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66.婚前旅行に行こう!

 その日の夕食後、談話室でヨティさんとリックさん、ミルコさんとレオさんと私の五人でお茶をしながら、彼らにもメラニー様のことを相談することにした。


「なるほど……それでシベルちゃんは元気がなかったんすね」

「しかし、さすがにメラニー様をトーリに連れて行くわけにはいかないだろう」

「そうっすよね。旅行に行くような場所でもないし」


 ミルコさんの言葉に、ヨティさんが同意する。


「かと言ってマルクスを連れ戻すにはまだ早い」

「そうだな」

「なにかいい方法はないかしら……」


 それに続いたレオさんの言葉にミルコさんが頷くのを見て、やはり仕方ないのかと気を落としていたら、腕を組んだまま黙って話を聞いていたリックさんがふと口を開いた。


「……魔法の鏡を持たせたらいいんじゃないですか?」


 リックさんの少し低い、落ち着きのある声が室内に響く。


「魔法の鏡?」

「ああ。あれなら相手の顔を見ながら会話ができる。メラニー様も少しは安心するでしょう」

「ええ、それは知っています。でも、とても貴重なものだし、そもそもお金で買えるようなものではないですよね?」


 魔法の鏡は魔導具の一種で、離れた場所にいる相手とも顔を見ながら連絡を取り合えるとても便利なもの。

 けれどそれを作れるほど強い魔力を持った人間はそういない。この国では存在すらしているかもわからないようなもの。顔が見えない通信用の魔導具ですら、貴重なものなのだ。


「そうだぞリック。簡単に言うな! そんなもの、どうやって手に入れるんだよ」


 冗談で言っているのかと思ってしまうほど簡単に言ったリックさんに、ヨティさんが食ってかかる。


「ああ、そうか。この国にはまだ出回っていないのか。でも俺、その鏡を作れる魔導師を知っていますよ」

「「「え?」」」


 それでも顔色を変えずに続けたリックさんの言葉に、皆の声が重なった。そして同時にリックさんに視線が集まる。


「まさか、そんな人物がどこに……!?」

「俺が留学していた隣国にですけど。世話になっていた師匠が作れたんで、紹介してもいいですよ」


 珍しく、驚きの表情と声を上げるミルコさんに、リックさんはさらりと告げる。


「本当? お願いできますか!」


 そして私は、リックさんの言葉に希望を抱いた。けれど、


「待って、シベルちゃん」


 私の隣に座っているレオさんが、こちらを向いてそれを制する。


「ああ、そうだな。確かにこの国の王太子……ましてや聖女が頼めば作ってもらえるかもしれない。だが、そうなると国同士の話になってくる」

「あ……」


 レオさんの代わりに、向かいのソファに座っているミルコさんが私を見て言った。

 なるほど……。メラニー様のためなら、そこまでしてもいい案件かもしれないけど……。私たちが勝手に決めていいものではない。こちらも相応のものを差し出す必要があるだろうし……。


「だから俺が紹介するって言ってるじゃないですか」

「だから、紹介してくれたとしてもだな――」

「国同士の貿易にならず、個人のやり取りならいいんですよね?」

「……」

「俺に任せてください」


 ヨティさんを挟んで同じソファに座っているリックさんとミルコさんが、視線を交えてそんなやり取りをした。


 とても自信ありげに口角を上げたリックさんが、なんだかとても頼もしく見える。実際、リックさんは大きくて強くてムキムキでいつでも頼もしい人なのだけど。



 その場は一旦お開きとなったけど、後日レオさんから婚前旅行のお誘いを受けた。

 レオさんと旅行だなんて、色々と素敵なことが起きてもおかしくないかもしれないと、一瞬で期待を膨らませた私だけど、レオさんはすぐに続けた。


「――というのは表向きの理由で、リックたちとともに隣国へ赴き、例の魔導師を紹介してもらうことになった」

「まぁ」

「うまくいけば、魔法の鏡を作ってもらえるかもしれない」


 真剣な表情でそう言ったレオさんに、私も深く頷く。

 レオさんは忙しいはずなのに、メラニー様のためにまとまった休みを取ってくれたのだ。

 きっと複雑な心境のはずだけど、本当に素敵な方だわ。


「それに、本当に婚前旅行としても楽しめたらいいと思っている」

「えっ?」

「もし魔法の鏡を作ってもらえなくても、きっと楽しい旅になるよ」

「レオさん……」


 そうか、そうよね。隣国に行っても、必ず魔法の鏡が手に入るとは限らないのだ。だからもし駄目でも、レオさんの前であまり落ち込まないようにしなければ。

 私が悲しい顔を見せたら、レオさんも悲しんでしまうわ。


「レオさん、ありがとうございます! 婚前旅行、楽しみましょう!」

「ああ、絶対に楽しいよ」


 だから笑顔でそう言えば、レオさんもとても嬉しそうに笑ってくれた。



 今回の旅行には、リックさんとヨティさん、ミルコさんとエルガさん、レオさんと私の六人で行くことになった。

 もちろん陛下は知っていることだけど、大人数で行くのではなく、ひっそりとお忍び感覚で静かに観光したいとレオさんが願い出たそうだ。


 凄腕の護衛が三人いるし、レオさん自身も優秀な騎士様だったのだ。

 心の広い陛下は快諾してくれたようだ。


「この旅行の間、シベルちゃんは絶対に俺から離れないでね」

「はい」


 隣国へ向かう馬車の中、レオさんは何度目かになるその言葉をまた口にした。


「大丈夫ですよ。普通にしてたら彼女が聖女だということはわかりませんし、あの国は治安もいいですし」

「わかっているが、念のためだ」


 レオさんは心配性だ。リックさんが言うように、私が聖女だということは見た目ではわからないし、隣国には聖女はいないけど、平和な国だ。魔物はいるけれど、私が一緒なら、それこそ危険区域に行かない限り襲われることもないように思う。

 まぁもし魔物に襲われても、私が皆さんをお守りしてみせますけどね!


「なんかこの勢いで風呂にまでついていきそうっすよね」

「な……っ!? なにを言う、ヨティ! そんなことするはずないだろう!?」

「どうっすかね。殿下のことだから、「エルガだけでは不安だ……!」とか言いそう」

「…………さすがにそれは……!!」


 少し間があったような気がするけど、レオさんは私の隣で頰を赤く染めて否定した。

 むしろ私が皆さんの入浴の見張りをしましょうか!? という言葉が喉元まで出かかったけど、控えておく。


「レオ、ヨティにからかわれているだけだ。そう熱くなるな」

「わ、わかっている! 熱くなどなっていないぞ……!」

「ちゃんと俺が風呂場の前で見張ってるんで大丈夫ですよ」

「ああ……」


 ミルコさんとリックさんに諭されて、レオさんは気を取り直すように咳払いをした。

 ヨティさんはいたずらっ子のように笑っている。


 この方たちは本当に仲がいいし、今回は他の従者もいないから、なんだかトーリにいた頃を思い出して私も楽しくなってきた。


 あの頃は私が聖女なんて知らなかったし、レオさんが王子だということも隠していたから、皆本当に家族のように仲がよかった。


 この旅では、気を遣わずに皆で楽しく過ごせたらいいなと思う。






王妃編(?)もとい、婚前旅行編突入です!



そして

『私の主人は大きな犬系騎士様 ~婚約者は妹と結婚するそうなので私は魔導騎士様のお世話係になります!~』

小説1巻が9/2、2巻が10/7に発売しました!


詳しくはぜひ活動報告をごらんください(*´˘`*)

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