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19.からかわれている……。※レオ視点

 シベルちゃんとひと月過ごして、わかったことが二つある。


 まず、彼女が聖女であるために威張り散らし、義妹をいじめたというのは嘘であるということ。


 むしろ酷い目にあっていたのは彼女のほうだろう。


 いつも明るく、謙虚で健気でひたむきな彼女が誰かをいじめるとは到底思えないし、高位貴族であれば当然の食事や部屋にもいちいち素直に感動し、感謝している。


 それによく働くし、俺たち騎士のことをとてもよく考えた食事メニューを提案してくれているという話もエルガから聞いた。


 休みの日だって、ゆっくり寝ていればいいのに早く起きて朝食の配膳を率先して行い、とても嬉しそうな笑顔でにこにこしながら俺たちのことを見守ってくれるのだ。


 あの笑顔が嘘だとは、とても思えない。


 彼女はいつだってとても健気で、一生懸命なのだ。


 だからあのシベルちゃんが義妹をいじめたというのは、何かの間違いだろう。


 そしてもう一つのわかったことは、そんなシベルちゃんに俺は惹かれているということ――。



「おーい、団長ー、聞いてますー?」

「あ? ああ……、悪い。聞いてなかった」


 その日は仕事を終えた副団長のミルコと、第一騎士団の若きエース、ヨティの三人で俺の部屋に集まり酒を飲んでいた。


 昼間のシベルちゃんとのデートを思い出して、彼女のことを考えてぼんやりしていた俺に、ヨティが不思議そうに呼びかける。


「どうしたんすか? なんか悩みっすか?」

「いや……」

「あ、わかった。その顔は恋っすね!」

「え?」

「図星だ。相手も当てましょうか? ずばり、シベルちゃん!」

「な……っ、なぜ……!」


 ヨティは毛先の跳ねた金髪を指でくるくる巻きながら、片目を閉じてにやりと口角を上げた。 


「やっぱり! 可愛いっすよね、シベルちゃん。元気いっぱいなのに、なんかのほほんとしてて。それに料理も本当に美味いし、俺たちのことをいつもあたたかく見守ってくれてて」


 ヨティの口から語られた言葉に、俺の胸はどきりと跳ねる。


「ヨティ、君は彼女のことが好きなのか!?」

「好きっすよ」

「!」


 間を開けずに答えられ、俺の頭に衝撃が走る。


「…………そう、か……」

「いや、皆好きでしょう。副団長も好きっすよね? シベルちゃんのこと」

「ああ、好きだな」

「なに……っ!?」


 いつもクールで冷静で、女性にあまり興味を示さないミルコでさえ、ヨティの問いに迷わず頷いた。


「そ、そうか……そう、なのか…………」

「いや、だからあの子のことを嫌いな奴なんて、ここにはいないと思いますよ?」

「……ああ、なんだ。そういう意味か」

「あ、やっぱり団長は違う意味で好きなんすね」

「……!!」


 からかわれている……。


 俺より五つも年下のヨティは、にやにやと口元を緩めて楽しそうにウイスキーをあおった。


 彼の言う通り、俺は彼女を気にかけて目で追っているうちに、必要以上に彼女に惹かれていっている自覚はある。


「しかし珍しいな。レオが女に惚れたか」

「いや、まだそうだと決まったわけでは――」


 ――ないか? 本当に?


 付き合いの長いミルコは、俺のことをよく知っている。

 俺はこれまで騎士として、剣術のことばかり考えて生きてきた。

 父はたまに結婚を急くような手紙を送ってくるが、両親とはしばらく会っていない。


 そもそも俺は、父の愛人の子で、正妻の息子ではないのだ。


 だから跡を継ぐのは正妻の子である弟だし、俺は家には居づらく、若くして騎士団に入団した。


 女や色恋にはあまり興味がなく、誰かに深入りしたこともない。


 そんな俺だが、彼女には惹かれるものがある。


 彼女のような明るい女性と結婚したいと思わなくもないが……


 もし、彼女が本当の聖女であったとしたら――?


 彼女がプレゼントしてくれたペンダントに触れながら、ふとあのときのことを思い出す。


 彼女が店主に言われてこの石を握り祈ったとき、彼女の身体が微かに光を放ったのだ。


 あれは、聖女の祈りの力ではないだろうか……?


 これでも一応、その手の教育は受けている。


 そのとき聞いたことがあるのだ。


 実際に見たことはないが、あの光はまさにそれではないのか……?


 俺にはまだ確かめる術がないが、そうなると他にも辻褄が合ってくる。


 彼女がこの地に来て以来、魔物が大人しいこと。

 彼女が作った食事を食べるようになってから、俺たちは疲れづらくなったこと。


 それらはすべて、彼女が聖女であれば説明がつくのだ。


 単なる偶然とも思えたが、先ほどのあれはどう説明するのだ。


「……まぁでも、彼女はいい子だ。レオにも合っていると、俺は思うぞ」

「そっすよね。いいじゃないっすか! でも団長の女にするなら早いとこ公表しないと、他に手を出されちゃいますよ」

「なんだと!?」


 ヨティのよからぬ言葉に、既に彼女にはそのような相手がいるのかと声を上げると、彼は怯えたように「冗談っすよ……」と呟いた。


 つい力が入って怖い顔をしてしまったようだ。


 しかし立場を考えると、彼女とのことはもう少し慎重にならねばなるまいな……。




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― 新着の感想 ―
[一言] 訳アリ同士かぁ まぁ燃料でしかないよね(バーニングファイヤー
[一言] 遅咲きの恋ほど、よく燃えて拗らせる・・・ww 好物です!
[一言] シベルは騎士好きた! レオにはもってこい! しかももれなく最強の盾が手に入ります!(笑)
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