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91.なんだか親近感がある……

「いたいた、シベルちゃん。やっぱりここだったか」

「レオさん。それにミルコさんも」

「……!!」


 そんなことを考えていたら、私を探していたのか、レオさんとミルコさんがやってきた。

 私が暇になるとよくここで騎士様の訓練を見ているということは、レオさんにはすっかりばれている。


「……レオ団長と、ミルコ副団長……」

「?」


 そんなお二人を見て、アルミン君が小さく震えている。


「あれ? 君は確か――」

「お久しぶりです! レオさん! ミルコさん!! アルミンです! 俺のこと、覚えていますか!?」

「ああ、やっぱりヨティの弟のアルミンか。もちろん覚えているよ、元気そうだな」

「はい!!」


 レオさんの返答に、アルミン君は目をキラキラと輝かせて頷いた。

 とても嬉しそう。


「それより、どうしておまえがこんなところにいるんだよ。父上からはなにも聞いていないぞ?」

「兄貴たち第一騎士団が王都に戻ってきたって聞いたから」

「え?」

「約束したじゃないか! 王都に戻ってきたら俺を騎士団に入れて鍛えてくれるって!」

「……あ」


 ヨティさんの質問に答えたアルミン君の言葉に、レオさんたち三人は顔を見合わせた。


「確かにそんな話をしたな」

「俺を弟子にしてください!!」


 表情を変えずに静かに呟いたミルコさんに、アルミン君は声を張る。


「ちょっと待て、おまえも聞いているだろうが、その〝レオ団長〟は、レオポルト殿下だったんだぞ? 今では王太子殿下だ!」

「知ってるよ。でも、本当にすごいですね! 俺も第一騎士団に入ってミルコさんのように強くなるんで、稽古をつけてください!!」

「……」


 まったくめげる様子を見せないアルミン君に、三人はまた顔を見合わせた。


「確かに以前ミュッケ領に立ち寄ったとき、「俺たちが王都に戻ったら騎士団で待っている」と君に言ったが……」

「あれはおまえがもっと大きくなってからの話だ! そうっすよね?」

「ああ、そのつもりだった」

「俺はもう十一です! 剣も握れます!!」

まだ(・・)、十一だろ!」


 困っている様子のレオさんに、ヨティさんは弟をなんとか諭そうとしている。

 王宮騎士団に入団できるのは、早くても十五歳からだったはず。

 レオさんとミルコさんは十五歳になってすぐ騎士団に入団したようだけど、アルミン君はまだ入団できる年齢じゃない。


「まずは紳士として知識を学んで、体力作りが先だ。十一歳じゃ王宮騎士団の見習いにだってなれないぞ」

「……王都の学園に通いながら、稽古をつけてもらうくらいいいでしょう?」

「それだって、入学するのは来年だろう?」

「……それじゃ、遅いんだ」

「は?」


 ぎゅっと拳を握って呟いたアルミン君に、私たちは一斉に視線を向ける。


「俺は早く強くなりたいんだ!! 魔物に負けない力を付けたい!!」

「……どうしたんだよ、急に」


 焦っているようにも見えるアルミン君に、ヨティさんは表情を変えた。


「ミュッケ領にも、魔物が現れた」

「それは報告を受けているが……街の傭兵団だけで討伐したと聞いたが?」

「でも、もしこのまま魔物が増え続けたら、あの街のみんながやられてしまう……!!」

「……」


 レオさんの言葉を聞いても、アルミン君は焦っている様子だ。

 トーリほどではないとはいえ、魔物はこの国のあちこちに存在しており、各地から出現報告を受けている。

 それぞれの街には傭兵団があり、傭兵団だけで対処しきれなくなれば王宮騎士団が派遣されるのだけど、今のところ大きな被害は報告されていない。


「まさかおまえ、魔物を直接見たのか?」


 涙ぐみながら力いっぱい言ったアルミン君に、ヨティさんがはっとした。


「俺も将来騎士になって魔物討伐に行くんだ。傭兵団の戦いを見ておいたほうがいいと思って、討伐についていった」

「馬鹿野郎! 子供のおまえが危ない真似をするな!」

「俺だって父上に稽古をつけてもらっているし、もう剣を握れるって言っただろ!」

「本物の魔物を見て、危機感を覚えたからこうしてやってきたんだろ?」

「……そうだよ」


 このままでは兄弟喧嘩になってしまう。

 ヨティさんは弟を心配して言っているのでしょうけど、アルミン君にはまだそれがわからない。

 アルミン君だって、街を守りたいという思いからの行動だろうし……。


「各地の傭兵団や領主とは定期的に連絡を取り合っている。ミュッケ領も、今のところは騎士団の応援がなくても大丈夫だと聞いている」

「でも、手遅れになってからでは遅いじゃないですか……」

「……」


 レオさんの言葉にも、アルミン君は納得しなかった。


 それは確かにそうよね。もしものことがあってからでは、遅い。

 聖女だって、人の命を蘇らせることはできないし、遠く離れていてはすぐに助けることができない。


 だから、アルミン君の気持ちもわかる。

 自分が育ってきた思い出深い街だもの。大切だし、心配よね。


「だからって、稽古をすればすぐに強くなるわけじゃない! 日々鍛錬を積み重ねて強くなっていくもんだ。だからそう焦ったってしょうがないだろう?」

「……でも」

「あなたはとても勇敢なのね」

「え?」


 ヨティさんに諭されて俯いたアルミン君に、私はそっと声をかける。


「一刻も早く強くなりたくて、ミュッケ領からこうして一人やってきたのよね?」

「……ああ」

「それだけでもすごいじゃないですか。気持ちはもう既に立派な騎士様ですね! ヨティさん、とりあえず今日のところはアルミン君を休ませてあげましょう」

「シベルちゃん……」

「そうだね。アルミン、騎士団の寮に案内するから、一旦落ち着け。話はそれからだ」

「騎士団の寮!? わかりました!!」


 レオさんの提案に元気を取り戻したように目を輝かせたアルミン君に、なぜだか私はとても親近感を覚えた。




「――ありがとう、シベルちゃん。君のおかげでアルミンは納得してくれたようだ」

「どうでしょう。明日になったら、また稽古をつけてほしいと言ってくるかもしれませんが」

「……まぁ、確かにな。しかし、俺のほうからもミュッケ伯爵に伺いを立てておこう」


 騎士団の寮に大喜びしているアルミン君のことはヨティさんに任せて、私はレオさんとともに部屋へ戻ることにした。


 でも、今日のアルミン君の言葉を聞いて、いっそ私が直接各地を回れたらいいのにと思った。


 傭兵団で防げているとはいえ、各地には魔物が現れる。

 王都にまで魔物が来ることはないからといって、その事実を忘れてはいけないわ。


 聖女はいるだけでその地に平和をもたらすとされているけれど、私の力ではまだまだ広範囲に力を及ぼすことができない。


 ミュッケ領は王都からそれほど離れた土地ではないけれど、私の力ではまだまだ届かないのね。


 だからこそ聖女は王都にいるべきなのはわかるけど、少しだけなら王都を離れてもいいと思う。


 王宮には聖女の加護を付与した魔石がたくさん置いてあるし、少しくらい離れたからって、すぐに魔物に襲われることはないと思う。


 それなら、私が定期的に国中を巡って、直接魔石に加護を付与していったほうが効率がいい。


 ……この国は広い。

 私の目の届かないところでもたくさんの人々が暮らしているし、魔物に怯えている人が大勢いるのかもしれない。


 私は聖女なのに、なんて微力なのかしら。


 この国のすべての人を救えるかはわからないけれど、少しでも多くの人を救いたい。


 王都が平和だからといって、私に「暇だ」なんて言っている時間はないんだわ。


ヨティの弟というか、シベルの弟みたいなアルミン君です。よろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] でも彼多分筋肉ないよ?(゜д゜)
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