108.俺にできることは※レオ視点
「しかし、なぜ突然この街の湖に瘴気が……」
「本当に不思議っすね。この土地は平和だったんすけど」
その日の夜。
俺はミュッケ伯爵家の温泉に浸かりながら、先ほど聞いた話をミルコたちにも伝えた。
温泉の湯気が立ち込める中、心地よいあたたかさが身体を包み込む。だが、心の中では不安が渦巻いていた。
数週間前に発生したという瘴気だが、トーリの魔石が割れた時期と近い。
「……」
「レオ? なにか気になることでもあるのか?」
「いや……」
……だが、偶然だよな?
シベルちゃんが聖女の力に目覚めて、まだ日が浅い。
この国全体の平和を一度に守ることは不可能だし、たまたま重なってしまっただけだろう。だが、その偶然が不安を呼び起こす。
もしかしたら、トーリで発生した魔物がミュッケ領に逃げ込んでしまったのだろうか……。
「とにかく、その場所に行って調べてみる必要がありそうだな」
「ああ」
ミルコの言うように、まずは見てみないことにはなんとも言えない。
原因が判明するかはわからないが、とにかく瘴気を浄化しなくては。
「明日は俺が案内するんで、任せてください」
「ああ、ヨティ。頼む」
ヨティはこの地に詳しいし、ミルコは魔物の瘴気の正体を感じ取る力に長けている。リックも魔物や魔法に詳しいし、彼らはとても頼りになる。
「だが、シベルちゃんにはまた負担をかけることになるな」
「しょうがないだろう。彼女も聖女としてその覚悟はできていると思うぞ」
「そうだが……」
魔石に加護を付与するのも、瘴気を浄化するのも。
すべてシベルちゃん任せになってしまう。
もし魔物が現れたら全力で彼女を守るが、それですら彼女が片付けてしまったほうが早いのだ。
「彼女が魔力を使いすぎたときは俺の魔力を分けますので、ご安心を」
「ああ……リック、頼む」
彼らはとても頼もしいが、俺がシベルちゃんのためにできることはあるのだろうか。
「俺にできることはなにもないんだろうな……」
「殿下には聖女シベルちゃんの疲れを癒やしてあげるという、重要な役目があるじゃないっすか!」
ヨティの陽気な声が温泉の静かな空気に明るく響き渡る。
「彼女も今頃この温泉で疲れを癒やしているだろう?」
「まぁ、そうっすけど。うちの温泉は聖女様並に疲れを癒やせますからね~」
「…………」
俺を励ましたかったのではなかったのか、ヨティは簡単に同意して軽く笑っている。
彼の正直で裏表のない性格には救われているが、同時に自分の無力さを感じずにはいられなかった。
「そんなにシベルちゃんを癒やしてあげたいなら、マッサージでもしてあげたらどうっすか?」
「マッサージ?」
「温泉に入ってあたたまった身体にマッサージは効くっすよ~! ぐっすり眠れますし」
「へぇ……そうなのか」
「殿下がマッサージしてあげたら、シベルちゃんも喜びますよ。あ、うちには優秀なマッサージ師がいるんで、後で教えてもらったらいいっすよ」
「……そうだな、そうしよう」
ヨティの提案に、俺は深く頷いた。
シベルちゃんのためになにかできることがあるなら、それを試してみる価値はある。
「しかし、シベルちゃんが本当に疲れているのは心のほうかもしれないな……」
「そうっすね。聖女としての責任は重いっすからね。でも殿下がそばにいるだけで、シベルちゃんはきっと安心しますよ」
ヨティの言葉に、俺は少しだけ微笑んだ。彼の明るさと前向きな姿勢は、いつも周囲を元気づける。
「ありがとう、ヨティ。君の言う通りだ。俺もシベルちゃんの支えになれるよう、頑張るよ」
「その意気っす! 俺たちにできることがあったらなんでも言ってくださいよ」
な、リック! と続けたヨティに、リックも頼もしく頷いた。
ミルコも、エルガもいる。大丈夫。俺たちにはこんなに信頼できる仲間がいるのだから、みんなで力を合わせよう。
温泉の湯気が立ち込める中、俺は深く息を吸い込んだ。シベルちゃんのために、そしてこの国のために、俺もできることを全力でやろうと心に誓った。
みんなでわいわい温泉に入る騎士たち。レオにマッサージされるなんてシベルにとってはただのご褒美だ。
本日、騎士好き聖女のコミカライズ第11話が更新されてます!(^^)
リックがあれでシベルがそれでレオがこれな回です!!(なに)
ぜひぜひコミカライズもお楽しみくださいませ~!!
そして皆様の推しを教えてくださいᕙ( 'ω' )ᕗ
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