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30.そんなものあるはずないだろう!※レオ視点

 シベルちゃんは本当に純真無垢で、穢れのない清い心を持った女性だ。


 先ほど、酔っ払ってリックと力比べを始めたヨティが、勢い余ってシャツを脱いでしまった。近くでそれを見たシベルちゃんは、顔を真っ赤にして咄嗟に目を伏せていた。


 当然だ。彼女はずっと妃教育に明け暮れ、王子と婚約していた清い娘だ。


 男の裸など、当然見慣れているはずがないし、見たくもないだろう。

 だがそれを言うなら、俺も先日不本意ではあるが、彼女の前で身体をさらしてしまったな。


 本当に申し訳ないことをした……。


 やはり俺たちは、女性と一緒に生活しているということをもっと意識したほうがいい。


 ヨティもすっかり酔いつぶれていたから、あの場はそのままお開きとさせた。


 しかしシベルちゃん……あんなに顔を赤らめて、恥ずかしそうに顔を伏せて――。


 あのときの彼女の反応を思い出すと、胸が締めつけられる。


 とても純情で、本当に可愛い女性だ。


 改めて彼女のことが好きになってしまった。

 あんな子が、こんな男ばかりの寮にいるなんて、本当は辛いだろう。改めて申し訳なく思う。


 それでも俺たちを気遣って「大丈夫」と言ってくれた彼女は、本当にいい子だ。


 感謝しなくては。




 *




「あれ? 今日はシベルちゃんいないんすか? 珍しいっすね」


 翌日の昼食時。今日は非番のヨティが食堂に入るなり、きょろきょろと辺りを見回して言った。


 彼は昨日あれだけ飲んでいたというのに、もうけろっとしている。


「シベルちゃん、今日は午後から休みだろ」

「あ、そうなんすね。……っていうか団長、シベルちゃんの勤務時間、しっかり把握してるんすね」

「いや……! それは、団長として、皆のスケジュールを把握しておく義務がだな、」

「はいはい、そういうことにしておきますよー」

「本当だぞ!?」


 俺は基本的に、いつもここで昼食をいただく。

 部下たちは外に出ている者が多いから、昼食時の食堂はいつも人が少ない。

 だから、実はシベルちゃんとも話ができるチャンスなのだが……彼女は今日はいないようだ。休みでも配膳を手伝うことも多いから、確かに姿が見えないのは珍しい。


「シベルちゃん、何してるんだろう? 俺も暇だし、デートにでも誘ってみようかなー」

「なに!?」


 俺と並んで席に着いたヨティから発せられた言葉に、俺は過剰に反応してしまう。


「冗談っすよ、団長に目ぇ付けられたくないんで」

「……まったく、君は」


 彼は俺の反応を楽しむようにカラカラと笑って毛先の跳ねた金色の前髪をくるくると指で巻いた。


「俺もここ、いいですか?」

「ああ……」


 そんな俺たちと同じテーブルにやって来たのは、新人騎士のリック。

 

 彼は突然、王都から派遣されてきた。

 今までは隣国に留学して魔法を学んでいた、一見優秀な男なのだが……。

 なぜ今になって突然第一騎士団に派遣されてきたのだろうか。


 トーリはここ最近、すっかり魔物の被害がなく、落ち着いている。


 むしろ、数日前に入った情報によると、先日数年ぶりに王都に魔物が出たようだ。

 王都には第二、第三騎士団がいるから大丈夫だったようだが、もしこのようなことが続けば俺たちが呼び戻される可能性もあるかもしれない。


 ……というか、やはり王都からシベルちゃんがいなくなったせいではないかと、俺は思っている。


「シベルちゃんって、だいたいいつも食堂にいるんですか?」

「ああ、シベルちゃんは料理担当だから。休みでも手伝ってくれたりするし、本当に働き者でいい子だよ。ね、団長」

「あ、ああ……そうだな」


 リックとヨティの会話を半分聞きながら、俺は俺で考え事をする。


 リックは、マルクスから送られてきた密偵ではないだろうか……?


「へぇ……シベルちゃんって皆に好かれてるんですね」

「あの子を嫌いな奴なんていないって。料理は美味いし、いつも明るくて元気で優しくて頑張り屋で、それに可愛いし。あ、でもあんまり言うと団長が妬くから、ほどほどにしないと」

「ヨティ!」


 また、笑いながらそんなことを言ったヨティの言葉を聞いて、リックは「へぇ」と意味深に頷いた。


「団長はシベルちゃんのことが特別に好き、ということですか」

「いや、そういうわけでは――」

「そうそう、だからシベルちゃんに手を出しちゃ駄目だぞ?」

「ヨティ!」

「なんすか、新人にもちゃんと教えておかないと。団長、奥手だから」

「……君は本当に」


 ヨティは悪い奴ではない。こう見えていつも稽古には真剣に取り組んでいて、若くして第一騎士団のエースと言われているだけのことはある、仕事熱心な男だ。


 だがどうも、ノリが軽くて調子が狂う。

 ヨティは俺の弟と同い年だが、弟とは性格が違う。

 まぁ、弟とは全然話したことがないから……俺はヨティのことを弟のように思っている節があり、なんだかんだ可愛いのだ。


 そういえば、リックも彼らと同い年だな。


「シベルは今、団長の部屋を掃除してくれていますよ」

「え?」


 そんな俺たちのところに、大量のショートパスタが入った大皿を運んできた、エルガが言った。


「手伝いますよ、エルガさん」

「ありがとう」


 トマトソースで味付けされたショートパスタを率先して皿に取り分けてくれているリックを横目に、俺はエルガに問いかける。


「シベルちゃんが俺の部屋を?」

「はい。実は掃除担当の者が風邪を引いてしまって」

「なに? 大丈夫なのか?」

「大したことはないのですが、大事をとって今日はお休みにしました。それでシベルが代わりにやると言ってくれて」

「ああ……なるほど」


 俺たちは普段、簡単な掃除は自分たちで行っている。

 だが毎日数人の部屋を順番に、寮母の者がしっかりと掃除してくれるのだ。だから定期的に大掃除をしてもらえるので、普段は簡単な掃除だけで大丈夫というわけだが……


 シベルちゃんは本当に働き者だな。

 俺の部屋の掃除なんて、いつでもいいのに。

 

「たまには休めばいいものを……ちょっと様子を見てくる。俺の分は後で食べるから、残しておいてくれ」

「あー、団長。シベルちゃんに見られたらまずいものでも置いてあるんすか?」

「そんなものあるはずないだろう!!」


 ……たぶん。


 からかってくるヨティに大声で否定したが、下穿きをそのままにしていたりしなかっただろうか……?


 それを彼女に見られるのは、なんとも照れくさい。

 いや、決して他の寮母になら見られていいというわけではないのだが……。




すみません、レオさん色々アレですが(笑)、もう1話レオ視点続きます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 脱ぎ捨てたシャツ吸いスーハーしてるに1票!(ただし鉢合わせた団長には「俺のシャツを抱きしめている…!?」と青春な方向に勘違いされる)
[一言] いいぞヨティ 外堀を埋めまくれ
[一言] ベッドに顔を埋めてくんかくんかに一票
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