117.アロマに聖女の加護を
「俺も行く……!!」
「アルミンは来年まで待て」
私とレオさん(と、ヨティさん)の体調がすっかりよくなったため、王都に向けて出立することになった。
馬車に乗り込む私たちを見送ってくれるミュッケ家の皆さんだけど、先ほどからアルミン君も「一緒に行く」と騒いでいるのを、伯爵が必死に止めている。
「来年、王都の学園に合格したら、そのときは騎士科に通えばいいだろう」
「……そしたら、兄貴も稽古をつけてくれるか?」
「騎士科に入学したらな。そのためにもまずは勉強を頑張れよ」
「……わかった」
王都の学園に通うためには騎士としての剣の腕だけではなく、学問の試験もあり、それがかなり難しいと言われている。
だから、早く王都に来るためにも、今は試験勉強に身を入れるのが一番大切なのは確か。
ようやく納得してくれたアルミン君に心の中で「頑張ってね!」と激励し、こっそり声をかける。
「こっちに来たら、騎士様の魅力について語り合いましょうね」
「ああ、そうだな! シベルも、レオさんと仲良く頑張れよ」
「……もちろんです! 待ってますからね、アルミン君!」
私も、せっかくできた筋肉好き友達のアルミン君が王都に来てくれたら、とても嬉しい。
それにしても、ミュッケ家の皆さんは本当に素敵なご家族だったわ。
馬車に乗り込んでからもずっと笑顔で手を振り続けてくれているヨティさんの弟妹たちを見て、改めてそう感じた。
……やっぱり私もいつか、レオさんとこういう素敵な家族を築いていきたい。
「ん? どうかしたかい、シベルちゃん」
「うふふ、なんでもありませんよ」
その思いは、今度はちゃんと心の中だけに留めておいた。
*
「それにしても、温泉は本当に気持ちよかったですね」
「でしょう? 温泉があればシベルちゃんが魔力を使わなくてもみんなの疲れを癒やせるし~」
「そうですね」
「あーあ、王都でも温泉に入れたらいいのになー」
「……」
帰りの馬車の中でヨティさんとそんな会話をしながら、思った。
天然の温泉を用意するのは無理だけど、お風呂に聖女の加護を付与して入ってもらえば、皆さんの疲労が回復するかもしれない。
湖の瘴気を浄化した要領で、お湯に加護を付与すればいいのでは……?
そんなことはやったことがないけれど、上手くいくような気がする。
「そうだわ、どうせならアロマに加護を付与してお風呂に入れれば、香りも付けられて一石二鳥かも……」
「ん? なにか言った? シベルちゃん」
ぶつぶつと心の声を漏らしてしまった私に、隣に座っているレオさんが耳を傾ける。
「レオさん、帰ったらお風呂に入りましょう!!」
「え?」
「あっ……、もちろん、別々にですよ!!」
大丈夫です、私もそこまでの贅沢は望みませんので……!!
頰を赤らめたレオさんに、はっとして付け加える。
……でも、お背中を流して差し上げるだけなら、いいかしら?
レオさんの、あのたくましい背中を、もう一度ちゃんと……。
「ああ……っ」
「シベルちゃん!?」
そんな姿を想像したら、目眩がした。
*
無事、私たちは王都に帰ってきた。
レオさんはトーリやミュッケでの出来事を陛下に報告したり、報告書の作成をしたりと、忙しくしている。
私も少し休んだら、すぐに聖女の仕事を再開する予定。
けれど、その前に一つ試してみたいことがある。
――というわけでその日の夜の入浴前に、以前レオさんのお母様――ディアヌ様にいただいたアロマの入った小瓶を手に取り、両手で握って聖女の加護を付与してみた。
〝レオさんや皆さんの疲れを癒やせますように――〟
魔石のように、元々魔力を伝達する力のあるものに付与するのとは違い、普通のアロマオイルに聖女の加護を付与するのは少し難しい。
けれど、このアロマには疲労回復効果のある薬草を使っていると聞いた。
だから回復薬を作るときの要領で、聖女の加護を付与してみる。
回復薬を作るときと違って、このアロマは既に完成しているものだけど、きっと大丈夫。
そう信じて、レオさんや皆さんを想って祈った。
「――ふぅ、できたわ」
やっぱり少し時間がかかったけれど、アロマに聖女の加護が付与されたのを感じて力を抜いた。
「これをお風呂に入れたら、きっと温泉のように疲れが癒えるはず……!」
早速入れて入浴しようかとも思ったけれど、レオさんを想って付与したものだし、レオさんはきっと疲れている。
だから、まずはレオさんに使ってほしい。
そう思った私はアロマオイルの小瓶を握りしめてレオさんのもとへ向かった。
ここまで読んでくださっている方は分かっていると思いますが、決してレオさんの入浴が見たいからではありません!
本日、騎士好き聖女のコミカライズ第15話が更新されてます!
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