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27.壁にドンってされている

「まぁ、新人さんですか?」

「リックです。よろしくお願いします」


 その日、第一騎士団に新しい騎士の方がやってきた。

 まだ二十歳のリックさんは、何年も隣国に留学していたらしい。

 燃えるような真っ赤な髪と、ルビーのような赤い瞳が特徴的で、体格はミルコさんに並ぶくらい、ムキムキだ。それに、とても背が高い。もしかしたら、レオさんやミルコさんよりも高いかも……。


 リックさんは炎魔法が得意らしい。

 皆生まれながらに魔力は持っているけれど、ある程度の生活魔法が使えるくらいの者が多く、戦いで役立つほどの炎魔法が使える人は、騎士団にもそういない。


 リックさんが留学していた隣国に聖女はいないけど、その代わり魔法の技術がとても発展していて、その力で魔物から国を守っているのだ。我が国でも近年では魔法を学ぶ者が増えていて、リックさんも魔法の勉強をされてきたというわけだ。



「とても頼もしい新人さんが入りましたね!」


 夕食の後、レオさんにリックさんを紹介してもらった。「失礼します」と丁寧に頭を下げてその場から去っていくリックさんの背中を見送りながら、私はレオさんに微笑みかける。


「ああ……そうだね」

「?」


 けれど、同じようにリックさんの背中を見送っているレオさんは、あまりいい顔をしていなかった。


 なぜかしら?


「……それよりシベルちゃん、今日の仕事は何時頃終わりそうだい?」

「えっと……今日はもう片付けだけなので……あと一時間もあれば」

「そうか。では、俺もそれくらいを目処に残りの仕事を片付けてくるから、その後少し話さないか?」


 お話?

 レオさんと?


「はい、わかりました」


 何かしら? レオさんは、私になにか話があるの?


 なんとなく緊張の色を顔に浮べているレオさんに、私はこくりと頷いた。


「よかった。それじゃあ、また後で――」


 話ってなんだろう。

 もしかして、私は何かやってしまったのだろうか……。


 そんな不安を抱きつつ、食堂の隅のほうでレオさんと向き合っていたら、レオさんの背後からとても元気のいい、愉快な騎士たちの笑い声が聞こえた。


 ――と、思った途端。


「うわ!?」

「……っ!」


 突然、レオさんがすごい勢いで私に迫ってきて、ドンっと思い切り壁に手をついた。


「あ……っ、団長、すみません!」

「…………っ!!?」


 レオさんの後ろから、誰かの謝罪の声が聞こえたけど、それどころではない。


 私は今、レオさんに、壁にドンってされている。


 レオさんの大きな手が、太い腕が、私の顔の横にある。


 つい、レオさんが上半身裸で腕立て伏せをしていたあのときのことを思い出し、一瞬にして顔に熱が集まる。


「……あ」


 そして少し視線を上げると、目の前の、すごく近い距離にレオさんの整ったお顔がある。


 レオさんも驚いているみたいで、目を見開いて、私をまっすぐ見つめている。


「…………あの、レオさん」

「……っすまない!!」


 たぶん、時間にしたらほんの数秒のことだったと思う。

 けれど、レオさんがそこから離れるまでの時間が、とても長く感じた。


 一瞬、時間が止まってしまったのかと思った。


 だってレオさんが、そのまま固まってしまったみたいに動かなかったから。


「こんなところで騒ぐな! 危ないだろう!?」

「すみません団長。シベルちゃんも、大丈夫?」

「あっ、はい! 私は大丈夫ですよ」


 どうやら、ふざけあっていた騎士の方が勢い余ってレオさんにぶつかり、彼の背中を押してしまったらしい。


 あー……びっくりした。


 レオさんに突然迫られたのかと思っちゃった。


 そんなわけないし、こんなことはもう二度とないだろうから、役得だったわ。


 ……ありがとうございます。


「本当にすまない、シベルちゃん。どこも痛くないだろうか?」

「私は本当に大丈夫ですよ」


 レオさんが咄嗟に壁に手をついてくれたから、私はどこも痛くない。

 驚いて後退って、背中が壁についたけど、別に痛いというほどではなかったし。


 ……むしろもっとぶつかってきてくれてもよかったのですよ?


 レオさんのあのたくましい身体に押しつぶされるなら、本望です……。


 ……なんて、いけないわシベル。

 またよからぬことを考えてしまった。



「それでは私は片付けをしてきますので、後ほど」

「あ、ああ。それじゃあ、いつもの中庭で待ってるよ、シベルちゃん」

「はい」


 思いがけないご褒美があってドキドキしてしまったけど、まだ仕事は終わっていない。


 もしかしたら私がいつも騎士の方たちを変な目で見ているのがばれて、怒られてしまうのかもしれない……。


 そしたらちゃんと謝って、私の気持ちを正直に話そう。


 だけどとりあえず今は夕食の後片付けを終わらせるべく、私は調理場へと足を進めた。




不本意に壁ドンをしてしまうの巻。

シベルにご褒美が続いておりますが新キャラも出てきました( ¯꒳¯ )


いつも感想ありがとうございます!

皆様のナイスつっこみ、とても楽しく読んで励まされております( *´艸`)

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― 新着の感想 ―
[一言] 感謝x2の日々ですね 幸せそうでなにより
[一言] シベルちゃん、きっとリックに迫られるな… 焦るレオが見ものだ(笑)
[一言] 壁ドンされ慣れたらきっとこの娘、相手の胸筋と会話し出すぞ 更に胸筋の痙攣(?)で相手の機微察する変態になるぞ!(断定
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