れるなんて……よほどのことがないかぎりあり得ない」

「……」


 トーリに送られた魔石は、特別大きくて質のいいものだった。

 私が聖女の力に目覚めてすぐに加護を付与したものだから、力が足りなかったのかもしれないと考えたけれど、レオさんの反応を見るに魔石が壊れるというのはただ事ではなさそう。


 深刻な面持ちで顎に手を当てて考え事をしているレオさんに、私はそれ以上のことは聞けなかった。




 ――そして後日、すぐに私のトーリ行きが決まった。



「急ですまない。加護を付与した魔石をトーリまで運ばせるより、直接行って見てきたほうがいいということになった。もちろん俺たちも一緒に行く」

「私は構いません! むしろそのほうが安心です」

「ありがとう」


 きっと、私が直接各地を回りたいと提案したばかりだったことも、後押しになったんだわ。

 思ったより早く陛下が許可してくれてよかった。


 私は聖女の力に目覚めたばかりでまだまだ未熟だけど、この国の人々のために少しでも力になりたい。

 だから私にできることがあるなら、全力で頑張りたい。


 それに、魔石がどうして壊れてしまったのか、どのように壊れてしまったのか、この目で見て確かめたい。


 きっとレオさんも同じ気持ちなのでしょう。



 そういうわけで、すぐにトーリへ出立するための準備が進められた。


 一緒に行くのはミルコさんと、私の護衛であるヨティさんとリックさんに、エルガさんと――。


「アルミン君も一緒に?」

「本っ当にごめん……! 邪魔はしないようにきつく言い聞かせるから!!」


 一人で王都まで来たとはいえ、また一人で領地に帰すわけにもいかず、ヨティさんが王都を離れるのに迎えがくるまで一人で待たせておくのも不安ということで、アルミン君も一緒に連れていくことになった。


 そしてそのままトーリの帰りにミュッケ領に寄って、送り届けていこうと。

 少し遠回りになるけど、ミュッケ領にはまだ新しい魔石を届けていない。

 だからついでに、直接魔石に加護を付与していくこともできる。


「私は構いませんよ」

「ありがとう、シベルちゃん」


 ミュッケ領は元々魔物の出現が少ない地域だけど、アルミン君が焦っていたのが私は少し気になっていた。

 初めて魔物を目にしたせいかもしれないけど、私たちが直接行けるなら安心だわ。


「でも、絶対に一人で行動しないでね? トーリは今、王都とは比べものにならないほど危険だと思うので」

「わかった! シベルのことは俺が守ってやるから、安心しろ!!」

「まぁ」


 とても頼もしくそう言ったアルミン君に、ヨティさんがすかさずゲンコツを落とす。


「こら! 口の利き方!」

「なんだよ、兄貴だって馴れ馴れしくしてるだろ!」

「俺とおまえを一緒にするな」

「なんでだよ!!」

「うふふ、大丈夫ですよ。それに私から離れなければ、危険なことは起きませんから!」

「へぇ、さすが聖女様」


 ヨティさんとアルミン君は本当に仲のいい兄弟なのね。

 私には弟がいないけど、まるで弟ができたみたいでアルミン君は可愛い。


 それに、確かにトーリはとても危険なところかもしれないけど、私が一緒ならきっと大丈夫!




 そうして、私たちは準備が整うと、すぐにトーリへ向けて出立した。


 辺境の地であるトーリへは、馬車でも数週間かかる。

 大型の馬車にみんなで一緒に乗って、途中の街で宿を取りながら向かう予定。


 リックさんのお師匠様、ヴァグナー様が使っていたような転移魔法が付与された魔石があれば、もっと早くトーリまで行くことも可能なのでしょうけど。

 この国にはまだ、転移魔法ほどの優れた魔法を使える人はいないのではないかしら。

 少なくとも私は使えない。


 ……でも、私は魔力が強いはずだから、練習すればいつか使えるようになるかしら?

 私もリックさんのように、バーハンド王国に留学して修行したい。


 なんて、今更無理でしょうけど。

 でも、いつかもう一度ヴァグナー様にお会いして、魔法を教えてもらえたらいいなぁ。


 そんなことを考えながら、トーリへ向かう道中の一日目を過ごした。



シベル、再びトーリへ……!!

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