74.お好きなだけ、どうぞ!!
「今日もお疲れ様、シベルちゃん」
「ありがとうございます、レオさん」
今日も魔石への魔力付与を頑張った。
少し大きめの魔石に三つ付与しただけで、あっという間に一日は終わってしまった。
それから夕食を食べ終わった私はレオさんに声をかけられ、レオさんのお部屋で少しお話しすることになった。
王宮のお部屋のものよりも小さなソファに二人で並んで座る。
今日一日頑張った、ご褒美タイムである。
「疲れてはいないかい?」
「はい! 無理のない範囲でやらせていただいているので、大丈夫です!」
「そう。それならいいが、連日頑張りすぎているからそろそろ疲労が溜まっていないか?」
「大丈夫です! こうしてレオさんとお話しできたら、疲れなんて全部飛んでいきます!」
「そうか」
「それから、リックさんも魔力を分けてくれるので!」
「……へぇ、そう」
にこやかだったレオさんの顔が、一瞬ぴくりと引きつった。
「そういえばリックの友人に、なにか酷いことを言われたんだろう?」
「酷いことは言われてません」
「……それにしてはリックは随分熱くなっていたな」
「そうですか?」
「シベルちゃんの手を掴んで、君になにか言っていただろう?」
「……確かに、私よりリックさんのほうが怒っていましたね」
でもリックさんは私の護衛だから、それも当然かもしれない。ちょっと裏口から顔を出しただけだけど、私も怒られたんだったわ。
「シベルちゃんとリックは仲がいいよな……」
「……? そうですか?」
「リックは魔力が強いし、君の役に立ってくれているのは知っているが……少し妬けるな」
「……!」
やっぱりレオさんは、リックさんに焼きもちを焼いているの!?
「私は、リックさんよりレオさんのほうがもっと仲良しだと思っています!!」
「……うん、それはそうだけど。というかそうじゃなかったら、さすがに嫌だな」
レオさんに身体を向けて力強くそう言ったら、レオさんもこっちを向いてくれた。
と思ったら、レオさんの長い腕が伸びてきて、私の身体はレオさんの胸の中にぎゅっと収められる。
「レ、レオさん……!!」
「俺もシベルちゃんに魔力を分けてあげられるようになりたい」
「えっ」
「リックから魔力をもらうとき、手と手を合わせるだろう?」
「は、はい……」
「誰にもシベルちゃんに触れてほしくないな……」
「……!!」
な、なんて可愛いのでしょう! レオさん……!!
そんなにはっきり焼きもちを焼いてくれるなんて……! 胸がきゅぅぅぅんと締めつけられる。
ああ、なんて贅沢なことでしょう……!!
「シベルはもう、この先一生レオさん以外の方には触りません!!」
「……冗談だよ。これからも遠慮なくリックから魔力を分けてもらって」
レオさんの胸板から顔を上げて目を見てそう誓った私に、レオさんは嬉しそうに笑いながらもはにかんだ。
「私は、レオさんとこうしてくっつくことで魔力以上のものをもらえます! ですので、今後はレオさんから――」
「ありがとう。その気持ちだけで嬉しい。ごめんね、大人気ないことを言ってしまったな。本当に気にせず、疲れたときは魔力を分けてもらうといい」
「レオさん」
「シベルちゃんのこともリックのことも信じているから、本当に大丈夫だ。引き止めてすまない。今夜はもうゆっくり休むといい」
「……」
私は、毎晩こうしてレオさんに抱きしめてほしかったのだけど。そうすれば本当に魔力をもらう以上に、元気になれるから……。
「わかりました」
でも、毎日抱きしめてもらうなんて、贅沢すぎるわよね。シベル、調子に乗っては駄目よ。
「……あ、でも」
「?」
そう思ってソファから立ち上がった私の腕を、レオさんが座ったままくっと引いた。
「…………」
「おやすみのキスは、してもいい?」
もう、してます。レオさん。
腕を引かれた勢いで、私はレオさんの膝の上に座ってしまった。
というのに、レオさんはそのまま私を膝に乗せて、唇に優しくキスをした。
「ももももも、もちろんです……!! お好きなだけ、どうぞ!!」
「それだと君を部屋に帰せなくなってしまうから、一回だけにしておくよ」
「…………まぁ」
残念。私は帰らなくてもいいのですが。
「ふっ……シベルちゃんは本当に可愛いな」
「!」
あからさまにがっかりしてしまったかしら。
そんな私を見て小さく笑ったレオさんは、私の髪を優しく撫で、サイドの毛を耳にかけた。
「レオさん……」
わざとなのだろうか。
レオさんの長い指が、私の耳に触れてくすぐったい。
でもそんなことには気づいていないような涼しい顔でじっと見つめられて、私の鼓動はうるさく鳴りっぱなし。
「愛してるよ、シベルちゃん。早く君を俺のものにしたい」
「……わ、私はもう、レオさんのものです……!!」
「そうだね」
ふっと笑ったレオさんが、ふと真剣な表情を見せたと思ったら美しい瞳がゆっくり細められていく。
でも私はレオさんの膝の上に乗っていて、私の手はレオさんのたくましい胸板に置かれていて。
レオさんの大きな手が私の頰を包み込むように撫でたと思ったら、くいっと頭を引き寄せられてもう一度唇が重なった。
「……シベルちゃん。目、閉じて」
「す、すみません……! レオさんのお顔があまりに美しすぎて、ずっと見ていたくて……!」
「うん、俺もだよ」
「……!!」
まだ目を閉じていなかったけど。
背筋を伸ばして顔を寄せてきたレオさんに磁石のように引き寄せられた私は、ただただぎゅっと目を閉じて甘い口づけに必死で応えた。