131.濡れたシャツと筋肉2(番外編SS)
続きです……☆
「――へぇ、大浴場をプールに?」
「はい! どうぞ、ぜひ入ってみてください!」
大浴場の一つに、冷たすぎず適度にひんやりした水を張り、水着を持っているヨティさんとリックさんに早速入ってもらうことにした。
「……おおっ、確かに水が冷たくて気持ちいいっすよ!」
「そうだな。まぁ……深くはないし、プールって感じではないが」
ジャブジャブと音を立ててプール(もどき)に浸かるお二人は、まぁまぁ楽しそう。
「ただの水風呂って感じだけどな」
「とりあえずはこれでいいんじゃない?」
ヨティさんとリックさんのやり取りに、私は内心で安堵する。
屋内だけど、お湯ではないから湯気がないし、水着一枚だからお二人の美しい筋肉がとてもよく見える。
……でも私にはちょっと、直視するには刺激が強すぎますが……。
「お二人も、よかったらぜひ」
気を取り直して、私は様子を見にきてくれたレオさんとミルコさんにも提案した。
「とりあえず俺はいいよ、また今度、鍛錬の後にでも……」
レオさんがやんわり断ると、リックさんが声をかけた。
「そんなこと言わずに、殿下もどうですか?」
「俺たちはまだ仕事が残っているんだ、遊んでる暇など――」
レオさんがそう口にした、直後だった。
〝バシャッ!〟
リックさんに水をかけて遊んでいたヨティさんの手から、レオさんめがけて水しぶきが飛んできた。
「うわっ!? こら、ヨティ! なにをする!」
「ははは、濡れちゃいましたね。脱いだほうがいいっすよ」
まぁ……!
わざとではないかもしれないけど(いえわざとかも?)、ナイスです、ヨティさん!
思わず心の中で拍手を送ってしまう。
水滴で濡れたレオさんのシャツが肌に張り付いて、鍛え抜かれた身体のラインがうっすら浮き上がる。
ああ、なんというご褒美!
「ヨティさんの言う通りです、このままでは風邪を引いてしまいますので、いっそ脱いでしまいましょう!」
「……シベルちゃん」
興奮しているのを悟られないように、精一杯真面目な顔で言ったつもり。
「……レオはしばらく遊んでいていいぞ。俺は仕事に戻る」
「あれ? 副団長は一緒に遊ばないんすか?」
「おまえたちもほどほどにな」
「は~い」
ミルコさんは小さく息を吐いて、いつも通りのクールな表情のまま出ていってしまった。
「さぁレオさん。お仕事の気分転換だと思って、どうぞ」
「しかし、俺は水着を持ってきていないし……」
「あっ」
そうか……そうでした。
レオさんとミルコさんはとりあえず様子を見にきただけだから、何も用意していないのよね。
「し、失礼しました」
「いや、いいんだ。また今度ね――」
まさか、ここでレオさんを素っ裸にするわけにはいかない。
落ち着くのよ、シベル……冷静になって!
深呼吸をして淑女らしく微笑んだとき。
〝バッシャーン!〟
一際大きな水しぶきが私たちの頭上から降ってきた。
「あ、ごめん、シベルちゃんにもかかっちゃった」
「……ヨティ! いい加減にしろ!」
「すみません」
「いいえ、大丈夫ですよ――」
確かに濡れてしまったけれど、こんなのは着替えて乾かせばいいだけだから、全然平気――な、はずだったのに。
目の前に立つレオさんを見て、私は言葉を失った。
「…………あ、ああ……なんという……」
「ん? どうしたんだい、シベルちゃん」
白いシャツ一枚のレオさんの身体にたくさん水がかかったせいで、そのシャツがぴったりと肌に張りついている。
六つに割れた芸術的な腹筋が、透けるようにうっすら見えて――。
「これは……なんという破壊力……!!」
「え?」
全部がはっきり見えるわけではない、この微妙に隠された感じが、むしろなんとも言えない色気を醸し出している。
脱いでいるヨティさんやリックさんよりも、色っぽいかもしれない……。
「ああ……っ、耐えられません……!」
「シベルちゃん!?」
目の前でそんなレオさんを見てしまった私は、目眩を感じてふらりと身体が傾いた。
「しっかりして、どうしたんだ、シベルちゃん!!」
「……私が、欲を出すから……」
「え?」
倒れる寸前、レオさんのたくましい腕が私の身体を支えてくれた。
「シベルちゃん、大丈夫っすか? 俺が水をかけたせいかな」
「違いますよ……ヨティさん」
ヨティさんとリックさんも、心配してこちらに駆け寄ってきてくれた。
三人が私の顔を覗き込んでいる。
そのたくましい胸筋も、しっかり見える。
「大丈夫? シベルちゃん」
「……駄目です」
「え!?」
「大変だ、のぼせちゃったんじゃないっすか?」
「湯気も立っていないのに、のぼせるわけないだろ」
「そっか。それじゃあ本当にどうしたんだろ」
皆さんが心配してくださっている声が、遠くのほうから聞こえる気がする。
でも私は大丈夫です……。とても幸せです。
「とにかく部屋に連れていって休ませるよ」
そう言って、レオさんは私の身体をひょいと横抱きにした。
「……なんて美しい光景でしょう」
「なにか言ったかい? シベルちゃん」
「いいえ……」
私の顔のすぐ横に、レオさんの胸筋が――!
濡れシャツがぴったりと張りつき、その下に潜む鍛え抜かれた筋肉が……うっすらと浮かび上がっている。
「はぁぁ……」
「動悸が……! 本当に大丈夫かい? 医者を呼ぼうか」
「いいえ! どうかこのまま、レオさんと二人きりでお願いします……!」
「……そう?」
何も知らずに心配する優しいレオさん。
濡れたシャツとレオさんの筋肉がこんなに魅力的だなんて、知らなかった。
「世の中には私の知らないことがまだまだたくさんあるのですね」
「え?」
「私の勉強不足でした……」
「一体なんの話をしているんだい?」
「いいえ……こっちの話です」
「?」
レオさんはご自分がどれほど魅力的な姿になっているか、自覚がないのね。
……でも、いいんです。
私だけが知っているこの贅沢な景色――堪らないほどの、役得です。
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