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68.たまには本気で言ってくれてもいいのです

「ご挨拶が遅れたご無礼をお許しください。仰る通り、私はレオポルト・グランディオです。ですが、今回は王太子としてではなく、一人の人間としてお願いに参りました」

「私もです……! ある人のために、どうしても魔法の鏡を持って帰りたいのです……!」


 レオさんに続いてもう一度お願いする。


「師匠、お願いします」


 そして最後にリックさんが頭を下げたのに続いてミルコさん、ヨティさん、エルガさんも深く頭を下げた。それを見たヴァグナー様は、「はぁ」と短く息を吐く。


「リック……お前がここまで頼むんだ。作ってやってもいいが……その代わりこちらの要求も呑んでもらわないとな」

「はい、当然です」


 ヴァグナー様の言葉には、レオさんが答えた。いくら請求されるだろう。

 やはり、魔法の鏡はかなり高額なのだろうか……。


「では、こちらは聖女の加護が付与された魔石を用意してもらおうか」

「聖女の加護の魔石を……?」


 けれど、ヴァグナー様が要求してきたのは金銭ではなかった。


「ああ、この国には聖女はいないからな。その分魔法が発達しているが、皆が強い魔力を持っているわけではないし、魔物の被害が多い町もある。それに、聖女の加護が付与された魔石の使い道はそれだけではないしな。まぁとにかく、聖女の加護が付与された魔石にはとても価値があるというわけだ」


 なるほど。それは確かに、お互いにとっていい話だ。


「喜んでお引き受けします!」

「……では、この魔石に頼む」


 レオさんに代わって私が頷くと、ヴァグナー様が後ろの棚から箱を持ってきてテーブルに置いた。


 大金を請求されるより、よかったかもしれない。


「これすべてに聖女の加護を付与してもらえるか?」


 レオさんとリックさんとともに箱の中を覗く。そこには大小様々な魔石が入っていた。二十個以上ありそうだ。


「こんなに……!? お待ちください、こんなにたくさんは、まだ彼女への負担が大きすぎます!」

「いいえ、レオさん。大丈夫です。最近は力も安定してきていますし、これくらい平気です!」


 私より先にレオさんが声を上げてくれたけど、それを私が制した。


「しかし……!」

「大丈夫です。魔法の鏡だって簡単に作れるものではないはずです。ヴァグナー様、どうかよろしくお願いいたします」

「……うむ」


 この地には一週間ほど滞在する予定だ。魔法の鏡もそれくらいあればできるとのことなので、よかった。私も、そのくらいあればきっと大丈夫。


「この建物の部屋を使ってくれて構わない。リック、案内してやれ」

「はい、師匠。ありがとうございます!」



 ヴァグナー様の言葉に、リックさんは私たちを店舗裏へと案内してくれる。


「魔石への付与は、この部屋を使うといい。俺もよくここで魔法の練習をした」

「はい、ありがとうございます」

「それから、師匠は寝泊まりも自由に使っていいと言ってくれたのだと思いますが、どうしますか?」


 私に言った後、レオさんに向けられたリックさんの言葉に、レオさんとミルコさんが顔を見合わせ、頷き合った。


「それではお言葉に甘えさせてもらおうか。安全な(・・・)宿屋までいちいち戻っていては時間がかかる。魔石の数が多いから、シベルちゃんの負担は少しでも少ないほうがいい」

「ありがとうございます」

「わかりました。では、部屋にも案内します」


 リックさんに続いて今度は二階に上がると、そこには空き部屋がたくさんあった。一部屋一部屋はそんなに広くないけれど、休むには十分だと思う。


「それじゃあシベルちゃんとエルガは奥を使ってくれ」

「はい」

「あれ? 殿下はシベルちゃんと同じ部屋じゃなくていいんすか?」

「ヨティ……!」

「婚前旅行って、部屋は別々っすか?」

「別々だ!」

「そうなんすね」


 カラカラと笑いながら、ヨティさんはいつものように冗談を言った。

 レオさんはすぐに否定してしまったけど、たまには本気で言ってくれたりしないかな……なんて思ったりする。


 って、駄目よシベル。これは遊びではないの!

 婚前旅行とはただの建前で、目的は魔法の鏡を作ってもらうことなのだから。

 そのために私は魔石に加護を付与することに集中しないといけないのよ……!!


 ……でもせっかく他国に来たのに、皆さんはずっと私に付き合ってここにいる必要はないわよね。


「観光する時間がなくなってしまうかもしれません……。せっかくですので、皆さんは出かけてくださいね!」


 ここは結界が張ってあるので、きっと安全だ。それに、ヴァグナー様はおそらく本当にとても強い魔導師様だと思うし。


 だから本心でそう言ったのだけど、皆さんは顔を見合わせて小さく息を吐きながら口元に笑みを浮べた。


「君を置いて行くわけないだろう?」

「ですが、せっかく来たのですし……」


 代表するように口を開いたレオさんは、私に一歩歩み寄ると穏やかに微笑んで言った。


「またいつでも来ればいい。それに、結婚後は新婚旅行もある。本番はそちらなのだし、俺はシベルちゃんから離れないよ」

「レオさん……」

「俺も、シベルちゃんの護衛という仕事で来てるっすからね」

「俺もだ」

「私もよ」

「俺はレオの側近だからな」

「皆さん……」


 レオさんに続いて、ヨティさん、リックさん、エルガさん、ミルコさんが優しく頷いてくれる。


「聖女の加護を付与するのはシベルちゃんにしかできないことだが、他のことは全力でサポートする。だからなんでも言ってくれ」

「ありがとうございます。レオさん、皆さんも」

「シベルちゃんのことは俺が見てるから、君たちは遠慮なく観光に行ってくれて構わないぞ?」

「あ、やっぱりそう言って、本当はシベルちゃんと二人きりになろうとしてるんすね。だったら同じ部屋に泊まればいいじゃないっすか」

「だから、それとこれとは別だろう……!」


 赤くなるレオさんを見て、案外図星かもしれないと思った。


 私は同じ部屋でも構わないのですよ? レオさん。


 だけどこの方たちは本当に、家族みたいであたたかくて、大好き。

 皆と一緒なら、きっと大丈夫。




不定期更新になってすみません……( ;ᵕ;)

しばらくゆっくり更新していく予定ですm(*_ _)m

2章も必ず完結させます。よろしくお願いします。

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