15.初恋の騎士様に似ているのかしら?
「シベルちゃん、手伝うよ」
「レオさん」
その日、昼食を終えて洗濯物を干していたら、レオさんが手伝いにきてくれた。
レオさんは手が空いているとこうしてよく、洗濯物を干す係の私を手伝いに来てくれる。
団長様なのに、優しい方よね。
「いつも言ってますが、ゆっくり休んでいてくれていいのですよ?」
「いや、ただでさえここは人手不足だからね。俺たちもできるだけ自分たちのことは自分たちでやりたいんだ。君たちにはいつも本当に助けられているし」
「ですが、お疲れでしょう?」
「最近は魔物もおとなしいから、疲れていないよ。そういえば、それは君が来てからのような気がするな」
「まぁ、そうなんですか?」
洗ったばかりの洗濯物を高いところに干そうと、背伸びをしていた私からさりげなくそれを受け取り、簡単にかけてしまうレオさん。
ああ……背が高いっていいわねぇ。
「まぁ、もし魔物が襲ってきても、俺たちが必ず君を守るから、安心してほしい」
「騎士団の方たちは本当に心強いですね。ありがとうございます」
その後も、結局レオさんはいつものように世間話をしながらどんどん高い位置にある竿に洗濯物を干していってくれた。
「――今日もありがとうございました」
「いや、俺も君と話ができて楽しいよ」
「まぁ」
レオさんは本当にお優しい方だわ。私が気を遣わないようにそう言ってくれているのね。
「でも、今度何かお礼をしなければなりませんね」
「それじゃあ――」
洗濯物を干し終わり、別れ際。
何気なく発した言葉に、レオさんが反応した。
「今度休みが合う日、一緒に出かけないか? 最近は本当に魔物も落ち着いているし。もちろん、君がよかったらで構わないのだが」
「まぁ」
レオさんとお出かけ? なんて素敵なのかしら。
子供の頃から妃教育を強いられ、聖女として箱入りだった私は、ろくに出かけたことがなかった。
婚約者だったマルクス殿下は王子だし、デートらしいことをしたこともない。
そんな私が、こんなに素敵な騎士様とお出かけできる日が来るなんて、これ以上ないご褒美だわ。
「私はもちろん構いませんが……そんなことでよろしいのですか?」
「もちろん! ぜひ君と出かけてみたい」
レオさんは凜々しい眉を優しげに下げ、嬉しそうに笑った。なんだかとても可愛いわ。
「それでしたら、ぜひ」
「よかった。それじゃあ、どこに行くかは俺に任せてもらってもいいかな? 変なところには連れて行かないよ。この辺りは危険な場所も多いから、安全面をしっかり考えて――」
「もちろん、お任せしますよ」
真面目らしいレオさんに、私もにこりと微笑んで答え、その場は解散した。
それにしても……憧れの騎士様と二人で出かける約束をしてしまったわ……!!
ああ、これはなんというご褒美なのかしら……!
人手が足りないから、私たちは丸一日休みをもらえる日がとても少ない。
騎士の方たちも、非番の日には私たちの仕事を手伝ってくれたりするし、寮母の仕事は、〝仕事〟という感覚というより、役割というか、協力しているイメージが強い。少なくとも、私は。
だから一日中出かけるというわけにはいかないだろうけど、ほんの二、三時間でも、大好きな騎士様とお出かけできるなんて、夢のよう。
それもお相手はあの、レオさん。
優しくて、親切で、気配りまでできる、騎士団長様。
それに背が高いし、肩幅もがっしりしていて胸板が厚くて腕が太くて手も大きくて脚も長くて腰もしっかりしている――頼れる騎士様。
ひょろひょろだったマルクス殿下とは比べ物にならないほどたくましい、私の理想の騎士様!
ああ、それから黒い髪も素敵よね!
黒髪の騎士――。
なぜだかわからないけど、そんなレオさんが特別魅力的に見えるのよね。
騎士団長様だからかしら?
それとも、昔読んだラブロマンスに登場する、私の初恋の黒髪の騎士様に似ているのかしら?
……初恋の騎士様?
それはなんていう小説だったかしら。
私が騎士を好きになったのは、もう八年前。
なんとなく、私の中で理想の騎士像があるのだけど、それは小説に出てきた黒髪の騎士を想像しているのか、実際にそういう騎士を見たのか、ぼんやりとしか覚えていない。
騎士が登場するロマンス小説をたくさん読んだから……忘れてしまったのかしら。
うーん。すべて覚えているつもりだったけど……。
もしかして、レオさんには会ったことがあったりして。
父について騎士団の演習を見たのは九歳のときだ。
忘れていたって仕方ないわね。
ああ……それより、騎士団に心を奪われたあの頃の私に教えてあげたら、なんて言うかしら!
きっと驚いて信じてもらえないでしょうね。
それでも私は伝えるわ。
〝料理や家事を頑張っていれば、いつか必ず役に立つときがくるから、続けてね〟
――って!
皆様のおかげで週間総合1位になれました!
いつもありがとうございます!