31.今すぐにでも妻にしたい※レオ視点
「――シベルちゃん」
「あ、レオさん」
扉の開いていた俺の部屋を覗くと、シベルちゃんが一生懸命床を磨いてくれているところだった。
それも、素手で。
「すまないね、君は午後から休みだろう?」
「いいんですよ、これくらい!」
部屋に入り、彼女に声をかけて近づくと、シベルちゃんはそう言ってにこりと笑った。
シベルちゃんのその明るい笑顔に、俺の胸はぐっと熱くなる。
本当に、彼女はまったく嫌そうな顔をしていない。
それも、俺が声をかける前から。
ただ一生懸命床を磨いていたのだ。
……なんていい子なのだろう。掃除なんて、嫌だろうに。
彼女は本当に健気で、とても可愛い……。
「……レオさん?」
胸の奥が、きゅーっと掴まれるような感覚を覚えた。
健気なシベルちゃんを思っていたら、俺の身体は自然と彼女に近づき、膝を折って視線を合わせ、床を磨いていたその手に重ねるように触れていた。
「ありがとう、シベルちゃん。水が冷たいだろう?」
近くに置いてあるバケツの中身は、きっと水だ。
彼女の手はとても冷たく、指先が少し赤くなっている。
「……大丈夫ですよ、これくらい。それよりいつも頑張ってくださっているレオさんたち騎士の方々が、少しでもお部屋で疲れを癒やせるなら、私も嬉しいです」
「……シベルちゃん――」
な、なんていい子なんだ……!!
こんないい子、他にいるか!? いや、いない!!
キラキラーと輝いて見える笑顔でそういう彼女に、嘘はないだろう。
彼女のこれまでのことを思うと、本当に泣けてくる。
今までどれだけ酷い仕打ちを受け、どんなことを言い聞かせられて育ったら、こんなことが言えるのだろうか。
それも、こんなに無垢な笑顔で……!!
胸が打たれる。
愛おしく思わないほうがおかしいくらいだ!!
「俺もいつも頑張ってくれている君に、もっと癒やされてほしいと思っている」
「まぁ」
心の底からそう思う。今すぐにでも妻にしたい。こんなむさ苦しい男ばかりの騎士団の寮で働かせることなんて辞めさせて、もっと安全な場所で、いい暮らしをさせてやりたい。
好きなことだけをして、好きなものを食べて、好きに生きてほしい。
……だが、今の俺になにができるだろうか。
「ありがとうございます、そのお言葉で、私はとても癒やされました」
だが、再びにっこりと微笑みながらそう言ってみせたシベルちゃんに、俺の胸は鷲掴みにされる。
う……っ。可愛い……!!
「そうだ、何か食べたいものはないか?」
「え?」
シベルちゃんはいつも本当に美味そうに食事をする。きっと今まであまりいいものを与えてもらえなかったのだろう。
だから、彼女が食べたいものを食べさせてあげたい。
「いつも美味しい食事をいただいてますよ」
「そうだが……君は何が好きだ? 甘いものは好きか?」
「……? なんでも好きですが、甘いものも好きです」
「そうか」
よし。
今度街に行って、ケーキを買ってこよう。
ヨティが街に人気のケーキ屋ができたと言っていたな。そこのを買ってこよう。
「今日は昼食をとったのかい?」
「いえ、これからですが……」
「では、掃除はもういいから、一緒に食べよう。今日はトマトソースのショートパスタだった」
「はい……」
そう言って一緒に立ち上がり、バケツを持って部屋を出ようと歩き出した俺の後ろで、彼女は「あ……」と小さく声を漏らした。
何かと思って振り返ると、彼女は寝台の上に無造作に置いてあった白い布を拾い上げた。
「これ、洗濯物ですよね? 洗いに出しておきますね」
「ああ、すまない――」
やはり、今朝着替えたものをそのままにしてしまっていたのか。
俺としたことが、今日掃除が入る日だということをすっかり忘れていた。
「だが、それは自分で持つよ」
彼女が持ち上げたのは、寝ているときに着ていたシャツだ。
汗もかいているだろうし、そんなものをシベルちゃんに持たせるのは照れくさい。
だから一度バケツを置いて、彼女の手からそれを受け取ろうとした。
しかし、何かがぽとりと、床に落ちた。
「……?」
「あ……」
それがなんであるかは、視線を落とした瞬間に悟る。
「なにか落ちましたね」
「…………!!」
だから俺より先にそれを拾おうと屈んだシベルちゃんに、俺は慌てて手を伸した。
「大丈夫だ……!!」
「えっ?」
「さぁ、行こうか。あ、それも俺が持つから」
「あ……っ」
今落ちたのは、間違いなく下穿きだ。
彼女は気づいていないようなので、助かった……。
それでも洗い物をすべて受け取り、バケツを持ち直して、熱くなっている顔をシベルちゃんに見られないようまっすぐ前を向いて、今度こそ部屋を出た。
それが何かシベルが気づいていたら大変なことになっていたことでしょう……!
シベルが何してたか予想コメント、「それめっちゃいいw」と思いながらニヤニヤして読んでます( *´艸`)
いつか書きたい……!笑
次回、シベルサイドです!