43.……羨ましい。
なんだかとっても懐かしい夢を見たような気がする。
昔……父がまだ生きていた頃、一緒に騎士団の演習を見に行ったときの夢――
そのとき私は、父とはぐれて迷子になったのだ。
九歳だった私は、人の多さに不安になり、父と離れてしまった心細さに泣いてしまいそうになっていた。
『どうしたの?』
そのとき、一人の若い騎士が話しかけてくれた。
そう――その騎士は、髪が黒くて、目が宝石のように綺麗な青色をした、背の高い人だった。
この人だ。この人が私の初恋の、黒髪の騎士様だ。
それから彼は、私と一緒に父を探すのを手伝ってくれた。
彼のおかげで無事父と再会できて、その爽やかな笑顔に私は恋をしたのだ。
その後、彼らの演習を見て、騎士という存在の偉大さを知った。
騎士を好きになるきっかけも、すべて彼だった。
「むにゃむにゃ、きしさま……くろかみの……きしさま……」
「シベルちゃん、朝だよ」
「うーん……」
とてもあたたかくて、気持ちよかった。
硬いのにやわらかくて、いい匂いがして、なんだかとても心安らぐ温もり――
「おはよう、シベルちゃん」
「……黒髪の騎士様?」
「ん?」
目を覚ましたら、目の前にその人がいた。
あのときの騎士様だ。
少し大人っぽくなっているけれど、私の初恋の、黒髪の騎士様――
「――レオさん!!?」
「うん? おはよう」
「あ……あっ……あ!?」
どうやら私は、レオさんのたくましい腕に頰を寄せるようにしてぴったりとくっついていたらしい。
「ごごごご、ごめんなさい……っ私――」
「いや、少し寒かったのかもしれないね。風邪を引いていなければいいのだが」
「はい……本当に、失礼しました……!!」
「いや……」
慌ててレオさんから離れて、この状況を把握する。
そうだ、昨日はレオさんとミルコさんと同じテントで寝て……。
私ったら、呑気に先に寝てしまったのね。
もう、シベルの馬鹿!
レオさんも照れたような顔で笑ってくれたけど、きっと相当困ったと思う。
でも優しいから、私を振り払うことをしなかったのね。
本当にごめんなさい……。
でもおかげで、とてもいい夢が見られました。
……そうだ、夢。
私は思い出した。
初恋の黒髪の騎士様は、物語に出てくる空想上の人物じゃない。
私が九歳のときに父と行った騎士団の演習場で会った、あの人だ。
そしてたぶんその騎士様は、当時十七歳だったレオさん――
「……」
「シベルちゃん大丈夫? まだ寝惚けているのかな?」
「あ……はい、そうかもしれないです」
「はは、よかったら一緒に顔を洗いに行くかい?」
「はい、そうします」
ぼんやりとレオさんのことを見つめていたら、そう言って手を差し出された。
素直にその手に掴まって立ち上がり、テントを出る。
レオさんは昨夜、この手を私の頰に伸ばした。
レオさんの大きな手と、真剣な眼差しに私の胸は大きく高鳴った。
それにレオさんは、あのときも、不安になっていた私の手を、こうして握ってくれたのだ。
「足下気をつけて」
「はい」
そのままレオさんの手を掴みながら、私たちは近くを流れている川まで歩いた。
けれど、
「あ、団長も水浴びっすか?」
「シベルちゃんと一緒はさすがにまずいでしょ!」
「え……!?」
川には、先客がたくさんいた。
それも皆さん、服を脱いで川の水を浴びている……!!
「……~~っ」
「シベルちゃん……っ」
寝起きにこれは、刺激が強すぎます……!!
下穿きは穿いていたけれど、たくましい腕も、太いふくらはぎも、形のいい胸筋も、腹筋も、背筋も――全部丸見えです……!!
一瞬にして頭が覚醒したのと同時に、ぼんっという音が聞こえたような気がして熱くなった顔をさっと逸らしたら、レオさんが私の肩を支えるように触れた。
「すまない、向こうに行こうか」
「……はい」
そのままレオさんにもう一度手を引かれて、私たちはそこから少し離れた川辺で顔を洗った。
「すまないね、俺の配慮が足りなかった」
「いいえ……構いません。少し驚いてしまいましたが」
そうか、以前エルガさんも言ってたっけ。
これからもこういうことがあるかもしれないって。
エルガさんは結構慣れているようだったものね。
……羨ましい。
「レオさんも、水浴びがしたいのでしたらどうぞ、私に構わずしてくださいね。ここで待っていますから」
「えっ? ああ、ありがとう。でも俺は大丈夫だよ、今夜はどこかで宿を取ろうね」
「遠慮しなくていいのに……」
「え?」
「いいえ」
……すみません、レオさん。
すみません、騎士の皆さん……。
こんな女が混ざっていて、ごめんなさい……!
でも、朝からいいものを見ました。
これで私は今日も一日頑張れそうです!!
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次回、その頃王都では……?