49.彼女は今日も幸せだから※レオ視点
真の聖女であることを国王に認められ、正式に我が国の聖女となったシベルちゃんと、その聖女を追放したマルクスに代わって王位を継ぐことになった俺との婚約は、無事に成立した。
マルクスは自分の軽率な行動をシベルちゃんに謝罪した。
しかしシベルちゃんは、「おかげでとても楽しい日々を過ごせましたので」と、笑って彼を許した。――というか、許すも何も、彼女は最初からマルクスを少しも恨んでなどいなかったのだ。
騎士が好きだというシベルちゃんにとって、確かに騎士団の寮で過ごした時間は充実していたのかもしれない。
マルクスは俺の代わりにトーリへ行くことになった。
追放というより、彼も騎士団に入団して、心と身体を鍛えてこいと、父に言われたのだ。
マルクスの婚約者であるアニカと、その母親のヴィアス夫人も、彼と一緒にトーリ行きが決まった。
シベルちゃんは二人のことも怒ってはいなかったが、二人が王都に居づらくなったのだろう。
たとえ本当に自分の娘が真の聖女だと信じていたとしても、あの母親にはシベルちゃんに対して悪意があったし、アニカもシベルちゃんにいじめられたなどという嘘をついて彼女を陥れたのだ。
マルクスのことが好きだったアニカは、シベルちゃんに嫉妬していたことを認め、マルクス同様シベルちゃんに泣きながら謝罪した。
シベルちゃんは泣きじゃくる義妹を見て「貴女も辛かったのね」と、声をかけた。彼女は心までも、真の聖女だ。
だがシベルちゃんが彼女たちを許しても、騎士団を始めとした周りの者たちがそれを許さなかった。
俺だってその一人だ。二人を野放しにはできないし、シベルちゃんの近くにいさせることもできない。
王都から離れたトーリの地で、彼女たちは騎士団の世話をすることになる。
だが、シベルちゃんと違って彼女たちは騎士が好きなわけでもなければ、家事なども一切できない。
これから苦労するだろう。
ひょろひょろのマルクスも、贅沢な暮らしですっかり肥えてしまったらしいアニカも、性格が酷く歪んでいる母親も、少しは心身ともに鍛えられるといいのだが。
ああ、そうそう。トーリだが、シベルちゃんが聖女の力に目覚め、エルガの魔石に聖女の加護を付与してくれたこともあり、彼女がいなくなった後も平和が続いている。
それでも魔物が住まう森が近くにあるから、しばらくは騎士団を派遣させておくことになった。
しかし、マルクスが所属することになるその騎士団は、第一騎士団ではなく、第三騎士団だ。
第一騎士団は、俺とともに王都に戻り、城を守る任務に就くことになったのだ。
シベルちゃんが一番危惧していた、「もう皆さんにお会いできない」という悩みも解決されるというわけだ。
ちなみにエルガ等寮母たちも、希望する者は(まぁ、全員希望したのだが)王都に呼び寄せ、王太子妃の侍女となる者と、王城に隣接した騎士団の寮で働く者とで新しい勤め先が決まった。
俺はとても幸せだ。
元々王太子の座に興味はなかったが、騎士としてこの国のために戦ってきた身として、これからは大好きなシベルちゃんとともにこの国の平和を守っていける立場となったことに、深く感謝している。
父はもしかしたら、シベルちゃんが追放された時点で、こうすることを決めていたのかもしれない。
シベルちゃんが俺のいるトーリに追放されたのはマルクスが決めたはずだから、第一王子である俺と聖女であるシベルちゃんが出会ったのはたまたまだと思うが……
父が黙っていたのは、俺たちがどう動くのかを見極めるためだったのか……。
まぁ、そこまで考えると切りがないのでやめておく。
「――ミルコ、シベルちゃんを見ていないか?」
「なんだ、いないのか。それじゃあ、きっとまたあそこじゃないか?」
「ああ、やはりそうか……」
あれからもシベルちゃんは毎日を王城で過ごしている。
彼女の妃教育はほぼすべて終了しており、あとはもう俺の立太子を経て籍を入れる日取りを決めるだけなのだが……
彼女は隙を見て、すぐにあそこへ行ってしまう。
「まぁ、いいじゃないか。彼女らしくて」
「そうだな。きっとシベルちゃんは今日も幸せそうに笑っているのだろう」
第一王子の側近であるミルコと二人、肩を並べて向かったのは騎士団の訓練場。
やはり彼女は、今日もそこで騎士たちの訓練を眺めていた。
「シベルちゃん!」
「レオさん、ミルコさん」
俺が声をかけると、こちらを振り返って嬉しそうに笑ってくれる。
とても可愛い笑顔に俺とミルコの頰も緩むが、今は騎士服を着ていない俺は少し不安にもなる。
「また騎士の訓練を見に来ていたのかい?」
「ええ、だってやっぱり騎士の方々は本当にすごいんですもの!」
「見学をするのも差し入れを持っていくのも構わないが、あまり余所見ばかりされると、少し妬けてしまうな」
「え……っ」
そう言って彼女の身体を後ろから抱きすくめるように包み込むと、シベルちゃんの身体はあっという間にカチンと硬直する。
「レ、レオさん……、皆さんが見ています……!」
「いいじゃないか。見せつけているんだよ。君は俺の可愛い婚約者だからね」
「……そうですけど……」
耳まで真っ赤になって照れているシベルちゃんは、本当に可愛い。
今すぐ俺の部屋に連れて行きたくなってしまう。
「わかった。それじゃあ今夜のトレーニングの時間には、君も同行するかい?」
俺はここ最近毎日、ミルコとともに鍛錬を行っている。
「はい! ぜひ!!」
彼女が俺とミルコのトレーニングを見るのが大好きなのは、もうわかっている。
だから元気よく頷いたシベルちゃんに、やっぱり俺も元気をもらってつい笑顔になってしまう。
「でもその後は、俺と二人きりの時間だよ」
「え……、あの……お手柔らかにお願いします……」
騎士の身体を見るのは大好きなくせに、まだまだこういうことには慣れていないシベルちゃんが、俺は可愛くて仕方ない。
「どうしようかな」
「……レオさん…………!」
耳元で静かに囁けば、シベルちゃんの顔はますます赤くなっていく。
シベルちゃんと優秀な騎士たちがいれば、きっとこの国は大丈夫。
だって騎士が好きな真の聖女は憧れの騎士たちに囲まれて、今日も幸せなのだから――。
第一章、これにて終了です!
レオ、シベル、おめでとう!面白かったぞ!第二章も応援してやるよ!
などと思っていただけましたら、どうか祝福の評価を押して作者の背中を押していただけると嬉しいです!( ;ᵕ;)
ただいま書籍化作業を同時進行で進めております!
少しでも早く皆様の手にお届けできるよう、またWEB版より更に充実した内容になるよう、精一杯頑張っております!
第二章は王都編(婚約者編)の予定です。
プロットと書きためが少し出来たら更新再開します!そんなに間はあけたくない気持ちですが、7月中頃になりそうです……( ;ᵕ;)
騎士好きを知られたシベルは王都でも騎士に囲まれる毎日を送って幸せ……!
そしてレオとの甘々な日々も増量でお送りする予定ですので、レオとのイチャイチャを見たい方はぜひお付き合いください(*´˘`*)
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数字や感想、しっかり見ております。
いつも本当に励まされております……( ;ᵕ;)
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それでは、また近々お会いしましょう(*´˘`*)ありがとうございました!





