18.プレゼントです!
「……どうでしょう?」
こういう可愛い色は、今まですべてアニカが着ていた。
継母は、私にはこういう色は似合わないと言い、古くなって色あせた草色や、土色のようなものばかりを選んで渡してきた。
今日のもそうだけど……素敵なレオさんと並んで歩くには、やっぱり少し地味すぎた?
「うん。思った通り。とても似合っているよ」
「……本当ですか?」
「俺は気の利いたお世辞を言えない男だ。鏡を見てごらん」
その言葉に、店主が向けてくれた鏡の前に立ってみる。
「……わぁ」
「ね、似合っているだろう?」
「……はい」
自分で言うのもなんだけど、このほうが確実に顔が明るく見える。
「君のプラチナブロンドの髪にもよく合っているよ」
そう言って私の隣に並んだレオさんが鏡に一緒に映って、どきりと鼓動が跳ねた。
だって、一瞬……本当に一瞬だけ、私たちは本当の恋人同士のように見えたから。
もちろん私の願望がそう見せただけだということは、わかっているけど。
「これをいただこう。このまま着て帰りたいのだが」
「では、着ていたものをお包みしますね」
「レオさん……本当によろしいのですか?」
「ああ、もちろん。それを着て、また一緒に出かけられたら嬉しい」
また一緒に出かけてくれるの?
社交辞令だとしても、とっても嬉しいわ!
「ありがとうございます……!」
「いや……」
嬉しすぎてつい、淑女であることを忘れて目一杯の笑顔で言ってしまった。
そしたらレオさんが私から目を逸らし、気まずそうに視線を泳がせた。
人前なのに、はしゃぎすぎてしまったかしら……。
レオさんの頰がほんのりと赤く染まったように見えたけど、それはやっぱり恥ずかしかったから?
すみません……気をつけます。でも、嬉しかったんです……!
それから私たちは、お店を出てまた少し歩いたところで見つけた出店で軽食をとり、また少し歩くことにした。
「――とっても美味しかったですね!」
「喜んでもらえてよかった」
私たちが食べたのは、焼いた鹿の肉や野菜を串に刺したものと、この地の名産であるりんごのジュース。
お肉は柔らかくて臭みもなく、塩味がちょうどよくて、りんごジュースは甘みと酸味が絶妙だった。
晴天の下、こんなに素敵な騎士様と外で串料理にかじりついて談笑するのは、とても楽しくて最高に美味しく感じた。
毎度思うことなのだけど、マルクス殿下とでは絶対に経験できないことだったと思う。
「でも、食事までご馳走になってしまって……今日は私がレオさんにお礼がしたくて誘ったのに」
あまりにも楽しくて忘れそうになってしまうけど、いつも洗濯物を干すのを手伝ってくれるレオさんにお礼がしたかったのは私のほうなのだ。
それなのに、服を買ってもらって、食事までご馳走してもらった。
「いやいや、あれくらい払わせてくれ。それに俺はとても楽しいから、十分礼をもらっているよ」
「私も楽しいです」
「それを聞けて、俺はもっと嬉しくなった」
「……レオさんったら」
団長であるレオさんは、私より忙しい方だ。
だから貴重なお休みをこうして私に使ってくれて、本当にありがたい。
レオさんは優しくて面倒見のいい方だから、きっと新入りには毎回こうして息抜きと気分転換をさせているのかもしれないわね。
ああ……本当にできた方だわ。
マルクス殿下よりずっと、この国を率いていく方として相応しいとすら思ってしまう。
「レオさん、あのお店に寄ってもいいですか?」
「ああ、もちろん」
そのとき、ふと気になったお店が目にとまった。
何を売っているお店か、遠くからはわからないのだけど、なんとなく気になった。
「いらっしゃい」
店主は、フードを被った怪しげな男。……なんて言ったら、失礼ね。
「わぁ、綺麗」
そこに並んでいたのは、いろんな色の石が付いた、ペンダントやイヤリングなどのアクセサリー。
宝石ではないけれど、とても綺麗で、何か引きつけられる魅力がある。
「何か気に入ったのならプレゼントしよう」
「大丈夫です……っ!! それに私ももうお給料をいただきましたから!」
値札を見ると、私でも買えるくらいの値段が書かれていた。
やはり宝石ではないから、手を出しやすいようだ。
……その割には、他にお客さんがいない。
たまたまかしら?
「あっ、この石、レオさんの瞳の色によく似てますね」
一際私の目を引いたのは、まるでサファイアのような美しい色をした丸い石のついたペンダント。
「よし、プレゼントし――」
「これください!」
レオさんがまたよからぬことを言おうとしたから、先に私がそのペンダントを手にとって店主に声をかけた。
「……お嬢さん、見る目があるね。それはとても力のある石を使っているから、魔除けになるよ」
「本当ですか?」
「ああ、あんたの祈りでも捧げてからそれを身に着ければ、きっと危険から身を守ってくれるよ」
「へぇー、すごい」
値札に書かれた金額を支払い、私は早速その石を両手で握りしめて目を閉じ、祈ってみる。
……どうか魔物や危険から身をお守りください――。
「……シベルちゃん?」
すると、なんとなくだけど、手の中の石があたたかくなった気がした。
本当に、なんとなくだけど。
「――はい、レオさん。プレゼントです!」
「え? 俺に?」
「はい! レオさんが任務や討伐に出ても無事帰って来られるように、祈っておきました!」
気休め程度にしかならないかもしれないけれど、ほんの気持ち。
「……ありがとう。とても嬉しいよ、シベルちゃん。君は本当に優しいね」
大切にするよ。と言って、素直にペンダントを受け取ってくれたレオさんに、私もにっこりと笑顔で頷いた。
やっと聖女らしい一面を書けました。次回、レオ視点。
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皆様の応援のおかげで、「騎士好き聖女」の書籍化とコミカライズが決定しました!!( ;ᵕ;)
シベルちゃんとレオさんたち騎士がイラストで見れるんですって!!
とっても嬉しいです!応援いただきまして、本当にありがとうございます(´;ω;`)
詳細は今後、活動報告やTwitterでしていきますね。
まずはちゃんと本になるよう、続きの執筆を頑張ります!
面白いぞ!おめでとー!頑張れよ!
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