89.今でも一番の騎士様
「ほんっとうに、オスカー団長には参るよな!」
「まったくだぜ、俺たちのことをろくに知りもしないくせに」
「まぁ、あの人も悪気があって言ったわけではないのだろうがな」
その日の夕食後。
私とレオさんとミルコさん、それからヨティさんとリックさんの五人で、レオさんのお部屋でお茶をしていたら、話題はすぐにオスカー様のことになった。
ヨティさんとリックさんの怒りはまだ収まっていないようだ。
レオさんはそれを察して彼らを部屋に招いたのだろう。
ここなら、誰にも話を聞かれる心配はない。
「殿下も、俺たちがシベルちゃんの護衛に相応しくないと思ってるんすか!?」
「いや、まさか。君たちのことは本当に信頼している」
「そうっすよね! 元第二騎士団の団長だったか知らないっすけど、第一のことに口出ししないでほしいっすよ!」
「そうだな。第一騎士団の団長はミルコ副団長がなればよかったんだ。で、俺が副団長」
「なに言ってんだよリック、副団長は俺だろ?」
「俺より弱いのにか?」
「なんだと、やんのか!」
「望むところだ」
「ヨティさん、リックさん、落ち着いてください……!」
すぐに張り合おうとしてしまうお二人を宥めると、隣でレオさんが溜め息をついた。
「ミルコは俺の側近でもあるから、これ以上負担を増やすわけにはいかない」
「俺は構わないぞ」
「……とにかく、オスカー殿も悪い人ではない。とても真面目で慎重な人なんだ」
「完璧主義って感じっすよね」
第二騎士団の団長だったオスカー様を第一騎士団の団長に招いてから、まだ日が浅い。
第二騎士団には既に新しい団長と副団長がいるし、今更戻ってもらうわけにもいかないのだろう。
ましてやオスカー様は、本当に優秀な騎士様なのだろうし。
「そういえば、オスカー団長はシベルちゃんに氷魔法を使ったんすよ」
「なに!?」
「まぁ、攻撃したわけじゃなくて、俺たちの反応速度を見るためだったんすけど」
「そうか……そんなことを。シベルちゃん、怪我はなかったか?」
「はい、平気です。ヨティさんの言うように本気で攻撃されたわけではないですし、お二人もすぐに守ってくださいました」
それを聞いてレオさんはほっと息を吐いた。
「オスカー殿には俺からも改めて言っておく。少々融通が利かないところはあるが、真面目で優秀な人だ。そこはわかってほしい」
「……まぁ、殿下がそう言うなら」
「俺も、殿下の指示には従いますよ」
「ありがとう、二人とも」
なんとか二人を宥め今日はもう休むよう言うと、その場には私とレオさんだけが残った。
「さすがレオさんですね。あんなに不満そうだったお二人を納得させてしまうのですから」
「うーん……納得してくれているといいのだが」
苦笑いを浮べながら改めて深く息を吐くレオさん。
ヨティさんもリックさんも口ではああ言っていたけど、オスカー様の実力は認めているのだろう。
オスカー様は、とても真面目な方。それは私にもわかる。
護衛に向いていないと言ったのだって、決して二人のことが嫌いなわけではなくて、私の身を案じてのことだろうし。
「レオさんとミルコさんも、昔オスカー様にお世話になったと言っていましたよね」
「ああ、俺たちが騎士団に入団したばかりの頃、あの人に鍛えられたよ」
「そうなのですね」
「確かに昔から厳しい人ではあった。おかげで俺もミルコも強くなったのだと思うが」
そうか。やっぱり、厳しいけど悪い人ではないんだわ。
「私自身がもっとしっかりすれば、オスカー様も少しは安心してくれるでしょうか?」
「はは、シベルちゃんはそのままで大丈夫だよ」
「ですが、やはり私ももう少し鍛えて筋肉をつければ……」
そう言って腕を曲げ、頼りない力こぶを作った私に、レオさんは笑いながら手を伸ばした。
「王宮内にいる間は安全だろうし、もしなにかあっても俺が必ず君を助けるよ」
「……レオさん」
私の頰に触れ、優しい視線を注いでくれるレオさんは、私の中では今でも一番の〝騎士様〟
格好よくて、たくましくて、とても頼りになる、世界一素敵な婚約者様。
「ありがとうございます……私も、レオさんのことを精一杯お守りします」
「ありがとう、シベルちゃんはとても頼もしいよ」
「いいえ、私なんて、騎士様に比べたらまだまだです」
私をぎゅっと抱きしめて愛おしそうに頭を撫でてくれるレオさん。
目の前にはたくましい胸筋……これは、ご褒美ですね!?
そう思いながら、今日も遠慮なく顔を埋めてすりすりさせてもらった。





