73.リックさんは人気者ね!
その日のお昼過ぎ。
休憩中の気分転換でお店の裏口から出て外の空気を吸っていた私の前に、数人の女性たちがやってきた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
私よりは少し上だと思うけど、まだ若い女性が、五、六人。
皆さん綺麗にお化粧をして、とてもおしゃれに着飾っているけれど、なんだか怖い顔で私をじろじろ見ている。
「リック様、いるかしら?」
「え?」
「リック様がお戻りになられていると聞いて、来たのです!」
この方たちは、この国でのリックさんのご友人?
「リックさんでしたら今――」
「リックさん? ちょっとあなた、リック様に随分馴れ馴れしいのね」
「そうよ! 見ない顔だけど、あなた誰!? リック様と一緒に来たの!? どんな関係よ!」
「ええっと……」
私を鋭く睨んで迫ってくる女性たちに圧倒されて、一瞬言葉を詰まらせる。
〝リックさんは私の護衛です〟なんて正直に答えちゃ、駄目よね?
「まさか、リック様の恋人……!? リック様、ついに婚約させられたの!?」
「やだ!! 嘘でしょう!? こんな頭の悪そうな子と!?」
「まぁ」
頭の悪そうな子。
それは私のことね?
「違いますよ。私はその……ただの友人です」
「なぁんだ、びっくりした!」
「そうよね! まさかリック様がこんな子供っぽくて色気のない子と婚約するはずないわよねぇ!」
「そうよそうよ。それで、リック様はいる!? 会いたいんだけど!」
「あっ、はい。リックさんは――」
リックさんは人気があるのね。それも、皆さんとてもお気の強い方ばかりだわ。私も少し見習いましょう!
そう思って振り返った私の頭に、ポンッと大きな手が乗った。
「おいおい、誰の頭が悪そうだって?」
「リック様……!」
その途端、女性たちが悲鳴に近い声を上げた。
「リック様! お会いしたかったですわ!」
「もう、戻っていらっしゃるなら手紙をくれたらよかったのに!」
「今夜空いてます? お食事に行きません?」
「ずるいわ! わたくしの家に招待いたしますので、ぜひ!」
「ああん、わたくしの家に来てくださいまし!」
すごい。リックさんは手紙で戻ってきたことを知らせたわけじゃないのね。
それなのにこの国に来ていることをどこからか知って、会いに来たということね。
リックさんは人気者ね!
「はぁ……」
すごく歓迎されているのに、リックさんからは大きな溜め息。
「悪いけど。俺は今夜もこのシベルと一緒に過ごす約束をしているから、おまえらと遊んでる暇はない」
「――ええっ!?」
「こ、こんな女と……!?」
「では、明日はどうですか? 明後日でも……!」
「明日も明後日もその先も。シベルと過ごすから無理」
「そ、そんな……!」
つらつらと語られるリックさんの言葉に、女性たちはショックを受けている様子。
確かにリックさんは私の護衛だから嘘ではないけれど……。せっかく久しぶりに戻ってきたのだから、一日くらい遊んできてもいいのに。
「リックさん」
「ああ、それから。こいつは頭の悪い女でも色気のない女でもない」
それを伝えようと思ってリックさんの名前を呼んだけど、頭の上に置いたままになっている手に力を込めて、私の声に被せるように大きな声を出すリックさん。
リックさんの言葉に、女性たちが「うっ」と声を詰まらせる。
「たとえ頭が悪いのはそっちだとしても、言われて傷つくかどうかを想像できないほど馬鹿じゃないから言い返さないし……おまけにこいつ、寝顔がすげぇ可愛いんだぜ?」
「……っ!!」
「まぁ……」
リックさんの言葉に、彼女たちは顔をしかめて唇を噛み、黙り込んだ。
それにしても寝顔が可愛いだなんて……。きっと移動中の馬車で寝てしまったときに見られてしまったんだわ。恥ずかしい……。
「わかったらもう来んなよ」
「あ……っ! リック様!」
耳元で「行くぞ」と囁かれた私は、そのままリックさんに腕を掴まれて強引にお店の中へと連れ戻された。
「リックさん、せっかく来てくれたご友人の方なのに、いいのですか?」
「あ? あんなの友達じゃねぇよ」
「え? でも……」
「それより悔しくないのか? あんなこと言われて。もっと怒れよ」
「……? なにがですか?」
「なにがって……頭が悪そうだとか言われて、腹が立たないのか? 聖女様に対して失礼な態度だったし」
「ああ……、でもあの方たちは私が聖女だと知らないわけですし……」
「だとしてもだなぁ!」
私より怒っているリックさん。
「別に私は気にしてませんよ。そう思ったから言っただけでしょうし、なにもなくなっていませんし、怪我もしていません」
「……そういう問題じゃないと思うが……もういい」
〝本当におまえってやつは……〟と呟きながら溜め息を吐いたリックさんだけど、その顔はなんだか嬉しそうだった。
「それから、一人で勝手に外に出るな。出るなら声をかけろ。この国では知られていないとはいえ、シベルは聖女なんだ。もっとその自覚を持て!」
「はい、すみません」
「いいか、もし誘拐でもされたら、おまえはものすごい高値で売り飛ばされるぞ?」
「まぁ……」
「それは冗談……でもないが、とにかく一人で外に出るな!」
「はい」
私が頷いたのを見て、リックさんはようやく「よし」と言って掴んでいた私の腕を解放してくれた。
「シベルちゃん」
「あ、レオさん」
「どうした、なにかあったのか?」
リックさんと私のやり取りをどこから聞いていたのかわからないけれど、慌てたようにこちらに駆け寄ってくるレオさん。
「いいえ、なんでもないんです」
「……」
心配かけないようそう言った私だけど、レオさんはリックさんになにがあったのか問うような視線を向けた。
「彼女が一人で外に出て、俺の知人女性に絡まれてしまって……」
「なるほど……」
申し訳なさそうに答えたリックさんの短い言葉に、レオさんはなにがあったのか察したようだ。
「俺もミルコと話をしていてシベルちゃんから離れていたからな。すまない」
「いいえ! 私が勝手に外に出てしまったので……! というか、本当に大したことはありませんでしたので!」
「うん……」
私の言葉に頷いてはくれたけど、レオさんはやっぱりリックさんとアイコンタクトを取っていた。
久しぶりの更新になってすみません!!(忘れないで……( ;ᵕ;)
色々と落ち着いてきたので、これからは思い切り開けずに更新していこうと思いますᕙ( ˙꒳˙ )ᕗムキッ