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40.レオさんの肩枕

 それは、本当に突然だった。


「え……? 王都にですか?」

「ああ、君も一緒に来てほしい」


 真剣な表情で語るレオさんには、とても冗談で言っている様子は見受けられない。


「……わかりました。同行します」

「ありがとう。そして、本当に申し訳ないのだが、一刻も早く向かわなければならない。準備が整い次第王都に向けて発つから、君も急いで支度をしてほしい」

「はい!」


 その報せが届いたのは、今朝だったらしい。

 お城から届いた手紙には、王都に魔物が現れたということが書かれていたそうだ。それも、その数は一匹や二匹ではなかったそう。


 王都には第二、第三騎士団がいる。


 それなのに、騎士団の中で最も優秀な第一騎士団が招集されたということは、事態は深刻なのかもしれない。


 トーリの街は、最近ではすっかり平和だ。

 それでも近くの森に魔物の巣があることは確認済みなので、一部の者を残し、レオさんやミルコさん、ヨティさん等を筆頭に、団員の半分ほどが王都に向かうことになった。


 それに私も同行してほしいとのことだった。




「――シベル……」

「エルガさん」


 私の荷物なんて少ないけれど、王都までは馬車でも数週間かかる。途中、街に立ち寄ることはできるけど、数日分の着替えなどをトランクケースに詰め込み、部屋で支度を整えていた私のもとに、エルガさんがやってきた。


 とても心配そうな顔をしている。


「大丈夫ですよ、レオさんたちが一緒ですから」

「ええ……そうね。でも、これ……」


 そう言ってエルガさんが私に差し出してきたのは、とても綺麗なエメラルドグリーン色の、手のひらサイズの石の置物。


「これは、私の祖母からもらったお守りよ。この魔石には聖女の加護があるって、祖母が言っていたの」

「まぁ……」

「だからきっと、貴女を危険から守ってくれるわ」

「……聖女の、加護……」


 エルガさんからそれを受け取ると、なんだか身体がざわついた。


 身体の奥から、何かが溢れてくるような、言葉では言い表せない力を感じる。


 きっとこれは本物だ――。


 根拠もなく、そう感じた。

 けれど、その力はとても弱まっているようにも感じる。


「……」

「……シベル?」


〝……どうか皆をお守りください――〟


 そう思ったときには、自然とその石を握りしめて目を閉じ、私はそう祈っていた。


 私のような偽聖女の祈りなんて足しても、気休めにしかならないはずなのに。


「シベル、貴女……」

「エルガさん、この石はエルガさんが持っていてください。レオさんたちの不在の間に、何もありませんように」

「……わかったわ」


 エルガさんはなにやら目を見開いて驚いたような顔で私を見ていたけど、すぐにはっとしてその石を受け取ってくれた。



 そして、お昼を過ぎた頃には、もう皆さんの準備は整い、王都に向けて発つことになった。


「ばたばたして悪かったね。もしなにか困ったことがあったら、遠慮なく言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 私が乗った馬車には、レオさんとミルコさん、それからヨティさんが乗っていた。

 馬車が出発すると、隣に座っているレオさんが一息ついて、すぐに私を気にかけてくれた。


 私はこれから、魔物が出て危険な王都に向かうのだ……!

 一刻も早く向かわなければならないし、王都にいるアニカやマルクス殿下、たくさんの人たちが心配……でも、だけど……


 その道中、数週間を、この方たちと過ごすというの!?

 この狭い馬車の中で数時間ともにするというだけで大変なことなのに……!

 それが数週間も……ああ、王都に着く頃には私、息をしていないかも……!!


 既に、こんなに鼓動が速いのだ。そのうち心臓が止まるに違いないわ。


 でも駄目よ、これは旅行ではないのだから、楽しんじゃ駄目、シベル……!!


「大丈夫? シベルちゃん。なんか顔が赤いけど……もしかして具合でも悪い?」

「いいえ……っ! 私はとても元気です! 元気すぎて困っているくらい――」


 ななめ向かいに座っているヨティさんが、そう言って覗き込むように顔を近づけてきた。


 だから慌てて笑顔を浮べ、元気であることをアピールする。


「……そっか、それならいいけど」

「はい!」


 それから数時間、馬車での移動が続いた。

 緊張しているのは私だけで、さすがというか、皆さんはとても冷静で、落ち着いていた。


 これから魔物討伐に行くというのに、騎士様はいつだってその覚悟ができているのだろう。


 王都が心配だし、少し怖いけど……この方たちが一緒なら、きっと大丈夫。


 彼らは私にそう思わせてくれる。




「――シベルちゃん、シベルちゃん」

「……ん」


 数時間馬車に揺られて、最初はとても緊張していた私は、どうやら疲れて眠ってしまっていたらしい。


 レオさんが私を呼ぶ声が少し上から聞こえてきて、私は目を開いて顔を上げる。


「今夜の宿に着いたよ」

「……はい」


 レオさんの顔が、とても近くにある。

 なんとなく、レオさんの頰がほんのり赤い気がする。


「…………」

「シベルちゃん?」

「あ……っごめんなさい……! 私――!!」


 私ったら、なんてことを……!!


 頭が覚醒して、ようやく状況を理解した。


 私は、隣に座っていたレオさんの肩を借りて眠ってしまっていたらしい。


 最悪だわ……!!


「おはよう、シベルちゃん。団長の肩は寝心地よかった?」

「はい、とっても……じゃなくて、すみません! 本当にすみません……!!」

「いや、俺は構わないよ。少しでも休めたなら、よかった」


 くすくすと笑いながらヨティさんにからかわれて、私の顔はおそらく真っ赤。


 団長様の肩を枕にしてしまうなんて……!!


 それにミルコさんとヨティさんにも、寝顔を見られてしまった……!!


 ああ、馬鹿シベル! しっかりしなさい!!


 私はまだ羞恥でいっぱいだけど、そんなことはお構いなく馬車の扉はミルコさんによって開けられる。


「どうぞ」

「……ありがとうございます」


 先に下りたミルコさんに手を差し出され、私もその手に掴まらせてもらいながら馬車を降りる。


 頼もしい手にドキッとしてしまうけど、それより後ろにいるレオさんが気になって仕方ない。


 ああ……しばらく顔を見られそうにないわ。



 その日はその宿に隣接しているレストランで食事をし、お風呂をお借りしてすぐに眠ることになった。


 明日も朝は早いのだ。


 私は女性なので、一人でお部屋を使わせていただけることになり、今日一日の出来事を思い出しながらなんとも複雑な気持ちで眠りに就いた。


 明日からはあんな失態はおかさないよう、気をつけないと……!



騎士旅編(?)始まります。第一章最終編です。

シベルにとってはとても美味しい王都への小旅だけど、遊びじゃないぞ!(*`・ω・´)


続きに期待していただけましたら、ぜひぜひブックマークや評価、いいねを押して作者を後押ししてくださると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 推し活は遊びじゃないからへーきへーきw
[一言] ついてきてくれと言う前に聖女の話しした方が良くない?
[一言] ふかふか筋肉枕でシベルはハッピッピ~♪なんだと思うと微笑ましい……かな…?? 風雲急を告げてくる予感!でもシベルの筋肉ラブ!が変わりなくて安心しますね。
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