78.スイカに元気をもらった
それからの数日も順調に魔石へ聖女の加護を付与していった。
小さいものから始めたため、だんだん大きな魔石に加護を付与しなければならなくなったので、一日に四つペースで行うということは厳しかったけど、なんとかすべての魔石に加護を付与することができそう。
けれど、滞在日数は残り一日。つまり、明日の午前中には、私たちは国に帰るために出立しなければならない。
「――ついにあと一つですね……!」
「ああ、でも少し休んでからにしよう」
加護の付与が済んだ魔石をレオさんが箱に詰めてくれる。
それを見て「ふぅー」と大きく息を吐いた私は、気合いを入れて最後の一つを机に置いた。
残っているのは、レオさんの拳くらいの大きさの魔石。これくらい大きなものに加護を付与するのは時間がかかるし少し大変なのだけど、当然その分とても大きな効果も得られる。
だから最後まで手を抜かずに頑張らないと……!!
「休憩しよう」と提案してくれたレオさんと目を合わせたところで、扉がノックされて二人でそちらに顔を向けた。
「シベルちゃん、順調っすか?」
「ヨティさん」
やってきたのは、ヨティさんとリックさんだった。
二人ともシャツの胸元のボタンをいくつか開けて、腕まくりをしている……!
「それにしてもこの国は暑いっすね! シベルちゃん、冷えた果物をもらってきたから、一緒に食べよう!」
「まぁ……!」
ヨティさんとリックさんの手には楕円形で緑色に黒い筋の入った大きな瓜が乗っていた。
「スイカね!」
「そっすよ。切ってもらってくるんで、隣の部屋で待っててください」
「ありがとうございます、ヨティさん、リックさん!」
この国は、私たちの国よりも少し気温が高い。
だから確かに暑いのだけど、そのおかげか私たちの国ではあまり見ない果物も充実している。
ここ数日、ヨティさんとリックさんが表通りのお店まで行って、そのような珍しい果物を調達してきてくれるのが、私の楽しみとなっていた。
「んーっ! 甘くてとっても美味しいわぁ!」
「そうだね」
皆でテーブルを囲い、エルガさんが切ってくれたスイカをいただいた。
食べやすいようにと、エルガさんはわざわざ私のために一口サイズに切り分けて、種を取り除いたものを用意してくれた。その真っ赤な実をフォークで刺して一つ口に含むと、しゃくしゃくと気持ちのいい音が鳴って口いっぱいに甘みと冷たい果汁が広がる。
「本当、美味いな」
「お土産に何個か持って帰りましょうか」
「お。それはいいな」
レオさんとリックさんの会話に頷きながら、隣にいるレオさんにふと目を向ける。
レオさんたち男性は、大きめにカットされたスイカの皮の部分を持って、直接赤い実にかじりついている。
王宮内ではナイフとフォークを使って食事をするレオさんだから、そんな食べ方を見るのは貴重。でも今はプライベートな時間だし、いるのは私たちだけだから、なんだかトーリにいた頃を思い出す。
「……」
それにしても……。
大きく口を開けてスイカにかじりついているレオさんは、なんだかそれだけで男らしく見えてしまう……!
ヨティさんも、リックさんも、ミルコさんも……!!
「美味いな」と言いながら、口元についてしまったスイカの果汁を親指で拭ったレオさんを見て、私はごくりと唾を呑む。
なんだかとっっても色っぽいんですけど……!?
「……ん? どうしたんだい、シベルちゃん。食べないのか?」
「はっ! いえ……、とっても美味しいです!!」
「……うん?」
「レオさん、手が汚れてしまいましたね、お拭きします」
「ああ、ありがとう……」
エルガさんが用意してくれていた、濡れたタオルでレオさんの指を拭きながらちらりと視線を上げると、目が合ったレオさんが微笑んでくれる。
「……っ」
「……?」
至近距離でレオさんの口元に目がいって、こんなときに先日の口づけを思い出してしまった。
せっかくこんなに冷えたスイカを用意してくれたのに、私の身体は余計に熱くなっていった。
*
スイカに元気をもらったので(色んな意味で)、あと一つ、頑張ることにする。
「シベルちゃん、最後のは今までで一番大きい。だから無理はしないでね」
「はい! ありがとうございます」
再びレオさんと隣の部屋に移動して、気合いを入れる。
レオさんの握り拳くらいある魔石を前に、私は意識を集中し、目を閉じて胸の前で手を組み、祈る。
〝この地をお守りください〟〝皆が平和に、幸せに暮らせますように〟
魔石に加護が付与されたかの感覚は、もうすっかりわかるようになったけど、やっぱりこの魔石は今までのよりも大きいから時間がかかりそう。それに、スイカで元気をもらったとはいえ、連日いくつもの魔石に加護を付与し続けているせいか、少し疲労が溜まってきているのも、事実。
今もこの部屋にはレオさんがいてくれているけれど、邪魔をしないように静かに見守ってくれているということが、目を閉じていてもわかる。
レオさん……。この一週間、毎日ずっと、私に付き添ってくれてありがとうございます。
レオさんは正妃であるメラニー様とはいい関係ではないのに、私が気にしているのを悟って、魔法の鏡を作ってもらうことに快く協力してくれた。
一つも嫌な顔をせずに、力になってくれた。
メラニー様のために始めたことだけど、今回のことで私はもっともっとレオさんのことが好きになった。
それに、人としてもとても尊敬する。レオさんはこの国の王となる人物として相応しいと、改めて思う。
私もそんなレオさんの妻として、聖女として、相応しい人になりたい――。