80.ここは天国……?
少ししてレオさんの「いいよ」という声に振り向けば、そこには海水用の下穿き一枚の姿で立っている、レオさんたちの姿。
ああ……。
太陽が、とても眩しい……。
「シベルちゃんも、おいで?」
「はい……どこへでもついていきます……」
レオさんはたくましい肉体を露にして私に手を差し出した。胸元には私がプレゼントしたペンダントが、今日もぶら下がっている。嬉しい。
その手に掴まって、レオさんの眩しすぎる胸筋や腹筋を見つめる。
ああ……ヴァグナー様、本当にありがとうございます。眼福です。
ヨティさんとリックさんは子供のようにはしゃいで海に入り、互いに水をかけ合っている。
リックさん……。やっぱりとてもたくましい……!!
あの筋肉は本物よね? すごいわ。もっと近くで見たい……。なんて。
普段は決して見ることができない贅沢すぎる光景に、ここは天国……? なんて思ってしまう。
頑張ってよかったわ。ありがとうございます、神様……!!
残念ながらミルコさんはいつも通りの涼しい顔で服を着たまま、腰に剣を帯びて日傘をさしているエルガさんの隣にいる。けれど、あの格好は暑くないのかしら?
……違うわよ、決してミルコさんも脱げばいいのに。なんて、そんな欲張りなことを考えているわけじゃないわ! ただ、純粋にミルコさんも暑いのではないかと思って……!!
「シベルちゃんも、足だけ入ってみるかい?」
「……はい!」
レオさんの言葉に、私は力いっぱい頷く。
波打ち際まで来るだけでも少し涼しく感じるけれど、靴も脱いでいない私は濡れるわけにはいかない。
「どうぞ」
「……ありがとうございます」
だけどレオさんがそう提案してくれると、私の前でしゃがんで靴を脱がしてくれた。
片足ずつ足を少し持ち上げると、レオさんは自分の肩に掴まるよう、私の手をそこに置く。
レオさんの、生肩……!! たくましい……!!
「……」
「……シベルちゃん、立ち上がってもいいかな?」
「はっ! 私ったら、ついいつまでも……!! 失礼しました!!」
ついそこをさわさわと撫で回していた私が慌てて手を離すと、はにかみながら立ち上がるレオさん。
馬鹿シベル……。
「いや、いいんだけどね? シベルちゃんならいくら触ってくれても。でもその代わり、できれば俺のことだけ見ていてほしいけど」
「あっ……すみません……!」
リックさんたちにも視線を向けていたことが、しっかりばれていた。
うう……シベルの欲張り……。
「それじゃあ、ゆっくりね」
「はい……!」
レオさんは私の靴を置くと、手を引いて波に近づいていく。片手はレオさんに掴まらせてもらいながら、もう片方の手でスカートの裾が濡れないよう軽く持ち上げて、私もそっと波に足を寄せる。
「まぁ……!」
ザザン――と音を立てて足下に波がかかった。
冷たくて、気持ちがいい……!
白くて綺麗な砂に、透き通った美しい海。
私もヨティさんたちみたいに、飛び込みたくなってしまう……! けど、さすがにそれは駄目よね。いくら他に人はいなくても、レオさんたちがいるし。そんなはしたないこと、淑女としてできないわ。
「とっても気持ちいいですね、レオさん!」
「ああ、本当に」
レオさんだって王太子なのだから、こんなことはなかなかできることではない。
この国には綺麗な海があって、ヴァグナー様がプライベートビーチを所有していたおかげよね。
ヨティさんだって、リックさんだって、こんな機会はそうないと思う。
足をつけるだけでもとても気持ちよくて、気分が上がる。
しかもすぐ隣にいるレオさんも、少し離れたところにいるヨティさんとリックさんも、下穿きと同程度の穿き物一枚なのだから……!
たくましい肉体が丸見えで、私にはそれだけでとてつもないご褒美。
考えたのはリックさん? この国では貴族の方もこうしてよく海で遊ぶのかしら? どちらにしても、素晴らしいです。ナイス案です、リックさん。
ヨティさんも結構暑がっていたから、本当に楽しそう。
「……楽しそうですね、お二人も」
ヨティさんとリックさんは、同い年だからか仲がいい。よくヨティさんが張り合うようにリックさんに絡んでいるところも見るけれど、今も子供のように遊んでいて、二人は髪まで濡らしている。
……眼福です。
「シベルちゃん、また余所見しているな」
「すみません、つい……!」
「ついって……君は正直だなぁ」
目の前にこんなに素敵なレオさんがいるのに……!
でも素敵すぎて、こんなに近くで直視できない……!!
声をかけられたからレオさんに視線を向けたら、やっぱり眩しすぎるレオさんの身体がすぐ近くで目に入って、頭に血が上っていく。
「君が幸せそうなのはいいけど、ちょっと妬けるな」
「……っ!!」
レオさんから顔を逸らしてしまったら、くいっと手を引かれて身体が傾いた。
そして私はあっさりと、レオさんの胸の中に収められる。
勢いがついたままレオさんのたくましい胸筋に頰をぶつけ、驚いて視線を上げたらレオさんの格好よすぎるお顔。
目の前には胸筋。視線を下げたら腹筋。
ああ……ちょっと、ちょっと待ってください……これはもう……、贅沢すぎて言葉もありません。
レオさんの口角が持ち上がったのを見て、これは確信犯だと悟る。
「もっと俺のことを見てほしいなぁ。俺じゃ不満かな?」
「違います……! レオさんは素敵すぎて……、この距離はちょっと、刺激的すぎです……!」
赤くなっているだろう顔を覆うように手で隠す。……でも指の隙間から少しだけ覗き見たら、レオさんと目が合った。
「なに言ってるんだ。そろそろ慣れてもらわないと、困るよ」
「え!?」
それは、なぜですか……!??
なんてとても聞けずに勝手にその理由を想像して、私は顔から火を噴いた。
「シベルちゃん!?」という焦ったようなレオさんの声が、遠くのほうから聞こえた気がした。
シベル節全開のご褒美回!!