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72.俺は大人だ※レオ視点

 シベルちゃんが聖女の加護を魔石に付与する作業を行っている間、俺は同じ部屋で静かに彼女を見守っていた。


 俺にできることはなにもない。

 できることなら代わってやりたいと思うが、聖女はシベルちゃんだ。これはシベルちゃんにしか行えないことだ。


 ならばせめて彼女の近くで、なにかあったらすぐに動いてやれるように寄り添っていたい。

 だから邪魔にだけはならないよう、静かに座って彼女を見守った。


 シベルちゃんは、いつだって優しくて一生懸命な女性だ。

 トーリにいた頃からそうだったし、真の聖女として認められ、王太子()と婚約してからもそれは変わらない。


 シベルちゃんはいつだって〝シベルちゃん〟なのだ。

 偽聖女だろうと、真の聖女だろうと、将来の王太子妃だろうと。


 彼女はどこかふわふわして見えるが、自分をしっかり持っている。俺はそんなシベルちゃんのことが、やはり愛しくて仕方ない。


 だから今回も、メラニー妃がマルクスと離れて悲嘆にくれていることを知った彼女が、メラニー妃のために行動したことも、俺は力になってやりたいと思った。


 正直、俺はメラニー妃が苦手だ。

 子供の頃から、メラニー妃が俺を疎ましく思っていることには気づいていたし、正妃派の者から俺と母が嫌がらせを受けていたのがその主な理由だ。


 弟が生まれたと聞いたとき、俺は嬉しかった。だが、俺は弟にろくに会わせてもらうことができなかった。


 俺と弟に何か罪があるのか? とは思ったが、成長するに連れて大人の複雑な事情をなんとなく呑み込むようになっていき、俺と母は父が用意してくれた別邸からはあまり出ないようになっていった。


 その後騎士団に入団し、第一騎士団の団長となり、トーリに派遣されたときは第一王子(邪魔者)は辺境の地に追いやられたのだと思ったこともあったが、むしろ充実した毎日を送れるようになっていた。


 弟と同い年のヨティは俺に懐いていて可愛かったし、他の部下たちとも厚い信頼を築き、辺境の地を守りながら彼らと本当の家族よりも厚い関係を築いていくのが楽しかった。


 だからこのまま王位継承争いには加わらず、騎士として生きていこうと思っていた。

 父と母には時々手紙を書いたが、王宮へは数年の間戻ることはなかった。だから当然、メラニー妃とも会うことがなかった。

 今後も関わるつもりはなかった。


 だが、俺は王太子となった。

 シベルちゃんとともにこの国を支えていく覚悟を決めた今となっては、それでよかった。


 しかし、俺が王太子となったことで、どうしてもメラニー妃と関わらなければならないこともある。


 そして、シベルちゃんはマルクスと婚約中、メラニー妃とは良好な関係を築いていたのだ。


 シベルちゃんが俺の母とも仲良くしてくれたのは嬉しかったが、俺と婚約したからといって、シベルちゃんとメラニー妃のこれまでの良好な関係が崩れてしまうのは悲しいことだ。


 だから、俺はシベルちゃんの笑顔のために力になりたい。


 この国の王妃のために動いたわけではない。

 シベルちゃんには秘密だが、俺はそんなに心の広い、できた男ではない。




 リックの師匠であるらしい、大魔導師ユルゲン・ヴァグナーに魔法の鏡を作ってもらう代わりに、シベルちゃんが魔石に聖女の加護を付与することになった。


 初日からとても張り切って、四つの魔石に聖女の加護を付与したシベルちゃんだったが、四つ目はさすがに少し時間がかかったし、疲労が覗えた。


 だから彼女が好きな蜂蜜レモンのドリンクを蜂蜜多めでエルガに作ってもらい、急いでシベルちゃんが待っている部屋に戻ったのだが……。


 閉めて出たはずの部屋の扉が開いており、中からリックの声が聞こえて、俺は思わず歩みを止めてしまった。


『――だからって延々とやられたら俺の魔力までなくなってしまう。そうなったら回復するのに時間がかかって、シベルの護衛ができなくなるだろう?』

『……そうですね。リックさんの魔力をすべて奪うのはよくないです』

『そうだ。だからどっちみち今日は終わりだ。身体もゆっくり休めろ』

『はい』


 なんの話をしているのかわからなかったが、リックの口調が俺の前で話しているときとは違ったから、一瞬嫌な想像をしてしまった。だが、思えばリックは本来、こっちが素なのだ。

 シベルちゃんの前では素で話しているのだろうとすぐに呑み込んだが、〝シベル〟と呼び捨てまでしているとは思わなかった。


 ……俺でもしたことがないのに。



 その日の就寝前、そのことを思い出してもやもやしていた俺は、頭を冷やすために裏庭に出て風に当たることにした。

 シベルちゃんのことになると、自分が嫉妬深い男になってしまうという自覚はある。


 裏庭に足を進めた俺の視界に、ベンチに座った赤い髪の男が映る。リックだ。


「――リック」

「殿下」


 声をかけると、俺に気づいたリックが立ち上がった。


「ああ、そのままでいい」

「は」


 リックはこう見えて真面目な男だ。

 座り直したリックの隣に、人一人分の距離を空けて俺も座る。


「……」

「……」


 なんとなく、気まずい空気を感じているのは俺だけだろうか?

 リックは王太子となった俺に忠義を誓ってくれた。

 その気持ちに嘘はないだろう。この男は、目的なく嘘がつける性格ではない。


「リック。君は時々、シベルちゃんと距離が近い」


 無言でいるのも気まずくなった俺は、この胸のもやもやを彼に打ち明けることにした。


「……あれは俺の魔力を彼女に分けていただけですよ」

「知ってる。シベルちゃんに聞いた。だが、呼び捨てにもしていたな。……俺でもしたことないのに」

「……」


 我ながら、小さいことを言っている自覚はある。

 シベルちゃんが許しているならいいだろうと思う反面、やはり妬けるのだ。

 こういうところか? こういうところが駄目なのだろうか、俺は。


「失礼しました。しかしそれも彼女が望まれたことですよ。自分の前では素で話してほしいと。ですが、殿下が不快になるのでしたら今後はシベル様とお呼びしましょうか」

「いや、いい。シベルちゃんがそれは望まないだろうし……」

「では、皆と同じように」

「……これまで通りでいい」

「……はあ。……?」


 俺の言葉に、リックからは腑に落ちないような返事が返ってくる。


 わかっている!! これはただの嫉妬なのだ!

 本性がばれた今、リックは最初の頃のように〝シベルちゃん〟と呼びづらいのだろう、わかっている。

 リックが正式な場ではきちんと立場をわきまえる男だということもわかっている。

 だからいい。俺はそういうことを気にするような小さな男ではないはずだろう……!?


「……レオポルト殿下」

「今日はご苦労だったな。シベルちゃんに魔力を分けてくれてありがとう」

「……いいえ」

「これからも期待しているぞ」

「はい」


 やはり腑に落ちていないような表情で短く返事をしたリックを残して、俺は王太子として寛容な態度を取った。……つもりだ。


 ……ふっ。俺は大人なのだ。確かにリックはたくましい男だが、シベルちゃんが理想としているのは俺なのだ。だから、気にすることはない……!


 自分にそう言い聞かせて、俺は先に部屋に戻ることにした。


 寝る前に、シベルちゃんの顔を見てこようかな。




焼きもち焼きな男、レオ。

作者は書いていてとても楽しい。そしてお久しぶりです!な感じの更新になってすみません……( ;ᵕ;)



★お知らせ★

昨日(1/19)から、「イケボ騎士」の小説2巻が電子書籍として配信となりました!(*^^*)

内容は、なろう掲載中の番外編を加筆修正したものです!

半分ほどが書き下ろしで、内容は1巻より甘々です!ウェブ版よりかなり甘いです!!

活動報告に書影を載せましたので、よろしければ覗いてみてください!甘々できゅんとします!!(*´`)♡

また、イケボ騎士のコミカライズが決定しました!!( ;ᵕ;)

続報もお待ちいただけるととても嬉しいです(*^^*)


騎士好き聖女の書籍化作業も順調です!

間もなくお知らせできることがあるかと思いますので、もう少しお待ちいただけると嬉しいです!!( ;ᵕ; )

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― 新着の感想 ―
[一言] やっと追いつきました! 私も筋肉好きです。シベルちゃんの気持ちわかります!! イケボの方も今から行ってきます! 作者さま、趣味合いますね(笑)
[一言] 心が広いように見せるのに必死wwwwwww こうですねわかります
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