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08.何か事情があるのでしょうか?

「シベル、本当に部屋で休まなくて大丈夫?」

「はい、私はとっても元気です」


 洗濯物を干し終わって少し休憩していたら、エルガさんが私の体調を気にかけて声をかけてくれた。


「そう。それならいいけど、無理はしないでね」

「はい! ありがとうございます」


 むしろ、元気をもらえたくらいだ。


 エルガさんは王都からやって来てすぐに働き始めた私の体調を心配してくれたけど、本当に大丈夫なのだ。


 倒れそうになった理由は恥ずかしくて言えないけど……。



 休憩したら、今度は昼食作りに取りかかる。

 けれど昼食作りは、朝と夜よりも楽だった。


 というのも、昼間はほとんどの騎士たちが仕事で外に出ているから。


 いるのは非番の方と、この建物の護衛の方くらい。


 あと、団長であるレオさんは基本的にはここにいることが多いらしい。

 魔物が現れたら、率先して動くみたいだけど。


 だから朝や夜のようにものすごい量の食事を作らなくていいのだ。


 今日の昼食は、サンドイッチだった。


 新鮮なレタスとトマトは、とってもみずみずしい。


 それに塩味の効いたハムやチーズ、たまごを挟んだ。


 簡単に食べられて美味しいなんて、これを考えた人は天才よね!



「うん! とても美味い!」

「シベルちゃんは料理上手なんだな、レタスがしゃっきしゃきだ!」


 レオさんのグラスにミルクを注いでいたら、子供みたいな無邪気な笑顔で私に向かってそう言ってきた。


「ふふ、ありがとうございます。でも、レタスは洗ってちぎっただけですよ」

「そうか、ではちぎり方が上手いのだな!」

「うふふふ」


 レオさんったら。


 それは冗談で言っているのかしら?


 そう思ってとりあえず笑ってみたら、他の騎士たちも「本当だ、いつもよりしゃきしゃきするぞ!」などと言い始めた。


 ……今日のレタスは本当にいつものより新鮮だったのかしら?




 騎士たちの食事が終わった後に、私もエルガさんと一緒にサンドイッチとミルクをいただいた。


「ここの方たちは皆さんとても優しいですよね」

「そう?」

「はい。エルガさんも、レオさんも、他の寮母さんたちも」


 まだレオさん以外の騎士の方とはあまりお話ができていないけど、昨日の夕食は皆で一緒にいただいた。

 皆さんとても明るく私を受け入れてくれたし、料理も喜んでくれた。


 嫌味を言う人は、一人もいなかった。


 よく考えれば、それだけでも今までの環境よりよほどいい。


 なりたくなかった王太子妃にならなくて済んだ。

 私のことが好きではなかった継母や義妹とも離れられた。


 大好きで憧れだった騎士の方たちのお世話をする仕事に就けて、しかも感謝してもらえて、先輩たちはとても優しい。


 本当にありがたいわ。


「……ここにいる人は皆それぞれ、特別な事情があるのよ」

「え?」


 そんな感傷に浸っていた私に、エルガさんが静かに言った。


「私もそう。私は実の両親が作った借金を返すために、売られるも同然でここに来たの」

「実のご両親に……?」

「そうよ」


 エルガさんには、そんなことが……。


「けれど、私はあの頃の生活よりも、今のほうがずっと好き。お金はほぼすべて実家に送金されているけど、貴女が言うようにここの人たちはみんな素敵な方だから」

「……そうですね」


 そうか。そうよね。やっぱり、辛かったのは私だけじゃないのよね。

 けれど、皆ここに来て、それなりに幸せになれているのかもしれない。


 確かに大変なこともあるのかもしれないけど、皆の顔を見ていたらなんとなくわかる。


 この状況を嫌がっている人はいないと思う。


 そしてそれはきっと、団長であるレオさんがとても配慮してくれているからというのも、少なからずあるような気がする。


「レオさんはとっても気さくで話しやすい方ですよね! それでいてどこか品も感じるので、きっと育ちがいいのでしょうね」

「……そうね」


 レオさんの顔が浮かんだから、何気なくそう言ってみた。けれど、エルガさんは切なげに目を細めてしまった。


 ……?

 どうしたのかしら。

 もしかして私、失礼なことを言ってしまった?


「あの、エルガさんもとても優しくて、話しやすいです! それに、とても綺麗ですし――」

「……違うのよ」


 そんなつもりで言ったわけではないのだと慌てた私に、エルガさんは何か含みのある表情で小さく微笑んでから、唇を固く閉じた。


 どうしたのか聞いてみたい気もするけれど、なんとなく、これ以上深く聞かないほうがいいような気がした。



 レオさんにも、何か事情があるということだろうか……?



「……私も、早く皆さんに馴染めるようもっと頑張りますね」

「だから、あまり無理をしては駄目よ?」

「はい!」


 膝の上で手のひらをぎゅっと握ってそう言った私に、エルガさんは伏せていた視線を上げて、くすりと笑ってくれた。


「でもなんだか私も、貴女が来てから元気をもらえている気がするわ」

「本当ですか?」

「ええ、シベルの作るご飯が美味しいからかしらね」


 もし本当にそうだったなら、私も嬉しい。




お読みいただきありがとうございます。

皆様のおかげでランキング2位まで上がれました!

たくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。

まだ始まったばかりで、事情を書いていくのはこれからになりますが(今回も含みを持たせてすみません!)、現在せっせと続きを執筆中です。

今後もお付き合いいただけると幸いです。


皆様お一人お一人のブックマークや評価、あたたかい感想に背中を押していただいております!感謝です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レタスはちぎって一遍水につけるのが正義・・・。 栄養とかが逃げるという話もありますが、白い汁が苦くて苦手・・・。
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