130.濡れたシャツと筋肉1(番外編SS)
毎日暑いのでSS書きました!
「海は本当に素敵だったわ……」
その日はとても暑かった。
私は、バーハンド王国での思い出に浸っていた。
騎士様たちの訓練を見学している今も、ふと思い出してしまうのはレオさんたちと一緒に訪れたあの美しい海。
青い空と果てしなく広がる水平線の下、白い波しぶきが弾けるたび、レオさんたちの筋肉が水滴をまとってきらきらと輝いていた光景――。
ああ、なんて素晴らしいひとときだったのかしら。
「暑ぃー! あー、汗かいた~」
そんな幻想から目を覚まさせる、少し離れた場所から聞こえた陽気な声。
振り向くと、訓練を終えたヨティさんとリックさんが、手で汗を拭きながら歩いてくるところだった。
「汗を流しに行くか」
「そうだな」
リックさんの短い言葉に、ヨティさんが頷いた。
「しっかしバーハンドで行った海は楽しかったよな~」
「まぁな」
「あーあ、近くに海があればな~」
「この国の王都に海なんてあるかよ」
「じゃあ湖でもいいぞ。今から行くか?」
「行かねぇよ」
ヨティさんの無邪気な提案に、リックさんが鋭いツッコミを入れる。
やっぱり、お二人も海が恋しいのね。
私もあの楽しい時間が脳裏に蘇り、じっとしていられない気持ちになった。
なにか、皆さんが喜んでくれるようなことを考えられないかしら……。
「そうだわ、騎士様用にプールを作りましょう!」
ふと閃いたアイディアに、私は思わず声を上げる。
海や湖を王宮に用意するのはさすがに難しいけれど、簡易的なプールならどうにかなるはず。
待っていてくださいね、ヨティさん、リックさん、皆さんも!
素敵なプールで、また水遊びを楽しんでいただきますから!
そうと決まれば善は急げね!
私はそのままぴゅーっと走り出し、レオさんの執務室に向かった。
「――え? 騎士用にプールを?」
執務室で書類を片付けていたレオさんは、私の突然の提案に一瞬動きを止め、目を丸くした。
「はい! 皆さん、訓練でたくさん汗をかいていらっしゃいますし、すぐに汗を流せる環境があればもっと快適にトレーニングに励めると思うんです。それに、水の中で動くことで負荷も高まって、一石二鳥です!」
私が熱弁をふるうと、レオさんは少し困ったように笑った。
「確かに、君の言う通りかもしれない。しかし、プールを用意するとなるとそれなりに時間がかかるよ?」
「ですので、大浴場を一つ、騎士様用のプールにしてはいかがかと思いまして!」
「大浴場を?」
この王宮には、いくつかの大浴場が備わっている。もちろん、たくさんいる騎士様用の大浴場もある。
そんな大浴場の一つをプールにするなんて、普通なら突飛な提案かもしれないけれど、私は既に完璧(?)な計画を考えているのです。
「そうです、プールが完成するまでの仮設として、大浴場に水を張っていただき、訓練の後に皆さんに使ってもらうのはどうでしょう?」
〝水着〟も用意して、皆さんにお配りすれば、気兼ねなく使ってもらえるはず!
「ナイス案ではないでしょうか? あ、お掃除はどうか私にお任せください!」
「……それではただの水風呂だな」
執務室にいたミルコさんが小さな声でなにか呟いたけど、私はにこにこしながらレオさんの返事を待つ。
「うーん……、シベルちゃんがそこまで言うのなら、試しに水を張ってみようか?」
「俺は構わないが」
「では、早速騎士様たちを呼んできますね!!」
レオさんとミルコさんの承諾を得て、私は勢いよく返事をすると、やる気に満ち溢れた気分でぴゅーっと執務室を飛び出した。
「あっ、シベルちゃん……!」
レオさんの声が背中に届いたけれど、私の頭の中はもう、皆さんの喜ぶ顔や、水中で鍛え上げられた筋肉がどれほど美しくなるのかという想像でいっぱいだった。
「これから忙しくなるわね!!」
私は足取り軽く、大浴場へと向かった。
続きます……☆





