04.だんちょうさま!!
「失礼します」
「どうぞ」
エルガさんについてやってきたのは、この建物の中でも一際立派な扉の前。
ノックをすると、中から男性の声が聞こえた。
なんだか、低くて甘さのある、いい声だ。
「団長、シベルご令嬢をお連れしました」
「ああ、ありがとう」
だんちょう?
エルガさんの落ち着きのある声が発したその言葉に、私の身体がぴくりと反応する。
「初めまして。長旅で大変だっただろう。どうぞかけてくれ」
扉を開けて中へ入ると、大きな執務机の前に座っていた男性が立ち上がり、こちらへ歩み寄って来た。
黒々とした髪に、爽やかな笑顔。晴れた日の青空みたいな瞳の色を私に向けて、対になったソファの片方へ手を差し出してくれる。
……だ・ん・ちょ・う・さ・ま……!!
見上げるほどに背が高い。私より頭二つ分近く大きい。
そして、白を基調とした騎士服の上からでもわかる鍛えられた肉体!!
腰には剣を帯びていて、足が長くて、がっしりしていて……格好いい!!
これが本物の騎士様……!!!
こんなに近くでじっくり見たのは初めてだわ……!
倒れちゃ駄目よ、シベル!!
「初めまして。シベル・ヴィアスと申します。本日からお世話になります。不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします!」
憧れの騎士団……しかも、いきなり団長様とお会いできるなんて……!!
ああ……もう、私はこれでいつ死んだって構わない。
……やっぱり死ぬのはまだ早いわね。だってこれからもっと楽しいことが待っているのだから。
つい興奮してしまったけれど、私はこれでも伯爵令嬢。王子の元婚約者。妃教育も受けた身。
本性はどうであれ、一応淑女らしい挨拶もできるのだ。
「……はは、君は面白いな」
「え?」
けれど、興奮のあまり何か変なことを言ってしまっただろうか?
団長様は整ったそのお顔をほころばせて笑った。
「俺のことは気軽にレオと呼んでくれ」
「……レオ様?」
とりあえずエルガさんと並んでソファに座ると、団長様も向かい側に腰を下ろしてくつろぐ姿勢を取った。
「そんな敬称はいらないよ」
「ですが……」
「俺は堅苦しいのは嫌いなんだ。ここがどういう場所であるかは君もわかっていると思うが、俺にしてみればついてきてくれた第一騎士団の部下たちも、世話をしてくれる寮母たちも皆仲間だ。家族のようなものだ。だから堅苦しいのは、なしだ」
「……わかりました、レオさん」
しぶしぶ頷くと、レオさんは満足そうに微笑んでくれた。
とても優しい笑顔だ。こんな笑顔を向けられたのは、いつぶりかしら……?
しかも相手は本物の騎士。しかも騎士団長……。
神様ありがとうございます。
レオさんは仲間や部下を大切にされる方なのね。
従者を顎で使っていたマルクス殿下とは大違いね。
ああ……私の中でまた騎士団のイメージが上がっていくわ……!!
「後ほど皆にも紹介しよう」
「では、夕食のときに」
「そうだね、それがいい」
レオさんとの挨拶が終わると、エルガさんは、今度は建物の中を一通り案内してくれた。
騎士の方たちが休まれる寮、食堂、訓練場、広間、大広間――などなど。
慣れるまでは迷ってしまうかもしれないと思うほど、やはり広い。
「――それじゃあ夕食ができたら呼びに来るから、それまで少し休んで」
案内が終わると、エルガさんは時計を気にしてから私にそう言った。
でも、人手不足と聞いているし、私にもできることがあるなら早速何かしたい。
「私にお手伝いできることがあれば、やらせてください!」
「……でも、疲れているでしょう?」
「いいえ。移動は馬車でしたから。馬車ではずっと座っていました!」
「だから、ずっと座っているのが疲れたでしょう?」
「なぜです? 座っている間は休んでいられるのですから、私はまったく疲れていません!」
「……」
それより、今の私はやる気に満ちあふれているのだ。
夕食のときに騎士の方たちにも紹介してくれると言っていたし、楽しみすぎてじっとしていられそうにない。
「……わかったわ。それじゃあ、夕食作りを手伝ってもらえる?」
「喜んで!」
「……貴女、変わったご令嬢ね」
「そうですか?」
調理場に向かうエルガさんに、私はうきうき気分で足取り軽くついて行くのだった。
今日はレオさんとの初対面まで……!
短編版と、設定が少し変わってます。お楽しみいただけると幸いです(*^^*)