129.今日も幸せです!
「――まぁ……とっても素敵ですね」
「ああ、本当に」
レオさんのお部屋に行くと、テーブルの上に小さな箱に入った指輪が置かれていた。
その入れ物すらとても可愛くて、私は感動してしまったけれど。
蓋を開けると、プラチナに輝くリングにレオさんの瞳の色に似たブルーダイヤモンドの魔宝石が埋め込まれた指輪が二つ、美しく並んでいた。
この世でただ一つの、レオさんと私の結婚指輪。
「私の魔力を付与してもいいでしょうか?」
「もちろん。そうしてくれると、俺も嬉しいよ」
「はい!」
この宝石は、魔宝石。
聖女の加護を付与することができる宝石。
だから二つの指輪が入った箱を手に取って、レオさんを想いながら握って目を閉じた。
……ここまで、本当に色々なことがあったわ。
マルクス様に婚約破棄を告げられて、トーリに追放すると言われて。
私は憧れだった第一騎士団の寮で働けるようになって、レオさんと出会って、とても楽しい日々を送った。
レオさんは私の理想的な筋肉で、いつでも優しくて、とても仲間想いで、素敵な団長様だった。
そんなレオさんにいつしか惹かれ、第一王子様だったレオさんと、真の聖女と認められた私は結婚できることになった。
レオさんと出会ってから、毎日が本当に幸せだった。
これからもずっとずっと、この幸せをレオさんと一緒に守っていく――。
「シベルちゃん……」
「……できました」
「ああ、とても強い魔力を感じたよ」
結婚指輪に埋め込まれている魔宝石は小さなものだけど、さすがは最高級品なだけあって、強力な魔力を付与しても、宝石が割れることはなかった。
元々の質がかなりいい証拠。
「結婚式当日に指輪を嵌めるのがとても楽しみです」
「そうだね、俺もだよ。一体どんな魔力を付与したの?」
「うふふふ。レオさんといつまでも幸せに暮らせるよう、祈りを込めました」
「そうか。聖女様が加護を与えてくれたなら、間違いなく幸せになれるね」
「はい!」
笑って答えると、レオさんもとても嬉しそうに微笑んでくれた。
私はもう既に、十分すぎるほど幸せです。
だからこの幸せを、国中に届けていきたい。
*
そうして二週間後。
ついに私とレオさんの結婚式当日がやってきた。
この日は朝からヘアメイクにドレスアップに大忙しで、全然レオさんと顔を合わせる暇がなかったけれど。
「――シベルちゃん!」
「レオさん」
準備を終えた私の部屋に迎えにきてくれたレオさんに振り向くと、そこには格式ある正装を身にまとっているレオさんがいた。
白い礼服はレオさんの黒い髪と美しいコントラストを描いていて、まるで絵の中から飛び出してきたのかと思うほど、格好いい。
クラヴァットを締めているブローチには、私の瞳の色を連想させるエメラルドが輝いている。
長身で筋肉質な身体にぴたりと沿う仕立てのいい衣装は、レオさんのたくましさを一層際立たせていた。
堂々とされていて、レオさんはもうどこからどう見てもこの国の王太子様だわ。
「シベルちゃん……とても素敵だよ」
「……レオさんも、本当に、すごく、格好いいです」
「ありがとう」
ああ……素敵。
にこ、と小さく微笑みながらも照れたようにはにかむレオさんに、私の心臓は打ち抜かれて倒れそうになる。
でも、駄目よ、シベル。
結婚式はこれから。倒れている場合ではないわ!
「うわ~! シベルちゃん本当に綺麗っすね!」
「うふふ、ありがとうございます」
そんなレオさんの後ろから、ミルコさんとともにヨティさんとリックさんも入ってくる。
ヨティさんは私を見て目を輝かせて喜んでくれた。嬉しい。
「レオ、シベルちゃん、本当におめでとう」
「ミルコさんもありがとうございます!」
ミルコさんはいつも通り落ち着いているけれど、その口元には笑みが浮かんでいるし、「ようやくこの日が来たな……」と感慨深げにレオさんに呟いている。
「とても綺麗よ、シベル。本当におめでとう」
「エルガさん……色々とありがとうございます」
私の隣では、朝からずっと準備を手伝ってくれたエルガさんや、他の侍女たちが目に涙を浮かべて喜んでくれている。
私の侍女の多くは、トーリで一緒に寮母をしていた先輩たち。
今この部屋にいるのは、私とレオさんが仲を深めていくところを見ていた方たち。
だから、感動も一際大きいのだと思う。心から喜んでもらえて、私もすごく嬉しい。
「殿下……シベル……、本当におめでとうございます」
「リックさん」
私をじっと見つめていたリックさんの視線に気づいて目を合わせると、彼ははっとして胸に手を当て、頭を下げた。
「リック、ありがとう。顔を上げてくれ」
「はっ」
リックさんとも色々あったけど、今では信頼できる大切な護衛騎士様。
これからもよろしくお願いしますね!
「では、そろそろ行こうか」
「……はいっ!」
そっと差し出してくれたレオさんの大きな手を見て、八年前に初めて出会った日のことを思い出す。
あのときも、私はレオさんのこの大きな手に救われた。
あのときレオさんが私の手を握ってくれたおかげで、今の私がいる。
あのとき一緒に探してくれた父はもういないけど……きっと天国でお母様と一緒に笑ってくれているはず。
〝おめでとう、シベル。幸せになれてよかったね――〟
「……お父様?」
「どうしたの、シベルちゃん?」
「……いいえ、なんでもありません」
お父様の声が聞こえたような気がしたけれど……そんなはずないから、きっと気のせいね。
今、私には家族のように大切な方たちがたくさんいる。
お父様、お母様、シベルは今日も幸せです!
心の中でそう呟いて、私はレオさんの手を握った。
3章はこれにて完結となります!
しかし「騎士好き聖女」では、まだ書きたいことがあります……!
少し休んで書き溜めたらまた投稿していきますので、ぜひ今後ともお付き合いくださいますと幸いです。
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