17.デートですか……!?
トーリの街は、思ったよりも賑わっていた。
確かに昔見た王都の街ほどではないけれど、〝危険な区域〟の割には、人もたくさんいるし、皆穏やかな顔をしている。
王都にいた頃にイメージしていた街とは本当に、全然違う。
「おや。レオさん、久しぶりですね!」
「買い物ですか?」
「ああ、だったらちょうどいい! 今日は新鮮なりんごがあるよ! 持っていきな!」
街を少し歩いたら、市場のようなところに出た。
背の高いレオさんは目立つようで、街の人にすぐ声をかけられる。
「ああ、ありがとう。後で寄るよ」
「おやおやおや、そちらのお嬢さんは? まさかデートかい、団長さん」
「はは、そうだといいんだが」
「…………え?」
デート?
デ、デートだといいのですか……!?
私の父よりも年が上に見える方たちにそう言われて、レオさんは頭を掻きながら肯定した。
これは、デートだったのですね……!!
私は今までそんなものとは無縁だった。
会ったこともなければ食べたこともない。
初めてのそれが、レオさんのような騎士の方とだなんて……!!
やっぱり婚約を破棄して、この地へ私を送り出してくれたマルクス殿下には感謝しようと思う。
どうか貴方もアニカと幸せになってね……!
「シベルちゃん、向こうに行こうか」
「はい……っ!」
〝デート〟という言葉に感動してほわほわしていたら、突然レオさんがそう言って私の手を取った。
「…………!!」
「この辺りは人が多いから、気をつけて」
優しく私の手を握り、そう言ってはにかむと歩き始めるレオさん。
うう……これは、エスコートですね。
馬車を降りるときも入れて、本日三回目です。
私はもう、手を洗えないわね、もったいなくて。
ふわふわした気持ちでいる私の手を握って、しっかり誘導してくれるレオさんは、しばらく歩くと市場を離れ、今度は少し立派な建物の前で足を止めた。
「ここに入ろうか」
「はい」
もう、地獄だろうと、どこへでもついていきますよ。
そんな気持ちで頷いて、そのお店に入ったら、中はたくさんのドレスや装飾品が並べられていた。
「……ここは」
それも、どう見てもそれは女性ものだった。
……まさか、レオさんにはそういうご趣味が……?
こんなにたくましくて男らしいレオさんが女性ものを身にまとう姿を一瞬想像しかけて、ぶんぶんと頭を横に振る。
綺麗な顔をされているから意外と似合うかも……じゃないわよ、シベル!!
「よかったら、日頃の礼に何かプレゼントさせてくれないか?」
「えっ?」
そんな馬鹿なことを考えていた私に、レオさんからは思いがけない言葉。
「そんな、そういうわけには参りません! 私はお仕事をしているだけですので……!」
「いや、君が業務以上のことをしてくれているのは知っているよ」
「それは……私が好きでしているだけですので」
確かに私は普段、休みの日もじっとしていられなくて先輩寮母の手伝いをしたり、騎士の方たちの訓練を見学するついでに差し入れを持って行ったりしている。
でもそれはすべて、私得のためだ。
料理の配膳をするのも、差し入れを持って行くのも、騎士の皆さんの喜ぶ顔が見たいから……!
「ありがとう」の言葉と笑顔が私の報酬なのだ。
とくに訓練の見学は、皆真剣で、格好よくて、たまらない。これぞ、騎士、なのだ。一生見ていられる。
だからレオさんにプレゼントしてもらうなんて、滅相もない!
これからも訓練を見学させてもらえれば、私はそれでいいのです。
「遠慮しないで。迷惑ではないのなら、受け取ってくれないか?」
「迷惑なはずありませんが……! でも、」
「それじゃあ、受け取ってくれるね」
にっこりと微笑まれてしまえば、私の首はコクリと上下に動く。
ああ……もうっ! 正直な身体なんだから!!
「よかった。それじゃあ、これなんてどうだろう? よかったら着てみてくれないかな」
「素敵ですが……私に似合うでしょうか?」
レオさんが手に取ったのは、落ち着きのある桃色のワンピース。胸のところに控えめにリボンがついていて、派手すぎないけど可愛い。
「きっと似合うよ」
店主に声をかけ、促されるままに試着させてもらった。
デート回、続きます。
ただ今せっせと続きを執筆中。
「地獄には行かんよw」
「正直でよろしい」
と思った方はブックマークや評価、いいねをぽちぽちして作者の背中を押していただけると嬉しいです!( ;ᵕ;)