71.レオさんのハグがあれば
「ごめんね、お待たせ。……ああ、リック。来ていたんだな」
「はい」
レオさんはリックさんを見て一瞬眉根を寄せたけど、リックさんがすぐに一歩引いて軽く頭を下げると、そのまま私に視線を戻して歩み寄ってきた。
「エルガが蜂蜜レモンのドリンクを作ってくれたよ。シベルちゃん好みに、甘くしてもらった」
「わぁ! ありがとうございます!」
レオさんは持ってきてくれたポットの中身を部屋にあったカップに注ごうとしてふと手を止め、私に目を向けた。
「?」
「なんだか元気そうだね、シベルちゃん」
「はい。実は今、リックさんが魔力を分けてくれたのです」
「魔力を?」
「はい!」
少し驚いたように目を開き、リックさんと私に交互に視線をやるレオさん。
「俺は皆さんよりは魔力も多いし、魔法の勉強もしていますから」
「ああ、そうか……そんなことができるなんて、すごいな」
「いいえ。俺にできることはこれくらいですので」
「いや、今回は君がいなければなにも始まっていないんだ。感謝している」
「恐れ入ります」
レオさんとリックさんの会話を聞きながら二人の様子を窺っていると、レオさんが私に身体を向けて言った。
「では、部屋でゆっくり休もうか。そのほうが落ち着けるだろうし」
「はい。そうしましょう」
「ではな、リック。君も夕食まで休んでくれ」
「……は」
リックさんは短く返事をして、軽く頭を下げた。
レオさんは私に手を差し出して「行こうか」と言った。
「それではリックさん。ありがとうございました」
レオさんに向かって頭を下げているリックさんの表情は覗えないけれど、彼にお礼を言ってレオさんと一緒にその部屋を出た。
向かったのは、レオさんが使っている部屋だった。
「俺の部屋でよかったかな」
「はい、もちろんです」
部屋に入ると、レオさんに誘導されて私は先にソファに座る。
レオさんは部屋の棚からカップを二つ取り出してソファ前のローテーブルに置き、蜂蜜レモンのドリンクを注いだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
二人でソファに並んで、一緒にいただく。
「美味しいです」
「うん、よかった」
レオさんが言っていたように蜂蜜が多めのようで、とっても美味しい。
「……リックとなにを話していたんだい?」
「え?」
カップを置いたと思ったら、レオさんが少しだけ表情を硬くして私に視線を向けた。
「特になにも……。私に魔力を分けてくれただけですよ」
あと、私がレオさんに愛されているというようなことを言ってもらったけど……それを本人に言うのは恥ずかしいから、言わなくてもいいわよね?
「へぇ……そうか」
「はい。でもリックさんって本当にすごいですよね。おかげで私はすぐ元気になりましたし、あんなにすごい魔導師様が師匠というのも、すごいです」
「……そうだね」
魔力を人に分けられるなんて、知らなかった。そもそも、そういう必要に迫られたこともない。リックさんはきっと、そういうこともこの国に留学している間に学んだのだろう。本当に、とても頼りになる人だわ。
「……レオさん? どうかしました?」
「シベルちゃん。今、リックはたくましくて頼りになるって考えてなかった?」
「えっ?」
じっと私に窺うような視線を向けてくるレオさんの言葉は、半分は正解なので、すぐに否定することができなかった。
「やっぱり。リックはミルコと同じくらいたくましい騎士だからな。そのうえ魔力も多くて魔法も得意だし」
「……それはそうですけど」
少し大袈裟に唇を尖らせているレオさんは、もしかして焼きもちを焼いているのだろうか。
なんて可愛いのでしょう……!!
レオさんは、意外と焼きもち焼きなところがあるのかもしれない。
「俺は魔力を分けてやれるほど強くはないが、君を元気づけることはできると自負している」
「もちろんです! 私はレオさんと一緒にいられて幸せ――」
聖女は幸せであればあるほど強い力を発揮できるのだ。だからレオさんと一緒にいたら幸せだと伝えようと思ったら、言葉の途中で私の身体はレオさんのたくましい腕に抱きしめられた。
「無理はしてほしくないが、疲れたらいつでも俺が癒やしてあげるからね」
「……レオさん」
甘く耳元で囁かれて、よしよし、と頭を撫でられる。
そうすれば私の身体は一気に熱くなって、胸の中から力が湧き上がってくるような気がした。
「レオさんのハグとよしよしがあれば、私はいくらでも魔力付与できちゃいそうです……!!」
「……はは、それは嬉しいけど、今日はもうおしまいだよ?」
「はい……」
それなら、明日のために……!
そう思いながら、私は遠慮なくレオさんのたくましい胸筋に頰を押し当ててすりすりさせてもらった。
クリスマスなので(?)甘々なシーンを更新!(たまたまです…)
シベルちゃんメリークリスマス!\(^o^)/