07.これはもしかして、騎士の方々が着ている……
朝食の後片付けを終えたら、次は洗濯だ。
調理場の担当ではなかった先輩たちが洗ってくれた洗濯物を、私はエルガさんと一緒に干すことになった。
当然だけど、洗濯物もすごい量だわ!
気合いをいれてやらないと、大変ね。
よし、やるわよ!!
「……これも手慣れているのね」
「はい。でもこんなにたくさんは初めてなので、さすがに時間がかかっちゃいそうですね」
言いながらも手を動かして、どんどん洗濯物を干していく。
食事もだけど、こんなにたくさんの量を数人の寮母だけでこなしていくのは本当に大変だっただろうなと思う。
先輩方はすごいわ。
私も早く、一人前の寮母として皆さんのお役に立てるよう頑張らないと!
「……十分早いと思うけど」
「そうですか?」
「ええ、これも貴女の担当にしてもいい?」
「はい! もちろんです!」
エルガさんは優しい先輩だ。
きっと、新人は褒めて伸ばそうとしてくれる方なのね。
ふふ、ありがとうございます!
期待に応えられるよう、私は頑張りますよ!!
でも、高いところにある竿にタオルを干そうとした私は、その高さに背伸びをして、勢いを付けてかけなければならなかった。
エルガさんは私より背が高い。
だからあまり苦になっていないようだけど……身長の低い私には一苦労。
私ももう少し背が高く成長したかったわ。
今からでも間に合うかしら?
とか考えながら、足手まといにならないよう、精一杯背伸びをして高い位置の竿にも洗濯物を干していく。
籠から取った布をバシッと広げ、さっと干す。
何事も素早くこなすよう意識しているのは、私は妃教育で自分の時間があまり持てなかったからだ。
家に帰れば自分の分の食事の用意と、洗濯、それから定期的に部屋の掃除もしなきゃならなかったから。
その他にも格好いい騎士様が出てくるロマンス小説も読みたかったし、王宮では隙を見て騎士団の訓練をこっそり覗いたりもしていた。
エルガさんに「早い」と言ってもらえたのは、それのおかげかしら?
そう考えつつひたすら洗濯物を干していたけれど、自分の手元を見てふと思った。
……もしかして先ほどから干している同じデザインのこの白いシャツって……
騎士の方々が着ている…………
ああ――
「えっ、シベル? どうしたの、大丈夫!?」
「ごめんなさい、ちょっと目眩が」
顔に熱が集まって、くらっとよろめいた私に、エルガさんがすかさず手を伸ばしてくれた。
倒れたりはしなかったけど。
「やっぱり疲れているのよ。今日はもういいから、部屋で休んで?」
「いいえ、それとは関係ありません」
「え?」
「……なんでもないです」
明らかに女性用のサイズではない。というか、ここは騎士団の寮。
騎士の方って、こんなに身体が大きいのね……!!
わかってはいたけれど、実際にその服を手にすると、とても実感が湧く。
肩幅も、腕の長さも、胸板の厚さも、当然だけど私とは全然違うことがこのシャツからよくわかる。
「いきなり張り切りすぎたのよ。貴女が一人増えただけでも私たちは楽になったのだから、焦らないでいいのよ」
「はい、ありがとうございます。でも本当に大丈夫です。すみません……」
「?」
騎士の方が地肌に直接着ているであろうシャツを見て興奮してしまいました。なんて言えない。
変な子だと思われて、ここから追い出されてしまうかもしれない。
そんなの嫌。
せっかく見つけた私の楽園が……!
ぶんぶんと頭を横に振って、私は邪念を取っ払った。
駄目よ、シベル。これは仕事なの。ご褒美じゃないの。真面目にやりなさい!
自分にそう言い聞かせて、再び手を動かす。
大丈夫。これでも私は王子の元婚約者。聖女見習いだった女。
欲望に負けたりなんて、しないんだから!