122.君を守る騎士でいたい※レオ視点
王都に帰ってきて、数日が経ったその日。
俺の執務室にて、オスカー殿から第一騎士団の様子について話を聞いていた。
第一騎士団の者は皆、ミルコやヨティたちがいない間も変わらず真面目に訓練に取り組んでいたようだ。
「――それで、魔石が割れた原因はわかったのですか?」
「実際にこの目で見てきたが、原因はわからなかった。何者かの魔力により意図的に破壊された痕跡も残っていなかったしな」
「そうですか」
「だが、とても強力な魔物……たとえば魔族が現れた可能性も考えられる。オスカー殿も念のためそのことを頭に留めておいてくれ」
「わかりました」
彼は俺に言われずとも、いつでも覚悟ができているだろうが。
そうは思うが、念のため第一騎士団の団長である彼にも伝えておく。
「ミュッケ領の湖に突如瘴気が発生したというのも気になりますね」
「ああ……シベルちゃんが浄化してくれたが、原因はわかっていない」
その報せは王宮にも入っていたから、オスカー殿も気になっていたのだろう。
そちらについても、引き続き調査を行うつもりだ。
「瘴気が発生した湖に殿下ご自身も行かれたのですよね? 何事もありませんでしたか?」
「問題ない。シベルちゃんが湖に落ちてしまったが、俺がすぐに飛び込んで助けたしな」
あのときのことを思い出しながら紅茶を一口飲んで告げた俺に、オスカー殿は大袈裟に目を見開いた。
「なんですと? 瘴気の湖に飛び込んだ……!? 身体は平気ですか!?」
「……なんともない。その後少し風邪を引いたくらいで、今は二人とも元気だ」
オスカー殿は少し心配性がすぎる。
まぁ、俺やシベルちゃんの身を案じてくれているのだから、それはありがたいことだが。
しかし、オスカー殿は俺の返事を聞いてピクリと反応した。
「風邪?」
「濡れたまま帰ったからな。だが少し熱が出ただけで、すぐに引いた。本当に大したことはない」
瘴気が有害であることは知っているが、水を飲んではいないし、すぐにシベルちゃんが浄化してくれたから、浸かっていたのはほんのわずかな時間だった。
「念のため魔導医師にも診てもらってください」
「オスカー殿は心配性だな」
「あなたはこの国の王太子ですよ。それをお忘れなきよう」
「……わかった」
あれから数日が経っているが、本当に体調に異変はない。だがオスカー殿が納得するよう、頷いておいた。
「それから、やはり聖女様の護衛のことも考え直したほうがいいかもしれませんね」
「なに?」
しかし、オスカー殿の話はまだ終わっていないらしい。
続けられた言葉に、今度は俺が顔を上げる。
「聖女様を湖に落とすなど、あり得ない。無事だったからよかったものの、護衛失格です」
「あのとき彼女の一番近くにいたのは俺だった。俺の落ち度だ」
「その王太子殿下まで湖に飛び込ませるとは」
「……っ、だからそれは、俺の意思でしたことだ」
「あなたも、立太子されたのですから、以前と同じ感覚でいられては困ります」
「……わかっている」
オスカー殿が言っていることは正しい。だが、だからと言ってなにもせずに見ているだけなんてことはできない。
目の前にいる聖女を……シベルちゃんを守れないのなら、王太子失格だ。シベルちゃんのためなら、俺の命など惜しくはない。
「とにかく、聖女様の護衛は選び直します」
「待ってくれ、オスカー殿! 彼らは本当に優秀な騎士だ。それは俺がよく知っているし、あのとき他の護衛ならば阻止できていたとも思えない」
そう、もちろんシベルちゃんも俺自身も危険な目に遭わないのが一番だが、だからといってずっと部屋の中に引きこもっているわけにもいかない。
最小の人数でシベルちゃんの護衛を務めるのに適任なのはヨティとリックだ。
それに、俺とミルコもいる。
むしろ彼らがいてくれたからこそ、被害は最小で抑えられたのだ。他の者ならば、もっと大変なことになっていただろう。
「――レオさん?」
「シベルちゃん!」
「すみません、声はかけたのですが……どうかされましたか?」
そのとき。そっと扉を開けて部屋に入ってきたシベルちゃんは、不安そうに俺とオスカー殿に交互に視線をやった。
大きな声を出してしまったせいでシベルちゃんが声をかけてくれたのが聞こえず、心配させてしまったらしい。
「いや……」
「では、私はこれで失礼します」
その間にオスカー殿はソファから立ち上がると俺に一礼して、部屋を出ていってしまった。
「レオさん? オスカー様となにかあったのでしょうか」
「ああ……」
余計な心配はかけたくないが、シベルちゃんには話しておいたほうがいいかもしれない。
オスカー殿が本気で聖女の護衛を変える気なら、いずれ彼女の耳にも入ることだ。
「オスカー殿が、またシベルちゃんの護衛を変えると言い出した」
「え?」
「湖に君を落としてしまったことを聞いて。……困ったな」
「……そうですね」
確かにシベルちゃんを湖に落としてしまったのはまずかった。
無事だったからよかったものの、なにかあったら俺も自分を許せなかっただろう。
だが、ヨティとリックの強さもシベルちゃんへの忠誠心も、俺がよく知っている。彼ら以上の護衛はいないと、言い切れる。
「すみません……、私が油断したせいです」
「君はなにも悪くない! 俺が近くにいたというのに……」
「レオさんは悪くありません!! 今後は私がもっと聖女の自覚を持って気をつけます!」
「……シベルちゃん」
そうだな。今は誰が悪いという話をしているわけではない。
今後、あのようなことが起きないよう、みんなで一層気をつければいいことだ。
「ですが、できればこれからも私が直接各地に出向いて魔石に加護を付与できればいいと思っています。……でも、オスカー様が許してはくれないでしょうか?」
「……どうだろうなぁ」
やはり聖女は王宮にいるのが一番安全だ。
しかし、シベルちゃんの気持ちも尊重したい。
危険は伴うが、そのほうが効率がよく、シベルちゃんの力を存分に発揮できるのは事実だ。
「……どんなときも俺から離れないでくれたら、絶対に君を守るのだが」
「まぁ……」
それは本心だ。
ずっと手を握っていたい。
ヨティとリックではなく、俺がシベルちゃんの護衛になればいいんだ。
そう思って呟いた言葉を聞いて、シベルちゃんが俺の手に触れた。
「レオさんは、今でも私の一番の騎士様ですね」
「……そうだよ」
彼女は〝騎士が好き〟だ。
俺はもう名目上騎士ではないが、彼女の中ではいつまでも一番の騎士でいたい。
「いついかなるときも俺があなたを守りますよ、シベル姫」
「まぁ……レオさん」
だからシベルちゃんの言葉に肯定して、俺も彼女の手を取りその甲に口づけを落とした。
今年も騎士好き聖女をよろしくお願いいたします!!
本日コミックPASH!様にて騎士好き聖女のコミカライズ17話が更新されております!(*ˊᵕˋ*)
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