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114.苦しそうなレオさんも……

「――まさか、二人仲良く風邪を引くとはね」

「レオが風邪を引くのは珍しいな」


 困った顔で小さく息を吐いたエルガさんの隣で、ミルコさんが呟いた。


「私のせいで、レオさんまで巻き込んでしまいました……」

「いや、君のせいではない。俺の鍛え方が足りないからだ」

「いいえ、私が……」

「いや、俺が……」

「いいからもうしゃべらないで、おとなしく寝ていろ」


 翌日、私とレオさんは二人揃って発熱してしまった。

 すぐに医者に診てもらったら風邪だろうとのことで、こうして私とレオさんは同じ部屋にまとめられて寝ている。


「私が元気だったら……聖女の力でレオさんを治して差し上げられるのに……私は風邪を引くと、力が上手く使えなくなるようで……」

「辛いだろう? しゃべらなくていいよ、シベルちゃん。しかし俺も元気だったら、君の看病ができたのだが……」

「レオさんの看病があったら、私はすぐに治ってしまいそうです」

「俺もだよ、シベルちゃん」

「だから、もうしゃべるな」


 呆れたように息を吐くミルコさんに、私とレオさんは素直に口を閉じた。


「それじゃあ、おとなしく寝ていろよ。部屋の外に伯爵家の使用人が控えているから、なにかあればすぐに呼んでくれ」

「ああ」

「ありがとうございます、ミルコさん、エルガさん」


 そう言い残して出ていった二人にお礼を伝えて、私はふぅと息を吐く。


 私は風邪を引くと魔力が上手く使えなくなってしまうから、熱が出たのが仕事を終えてからで本当によかったわ……。

 心からそう思う。


「……」

「……」


 でも風邪を引いた原因は、湖に落ちてずぶ濡れになりながら帰ってきたからよね?

 あの後すぐに温泉に入って身体をあたためたのに……。


 それに、私のせいでレオさんまで。

 王太子殿下を体調不良にさせてしまうなんて、やっぱり聖女失格、婚約者失格だわ……!!

 せめて、聖女の力でレオさんだけでも治せたらいいのに。


 そう思いながら、隣のベッドで寝ているレオさんのほうに顔を向けてみる。


 ……レオさん。やっぱり苦しそう。

 顔が赤いし、呼吸も苦しそうだし、汗をかいているわ。


「……」


 でも、そんなレオさんも、なんだか色っぽくて素敵――。


「シベルちゃん、起きてる?」

「は、はいっ!」


 そんなことを考えてごくりと息を呑んだ私に、レオさんがそっと声をかけてきた。


 いけないわ、シベル……!

 レオさんは風邪で苦しんでいるのに、なんてことを考えているのよ……!!


「辛いだろう。すまないね」

「それは私の台詞です」

「いや……あのとき、俺がすぐ近くにいたというのに、君を湖に落としてしまった」

「それはレオさんのせいでは……」

「もし、君にもっと酷いことが起きていたらと思うと……俺は」

「……」


 そう言って私に視線を向けたレオさんは、やっぱりとても苦しそう。


 今すぐそちらに行って、ぎゅっと抱きしめて差し上げたくなる。

 そうだわ、同じベッドで寝たら身体があたたまっていいのではないかしら?

 ……もちろん、私得な感情ではなく。


「大丈夫ですよ。私は聖女ですから」

「ああ……」


 そんなレオさんを励ますつもりで明るく言ったら、レオさんも小さく微笑んでくれた。


 風邪を引くと、なぜか無性に心細くなってしまう。


 本当は、私たちは別々の部屋で療養するはずだったけど、同じ風邪なら一つの部屋にまとめたほうがいいと、ミルコさんが言ってくれた。


 風邪を引いてしまったけど、こうしてレオさんと二人きりで静かな時間を過ごせるのは、ちょっと嬉しい。


 うふふ、さすがミルコさんですね。ありがとうございます。




     *




 それから三日ほどが経ち、私たちの熱は下がった。

 けれど病み上がりだからということで、もう一日ここでゆっくりしていくことになった。


 あれからは湖も落ち着いているようだし、街に魔物は現れていない。

 湖への立ち入り禁止も、間もなく解除されるとのことだった。



「元気になってよかったっすね、殿下、シベルちゃん」

「ヨティさんにもご心配をおかけしました」

「どうせなら、この街を観光していってほしかったんで」

「まぁ、観光ですか?」

「俺が二人を案内しますよ!」


 ようやく皆さんと一緒に朝食をとれるようになった私に、ヨティさんが得意気な顔で言った。


 確かに、仕事で来たとはいえ、せっかく初めて来た土地なのだから、視察も含めて街を見ていくのはいいことだと思う。


 それに……純粋に、初めての街をレオさんと一緒に見て回るのは、とても楽しみ。


「そうだな。せっかくだし、観光していこうか」

「はい! ぜひお願いします!」


 そういうわけで、朝食を食べ終えた私とレオさんは、ヨティさんの案内でミュッケの街へ馬車を繰り出した。


 ミルコさんたちは伯爵邸で待っているそう。

 リックさんはこの数日の間にヨティさんと街に繰り出て、美味しいお酒を飲んで楽しんできたらしい。


 お二人は全然タイプが違うしよく言い争っているけれど、本当は仲がいいのよね。

 でも、ヨティさんとリックさんが二人で並んでいたら、すごく目立つと思う。


 ……きっとお二人とも、モテるんだろうなぁ。


「シベルちゃん? なにを考えているの?」

「あっ……いいえ、なんでもありません!」

「そう?」


 ついお二人がラフな服装で酒場にいるところを想像してしまった私に、不思議そうに声をかけてきたレオさん。


「……今日くらいは、仕事のことは忘れて楽しもうね」

「は、はい……!」


 そんな私の手を握って微笑んだレオさんを、ヨティさんがニヤニヤしながら見ていた。


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熱で汗をかいたレオさんのお着換えという、シベルちゃん待望のサービスシーンはどこへ? そして、それを見て涎を垂らしそうになっているシベルちゃんのにやけ顔という、全読者期待の鉄板シーンはどこへ?
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