119.ここは天国ですね
「シベルちゃん、聞いてる?」
「はいっ! なんでしょう!?」
思わずぽーっとしてしまっていた私は、レオさんからの問いかけにハッとして姿勢を正した。
「……アロマをこのように使うことができれば、一度に大勢の者を癒やすことができるだろう」
「それはよかったです。ではもっとたくさんご用意しましょう」
「しかし、また君の仕事が増えてしまう」
「それは大丈夫です! 出来上がる前の、製造途中で加護を付与することができれば、もっと簡単にできると思いますし」
「……なるほど」
騎士団の寮にある大浴場にアロマを入れて、みんな一緒に日頃の疲れを癒やしてもらうのもいいかもしれない。
お掃除は私も協力するわ! 浄化の力を使えばすぐに綺麗にすることも可能かしら?
……もちろん、覗こうなんて考えていない。本当に、純粋に騎士様たちの疲れを癒やして差し上げたいだけ。
「せっかくだから、後でミルコたちにも入ってもらおうか」
「はい! ぜひ!!」
のぼせてしまう(私が)からそろそろ出ようと言ってくれたレオさんに頷いて、一緒に脱衣所に向かおうとしたけれど、ふと立ち止まる。
「そうだわ。レオさん、よろしければお背中お流ししましょうか!」
レオさんのたくましい背中に目がいった私は、ずっとして差し上げたかったことを申し出た。
「え? でも、君も疲れているだろう?」
「いいえ! レオさんのおかげで元気いっぱいです!!」
「……そうか? では少しだけ、お願いしようかな」
「喜んで!!」
小さい椅子に座ってもらい、濡らしたタオルにもアロマを一滴だけ付けて、レオさんの大きな背中にそっと触れた。
「力加減は大丈夫でしょうか?」
「ああ、とても気持ちがいいよ」
「うふふ、よかったです」
こうして間近で見ると、レオさんの背中は本当に大きくてたくましい。
ごしごしと擦りながら、思わず抱きつきたくなる衝動に駆られる。
「シベルちゃん、本当にいつもありがとう」
「いいえ、お礼を言いたいのは私のほうです。色んな意味で」
「……俺は君と出会えて、本当に幸せだよ」
「まぁ」
それも、私の台詞ですけどね?
「そろそろ戻ろうか。腕が疲れるだろう?」
「いいえ、平気です」
むしろ、もっとレオさんのたくましい背中をじっくり堪能したいのに、レオさんは私を気遣って椅子から立ち上がってしまった。
「ありがとう。でも俺はもう大丈夫だから」
「……は、はい」
こちらを振り返ったレオさんの、美しすぎる腹筋が私の目の前に露になる。
私には刺激が強すぎるから目を伏せながら差し出された手に掴まり、立ち上がろうとしたのだけど。
「――あっ!」
「危ない――!!」
立ち上がろうと力を入れた足が濡れた床のせいで滑ってしまい、私の身体は後ろに傾いてしまった。
咄嗟にレオさんが私の身体を支えてくれたおかげで、思い切り頭を打つことは免れた。
「大丈夫? シベルちゃん、怪我はない?」
「はい、レオさんのおかげで大丈夫です」
本当に、レオさんのおかげでどこも痛くなかったのだけど……。
ほとんど床に仰向けで寝ている状態の私に、半裸のレオさんが覆い被さっている。
……なんという役得。
このまま時間が止まってほしい……。
「シベルちゃん、起きられる?」
「……はい、ありがとうございます」
つい、ぽーっとして固まってしまった私に、レオさんが困惑の表情を浮かべたとき。
「――レオ?」
「えっ」
「シベルちゃんも……なにをしているんだ?」
「ミルコ……! 違う、これは……!!」
浴室の扉が開いて、ミルコさんの声が降ってきた。
「……ああ、取り込み中か。だがいちゃつくならこんなところでしないで、部屋でしろ」
「いや、だから違う……!!」
もしかして、ミルコさんも服を着ていない……?
なんだか本当にぼんやりしてきて、よく見えないけれど……。
――ああ、神様。ここは天国ですね。
「うふふふふふ……」
「シベルちゃん!? 大丈夫!?」
「シベルは幸せです……」
「しっかりして!!」
レオさんはとても焦ったような声を出しているけれど、大丈夫です。
シベルはこんなに幸せなのだから。
そう思いながら、私はついに意識を手放した。
3章までくると本当にやりたい放題です……(楽しい)
お付き合いいただきありがとうございます!!
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