23.見たい!!
とても嬉しい。
十歳のときに婚約したマルクス殿下は、妹の言葉を簡単に信じたというのに。レオさんは私が妹をいじめていないと、信じてくれるのね。
「そもそも君が偽の聖女であるという証拠はあるのか?」
「さぁ……? ですが、聖女は同時に二人存在しませんので。妹が真の聖女なら、私は偽物なのでしょう」
予言者がそう告げたわけではないけれど、確かにはっきり私が聖女だと言われたわけでもなかった。
〝聖女はヴィアス伯爵の娘〟
アニカだって、お告げが下りたときは一応ヴィアス伯爵家の娘だったのだ。
「……君は王都にいた頃も、辛いことがあってもそうやって明るく笑って我慢していたのか? それを思うと、俺は……」
「え?」
そう言って、レオさんは苦しそうに表情を歪めた。
王都に居た頃、も?
私に今、辛いことはない。
そして王都にいた頃は、今のようには笑っていなかった。
「えーっと……」
それをどう説明しようかと考えていたら、レオさんは凜々しい眉をきゅっと切なげに寄せながら、少し身を乗り出して口を開いた。
「何か辛いことがあったら、俺がいつでも話を聞くよ」
「……レオさん」
「俺では頼りないかもしれないが……君には本当に感謝しているんだ。それに……、俺は君の気持ちを、少しはわかってあげられるかもしれない」
「え?」
レオさんの手が、膝の上でぎゅっときつく握りしめられた。
だからその言葉は、何かを覚悟して言ったのだとわかる。
「俺の母は、正妻ではなかったんだ。俺は父と愛人の間に生まれた子だった。それで正妻や、後に生まれた弟と顔を合わせづらくて、逃げるように騎士団に入った」
「まぁ……そうだったのですね」
きっと、お辛かったでしょう。
それを私にお話ししてくれるなんて……。
「だが俺は、騎士になって正解だった。今はとても楽しいし、充実している」
そう言いながら、レオさんはまっすぐ顔を上げた。だからその言葉が本心であるのはよくわかる。
「だから、もし君もなにか痛みを抱えているのなら、俺がそれを一緒に請け負えたらいいと思っているんだ。もちろん、無理にとは言わない。ただ、君には味方がいるということを知っていてほしい」
「レオさん……」
本当に、なんていい人なのかしら。
いち新人寮母の私なんかに、こんなこと言ってくれるなんて……!
「ありがとうございます」
「うん……」
胸がジーンと熱くなった。
王都にいたころの私だったら、この人に泣きついていたかもしれない。
その厚い胸に飛び込んで、泣きながらたくましいその胸筋を堪能――違うわ、そうじゃない。
「ありがとうございます。そう言っていただけて本当に嬉しいです! ですが私もここに来て、毎日とても楽しいです。私は今、幸せです」
レオさんのまっすぐな優しさに、私もまっすぐに向き合って応える。
「……それならよかった」
とびきりの笑顔でそう言ったら、レオさんもようやく安心したように微笑んでくれた。
……まだ少し何か腑に落ちないような、気になる表情をしているようにも感じるけど。
「紅茶、ごちそうさまでした。では、私はそろそろ行きますね。この蜂蜜レモンを、ミルコさんにも届けようと思っているので」
「ミルコのところにも行くのかい?」
「はい」
それを伝えたら、レオさんの顔色が少し変わった。
「……俺が持っていくよ」
「え? ですが、お手数をかけてしまいますし……」
「いや、俺が持っていく。彼はこの時間、いつも身体を鍛えているし。後で会うから」
「身体を鍛えてる……?」
自主的にトレーニングしているということ?
ミルコさんが、筋トレを……?
見たい!!
……って、駄目よ、シベル。
そんなプライベートな時間を邪魔しちゃいけないから、レオさんが届けてくれるって言ってくれているんじゃない。
「わかりました。では、お願いします」
「ああ、しっかり届けるから、安心してくれ」
「はい、それでは」
ミルコさんの分をレオさんに託し、今度こそ私は部屋を出た。
それにしても、レオさんにも複雑な事情があったのね。
いつもあんなに優しくて、明るくて、頼りがいのある団長様だけど……。
私ももっとレオさんの力になれるよう、頑張らなくちゃ!
改めてそう思いながら、一瞬ミルコさんのところに向きそうになった足を戻して、今夜はもう自室に向かうことにした。
シベルちゃんの相談に乗ってあげたいのに逆に心配されちゃうレオさんでした。
そんなことよりミルコのトレーニングが気になるシベル……( ;ᵕ;)
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次回、レオ視点です!