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39.困った、困った。本当に困った……。※王子視点

 王都に再び魔物が出た。

 それも、今回は一匹や二匹ではなく、群れだったらしい。

 すぐに第三騎士団を討伐に向かわせて、なかなか戻らないリックのことも強制的に呼び戻した。


 しかし、彼はひと月の間第一騎士団の寮にいたのだが、王都に帰って来てもすぐに僕のところに報告をしに来ようとはしなかった。


「王子である僕が呼んだらすぐに来い! まったく、お前は何様だ!」

「……帰ったばかりでばたばたしてたんだよ。それに、こっちはこっちで大変だったんだぜ?」


 ようやく僕の前にリックがやって来たのは、彼が王都に帰ってから、三日が過ぎたころだった。


 彼は自ら魔物を刺激し、シベルを危険な目に遭わせたとして、少しの間軟禁されていたらしい。だが、王子である僕の力で彼を呼び戻してやったおかげでこうして帰って来られたのに、礼の一つも言いに来ないとは。


「自業自得だろ。僕はそんなに手荒なまねをしろとは言ってない」

「けど、それが一番手っ取り早い方法だったんだよ。彼女が聖女かどうか確かめるには」

「まぁいい。それで、どうだったんだ。シベルは聖女なのか? 早く報告しろ!」

「……ち、偉そうに」

「なんだと!?」


 こいつ今、舌打ちしたか!?

 王子であるこの僕に向かって……!!


「シベルは本物の聖女だよ」

「なに!?」


 不敬罪にしてやろうかと思ったところで、リックはさらりととんでもないことを口にした。


「残念だったな。聖女は彼女で間違いないね」

「…………そんな」


 報告に来るのに三日もかかったくせに、そんなに大事なことをなんともあっさり言ってのけるリックに、僕は呆然としてしまう。


「何かの間違いでは……、証拠はあるのか!?」

「……アニカの母親も彼女が聖女の力を使ったのを見たと言っただけのようだな」

「そうだ」

「じゃあ、俺にも証拠はない」

「なに? それじゃあまだ――」

「だが、間違いない。俺はこの目で見た」

「……っ」


 そう言って、リックはルビーのような瞳をまっすぐ僕に向けて言った。

 彼が嘘を言っているようには見えない。だが――


「まぁ、あの母親にもそう言われて、それを信じてこうなったんだ。俺を信じるか、あの母親を信じるか。今度は慎重に動いてくださいよ、マルクス殿下」

「く……っ」


 急に大袈裟なほど丁寧に礼をして見せるリックに、余計苛立ちを覚えるが、今はそれどころではない。


 シベルが本物の聖女……!?

 くそ、リックが嘘を言っていないのだとしたら、かなりまずいぞ。


 だが、シベルの力もアニカの力も僕が見て確認したわけではない。確かに、どちらも証拠はないのだ。


 これでまたリックの言っていることだけを信じていいのか……!?


「あ、それから第一騎士団にはもう一人――」

「なんだ」

「……いや、いいや。まぁ、頑張れよ、第二王子様(・・・・・)


 リックがなにか言いかけたが、僕と目を合わせると鼻で息を吐いてひらりと片手を上げ、さっさと部屋を出ていった。


 わざわざ第二(・・)などと……。

 嫌な言い方をしやがって。


 まさかリックは第一()派ではないだろうな?

 ……そんなわけないか、二人はおそらく会ったこともないだろうし。


 ああ……そんなことより、どうする!?


 シベルが本物の聖女なら、すぐ呼び戻すか……?


 だが、呼び戻してどうする……。

 謝って許されることか?

 いや、どうして僕が謝らなければならないんだ。

 そもそも僕は被害者だ。僕に嘘を吹き込んだアニカとあの母親が悪いのだ。

 あの二人に謝らせれば、シベルは許してくれるか?

 いや、シベルの意思などどうでもいい。

 問題は国王である父上だ。父上は、僕の話を聞いてくれるだろうか……?


 ただでさえ、父上は僕の判断でシベルを王都から追放して、アニカと婚約したことに怒っていて、最近は口をきいてくれない。

 シベルがアニカをいじめていたのだと言っても、父は納得した様子ではなかったのだ。

 そのうえシベルが真の聖女であるかもしれないなど……。


 ああ、ああ。まずい、まずいまずいまずい、まずいぞ……。


 こういうときは、母上に相談しようか――。


 母上なら、なんとかしてくれるだろうか。

 僕は被害者だと、父に訴えてくれるかもしれない。


 ……だが、最近はとくによく、兄が王位を継ぐのではないかという噂が大きくなってきたような気がする。


 アニカが王太子妃として相応しい振る舞いもしなければ、魔物が出ても聖女としての力を見せないからだ。


 母も、アニカのことを好きではない。


 ああ、困った。こうなるのなら、もっと落ち着いて、よく調べるんだった。

 このままでは本当に兄が王太子になってしまうかもしれない……。


 というか、兄は今どこで何をしているのだ?

 いっそのこと、戦死してくれていないだろうか……。

 そうすれば、僕が次期国王になるのは間違いないのに……!


 ああ、困った、困った。本当に困った……。


 シベルは今頃、あの辺境の地で何をしているのだろうか――。





シベルは幸せにしていますのでお構いなく!



皆様お優しいコメントありがとうございます( ;ᵕ;)‬

お一人お一人のブックマークや評価、いいね、あたたかい感想に救われて執筆できています。

お返事ができておりませんが、いつも笑わせてもらっています!

この場にて感謝申し上げます。


これからまだまだ、シベルの変t……ぶりやラッキー筋肉も予定しておりますので、引き続きお付き合いいただけると幸いですm(*_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 民衆の「こうなればいいな」を叶えていくのが王の務めなのに、全部天命任せにしている時点で王の資格はねーんだよ馬鹿王子
[良い点] 初めて感想を送らせていただきます。本文ではなく作者様の一言?の【ラッキー筋肉】に噴き出してしまいw私も騎士様大好きなので、シベルちゃんに共感しながら読ませてもらっています。 [一言] いつ…
[一言] ラッキー筋肉という新ジャンルなパワーワードがボンクラ王子の懊悩とか押し退けて全部持って行った模様( ・ω・)
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