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42.狭い。詰めろ。※レオ視点

「おやすみなさい、レオさん」

「ああ……おやすみ、シベルちゃん」


 なぜ、こうなったのだ……!?


 野営することになるのは覚悟していたから、テントは用意させてあった。

 だが、なぜ俺はシベルちゃんと同じテントで寝ているのだ!? これは予定になかった!!

 しかも、ミルコはなぜ副団長のくせに見張りを引き受けたのだ……!?


 俺たちに純粋で綺麗な瞳を向けてくれたシベルちゃんの信頼を裏切るような真似をする気はない。


 だいたい、今はそういうときではないし。


 だが、こんな狭い空間にシベルちゃんと二人きりで身体を横にして、眠れるはずがないだろう……!!


「……」

「…………シベルちゃん、やはり眠れないんじゃないのか?」

「えっ、あ……いいえ、寝ますよ、大丈夫です!」

「そうかい?」


 先ほどから彼女も、ちらちらと俺に視線を向けてきているのがわかる。

 やはり警戒しているのだろう……。


「シベルちゃん。今回のことだが、無理を言ってついてきてもらって、本当にすまなかった」

「いいえ。私に、お料理以外にも何かお役に立てることがあるといいのですが」


 二人ともすぐに眠れそうではないことを悟り、俺は彼女に話しかけることにした。

 俺に変な気はないのだということがわかれば、そのうち安心して眠ってくれるかもしれない。


 口では元気だと言ってくれるが、馬車での移動で疲れているはずだ。


「きっと君にしかできないことがあるよ」

「そうでしょうか?」


 俺が気休めでそう言ったと思ったのか、シベルちゃんがクスッと小さく笑った。


「君は……もし自分が真の聖女だとしたら、どうする?」

「え? ……でも、聖女は妹のアニカで……」

「君の妹がいる王都が魔物に襲われているんだ。逆に、トーリは君が来てからとても平和だ」

「……」


 俺やミルコはもう確信している。

 本人に自覚はないようだが、真の聖女はシベルちゃんで間違いない。

 それをどう彼女に伝えようか……。


「もし、マルクスが君を真の聖女だと認めたら、君はマルクスの婚約者に戻りたいかい?」


 自分で聞いておきながら、嫌な汗を感じた。もし「はい」と答えられたら、俺はどうするつもりなのだろうか。


「それは……正直、戻りたくありませんね」


 しかし、遠慮がちに紡がれたシベルちゃんの言葉に、俺は心底ほっとする。


「こんなこと言ってはいけないのかもしれませんけど。でも私は、第一騎士団の皆さんのところで働けて本当に毎日が楽しくて、幸せです。もし、レオさんが言うように私が本物の聖女なのだとしたら……やっぱり国のために尽力したいです。でも……できれば私はこれからも皆さんと一緒にいたいです」

「シベルちゃん……」


 自然と彼女のほうに顔を傾けると、シベルちゃんもこっちを向いて、微笑んでいた。


 その顔が本当に可愛くて、愛おしくて。


 つい、彼女のほうへ、手が伸びた。


「……レオさん?」


 俺の手は、簡単に彼女の白くてなめらかな頰に届いた。


「俺も、できればこれからもずっと君と一緒にいたい」


〝俺が王子だったら、君は俺と一緒にこの国の平和を守ってくれる――?〟


 そう、喉まで出かかった言葉は、結局呑み込んだ。

 それは今判断させることではない。


「……嬉しいです。とても。私、これからも第一騎士団の皆さんのお世話ができるよう、頑張りますね!」

「……うん、そういう意味で言ったのではないのだが……」

「?」


 彼女の頰に触れた指先が、小さな唇を撫でようとしたが、シベルちゃんがあまりに明るく笑ってそう言うものだから、我に返ってその手を引っ込めた。


「たとえどんな結果になろうと、俺が持ち得る最大限の努力で君の幸せを守るよ」

「まぁ、団長様にそう言ってもらえたら、私は無敵ですね」

「そうだな」


 それから二人で笑い合って、いつの間にか彼女は目を閉じて眠りに落ちていった。


 彼女の幸せそうな寝顔をそっと見つめながら、俺はとても穏やかな気持ちで満たされた。




 *




「――シベルちゃん、寝たのか?」

「ああ」


 それからしばらくして、ようやくミルコがテントに入ってきた。


 テント入り口側にそのまま座り、静かに語りかけてくるミルコに俺は静かに頷く。


「口づけの一つでも交わしたか?」

「……っ!!?」


 しかし、続けられた友人の言葉に、俺はつい大きな声を出してしまいそうになったのを、なんとか堪えた。


「するはずないだろう……!」

「なんだ。せっかくチャンスをやったのに。本当に手の遅い男だな」

「……っ」


 はぁ、と溜め息交じりにそう言われ、俺の心臓はどくどくと脈を速める。


「まさか、そのために見張りなんて真似を――」

「誰かが背中を押してやらないと、お前たちは一生そのままだろうからな」

「……うっ」


 そう言われて否定できない自分が不甲斐ないが、だからといってやはり急いてもいけない。


「狭い。詰めろ」

「……!」


 ミルコはそう言って俺の身体をぐいぐい押してきた。


「おやすみ」


 そしてシベルちゃんとの距離が縮まって動揺する俺を残して、さっさと寝てしまった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 皆の心掛け一つになって『ホントにそういう意味で騎士団にいたい!って思っとるから…!!』というツッコミが入ったと思います(笑)。 まぁひょろりスマート王宮ニキたちより騎士団のアニキたちのムキム…
[一言] レオ君、王子なのカミングアウトしてたらたぶん塩対応返されたぞ… え、実は王子だから騎士辞めて王宮へ?私騎士団に残りますね(笑顔 とかされたかもわからんのでな 筋肉で溢れた騎士団と逞しいが一人…
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