06.隠し味は愛情です
昨日はあの後、エルガさんについて調理場へ行き、他の寮母の方たちも紹介してもらった。
皆さんとても忙しそうで、私が手伝いに来たと聞いて驚きつつも、とても感謝してくれた。
それにしても、こんなに辺境の地であるのに、食材はとても充実していた。
国を守る重要な役割を果たしている第一騎士団の方たちには、惜しみなく精のつく食材が送り届けられているらしい。
近くの街から、毎日新鮮な肉や魚にたまご、野菜に果物。小麦粉、チーズやソーセージのような加工食品まで届けられるそうだ。
その運搬の際に護衛として付くのも騎士団の方の仕事の一つであるらしいのだけど。
ともかく、そういうわけで昨日は私もそのおこぼれで、とても贅沢な食事をさせてもらえた。
今までは伯爵家の残りものを食べるだけだったから、スープに入れるお肉はなかったし、パンは固くなっていたし、野菜は切れ端ばかりだった。
それに、第一騎士団の方たちは皆とてもあたたかく私を迎え入れてくれた。
大好きな騎士様が目の前にたくさんいて、私は興奮のあまり倒れてしまいそうだった。
ああ……私はなんて幸せなの?
神様、これはなんのご褒美ですか?
これからもいい子にしていますから、どうかこのまま……このままでいさせてください……!
そんなことを心の中で願いながら、キラキラと輝いて見える騎士たちを惜しみなく観察させてもらい、美味しい食事をとり、至福のときを過ごした。
だけど、レオさんが「仲間は家族」と言っていたのがわかる気がした。
ここの方たちの雰囲気は、本当にあたたかいのだ。
きっと皆、毎日命をかけて働いているのだろうに……。
ああ、なんて尊いのかしら。
私もこの場所で、立派にやっていこう。
しっかりとあたたかいお風呂に入ってから寝支度を整え、ふかふかのベッドに身を入れて、私はそう決意を新たにした。
*
「おはようございます!」
「……おはよう。随分早いのね」
翌日。日の出前に目が覚めた私は、エルガさんが用意してくれていた寮母の制服に着替えて、早速食堂へ向かった。
制服は動きやすいワンピースだけど、私が着ていた服よりも機能性がよく、高そうだ。
ありがたい。
だけど、言われていた時間より少し早く来てしまったから、もしかして迷惑だった……?
そんなことを一瞬考えてしまったけれど、エルガさんは表情をやわらかく崩した。
「本当にやる気に満ち溢れているのね」
「はい! 何からしましょうか? なんでも言ってください!」
「貴女のような貴族のご令嬢は初めてだわ」
クスッと小さく微笑んだエルガさんは、昨日よりも可愛らしく見える。
いえ、昨日もとても綺麗な方だと思ったけど、言葉の通り、今日は可愛らしい人だなという印象を受けるのだ。
「それじゃあ遠慮なく言わせてもらうけど、わからないことがあったらすぐに聞いてね」
「はい!」
もし私に姉がいたら、こんな感じだったのかもしれない。
勝手にそんなことを思いながら、朝食作りに取りかかった。
「――おお、とても美味そうだ」
予定の時間通りに、騎士の皆さんは食堂にやって来た。
もちろん、レオさんも。
持ち場を離れられない方もいるから、全員が揃っているわけではないけれど。
それでも三十人以上はいる。
パンはほぼ毎食出しているから大量に焼いて、大きなオムレツもたくさん作った。
それから野菜のスープと、ソーセージが今朝のメニュー。
あとりんごが一切れ、デザートで皆についた。
「このオムレツ、今朝は誰が作ったんだ? とても美味いぞ!」
「本当だ! ふわふわだし味もちょうどいい! それに、見た目も綺麗だ」
……ふっふっふっ。
ありがとうございます。オムレツを担当したのは、私です!
そんな言葉が聞こえてきたから、そう声を大にして言いたい。けれど、私は淑女。
こういうときは静かに微笑むのが嗜みというもの。
さすがにこんなにたくさんのオムレツは作ったことがなかったから少し大変だったけど、騎士の方たちが食べるのかと思ったら、一回一回気合いが入った。
「オムレツはシベルが作ってくれましたよ。それからスープの味付けも、仕上げをしてくれました」
すると、誰かが言ったその質問に、エルガさんがあっさり答えてしまった。
「本当だ! スープもいつもと少しだけ味が違う!」
「美味いぞ!! 一体何を入れたんだ!?」
〝愛情です〟
なんて答えたら、やはり皆引くだろうか。
だからやっぱり私は、淑女らしく小さく微笑んでおくことにする。
「お口にあったようで、よかったです」
「これから毎日楽しみだな!」
「ああ、それになんだかとても力が湧いてくるようだ! 今日も張り切って働くぞ!!」
まぁ、嬉しい。
少し大袈裟な気もするけれど、騎士の皆さんが喜んでくれるなら、私はそれだけで満足。
「ありがとう、シベル。これからも貴女には食事作りをメインに担当してもらおうかしら」
「はい、喜んで!」
騎士の方たちの反応を見て、エルガさんも嬉しそうにそう言ってくれた。