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57.これはなんのご褒美ですか!?

「シベル、大丈夫?」

「……エルガさん、おはようございます」


 目が覚めたら、自分の部屋のベッドの中だった。


 私を起こしに来てくれたエルガさんに挨拶をして、起き上がる。


 エルガさんは私の侍女として主に面倒を見てくれている。

 お城に来たばかりの頃、聖女で王太子妃となる私に、エルガさんは「シベル様」と呼び、跪いた。

 けれど、騎士様たち同様、彼女にも正式な場ではないときは今まで通りに接してほしいとお願いしている。


 そうじゃないと、私が逆に気を遣ってしまうので、侍女としてお願いできないと、少し我儘を言ってみた。本当は彼らのことを呼び捨てしなければいけない立場であることはわかっているけれど、どうしても……私にはそれができない。騎士様たちやエルガさんのことは尊敬しているし、感謝している。だから、私が聖女だとわかった途端にいきなり接し方を変えるのは、とても抵抗があるのだ。


 徐々に慣れていくよう努力するのと、正式な場ではそれらしく振る舞うことを約束して、私はこの我儘を聞いてもらった。


 そしたらエルガさんは上品に微笑んで、「シベルらしい」と呟いていた。


「エルガさん、私……昨日はどうやって戻ってきたのでしょう?」


 どうやらちゃんと寝衣に着替えているようだし、髪についていた綺麗な髪飾りも取れている。

 でも、着替えた記憶も取った記憶もない。


「あら。覚えていないの? 随分酔っていたものね。団長――いえ、レオポルト殿下が部屋まで連れてきてくれたようだけど、それも覚えてないの?」

「……レオさんが?」


 ……ん? そういえば、皆でワインを飲んで……レオさんと一緒に部屋に戻ってきたような気がする……。その後、どうしたのだったかしら?


「私、レオさんにご迷惑をかけてしまったのでしょうか……」

「私が呼ばれて部屋にきたときは、もう貴女は眠っていたわよ。何人かで着替えさせて、メイクも落として、髪も解いたけれど、大人しく寝ていたわ」

「まぁ……」


 それはまた……なんと情けないお話でしょう。いくらお酒が強くないとはいえ、記憶をなくすほど酔ってしまうなんて……。

 自分で思っていたよりも、新しい生活に疲れていたし、緊張していたのだろう。


「すみません、エルガさん……ご迷惑おかけしました」

「いいえ。あ、でも寝言で〝レオしゃんの筋肉~〟って呟いていて、可愛かったわ」

「……そんなことを」


 エルガさんはその様子を思い出したのか、くすっと笑っているけれど、私はまさかその調子でレオさんにも絡んでいないだろうか……?


「レオさんは、その後どうされたのでしょう……?」

「たぶん自室に戻られたと思うけど?」

「私ちょっと、いってきます……!!」

「あ……! シベル!」


 レオさんのお部屋は私の部屋の隣。

 だからつい、寝衣のまま部屋を飛び出してしまった。



「――レオさん……!! いらっしゃいますか!?」

「……シベルちゃん?」

「あ……っ!」


 そしてノックもせずに、扉を開けてしまった。


「ごごごごご、ごめんなさい……!!」


 何をやっているのよ、シベル!

 いくら婚約者だからって、勝手に部屋を開けてしまうなんて、淑女として、いえ、人として最低よ!!


 私の目に飛び込んできたのは、上半身裸のレオさんだった。

 たぶん、着替えの最中だったのだと思う。

 慌てて後ろを向いて扉の裏に隠れたけれど、閉め忘れてしまった……!!


 ああっもう、馬鹿シベル……!!


「おはよう、シベルちゃん」

「あ……」


 不意に見てしまったレオさんの肉体美と、自分の落ち着きのなさに呆れてしまう思いでいた私のすぐ近くで、レオさんの声。


「お、おはようございます……っ」

「とりあえず、入って?」

「は、はい……!」


 レオさんはそんな私のもとまできて、優しく声をかけてくれた。

 けれど、前がボタンになっているシャツを羽織っているだけの状態で、たくましい胸筋と腹筋が覗いて見える……!!


「ノックもせずに、本当に失礼しました……!!」

「構わないよ、シベルちゃんなら」


 私が部屋に入ると、レオさんは扉を閉めて部屋の奥へと足を進めた。


「それから、昨日も……部屋まで送っていただいて、エルガさんを呼んでくださったようで……情けない話ですが、実はその……あまり覚えていなくて……。私、レオさんにご迷惑をおかけしていませんか?」


 レオさんの目を見て謝りたいけれど、レオさんを見ればそのたくましい肉体がシャツの隙間から覗いていて、それどころではなくなってしまう。


 だから視線を落としてそう聞いた私に、レオさんが歩み寄ってきたのが、足下を見てわかった。


「迷惑なことはなにもなかったかな。……でも、昨日の君が可愛すぎて、俺は少し困ってしまったけどね」

「……っ!?」


 そして、俯いていた私の顎に手を添えたかと思うと、くっと持ち上げて視線を合わせられる。


「あ……えと……それなら、よかったです……」


 しかもレオさんは今、昨日の私が可愛かったって言った? 聞き間違い? それとも、都合よく解釈してしまった……!?


「シベルちゃん、二日酔いにはなってない?」

「大丈夫です……」


 それよりレオさん、服を……シャツのボタンを留めてください……こんなに至近距離でそんなに魅力的なものを出されたら……私にはちょっと、刺激が……。


 見たい葛藤と戦って視線を上下させる私に、レオさんはふっと笑った。


「これが気になるのかな?」

「……ひっ!」


 ちらりとシャツの前を捲ってそのたくましい胸筋を更に私の目にさらしたレオさんに、私から思わず小さな悲鳴が漏れた。

 もちろん、嬉しい悲鳴だ。


 でも、レオさんは私がその筋肉に弱いってわかっているのに、たぶんわざとボタンを留めずに私を部屋に入れたのだと思う……!!


 私はやっぱり、昨日なにか迷惑をかけて、それでレオさんは怒っているとか……!?

 いや違う、これはなにかのご褒美ね……!!?


「昨日のシベルちゃんはとても素直にここに頰をすり寄せてきたよ?」

「えっ、私そんな贅沢……じゃなくて、失礼なことを!?」

「いや、とても可愛かった」

「……っ」


 そんな素晴らしいことを……! 覚えていないなんて……!!


 ああ、なんてもったいない……昨日の私の、馬鹿……。


「本当にすみません。お酒を飲むと、その……理性が飛んでしまう節がありまして……今後は控えます。いいえお酒はもう飲みません」

「どうして? 俺がいないところでああなってしまうのは心配だけど、俺の前でなら大歓迎だよ」

「……大歓迎、ですか?」

「できれば覚えていてほしかったけど」

「……」


 慌てる私とは裏腹に、なぜかとても楽しそうに笑っているレオさんの心の広さには救われるけど……。


 それより早くボタンを留めてくれないと、その胸に飛びついてしまいますよ!?



仕返し……もとい、お返しするレオさんの巻。

ごちそうさまです(笑)

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[一言] いや…もう飛び込めよ(笑)
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