106.素敵な家族ですね
「ここがうちだよ」
「まぁ、素敵な邸宅ですね」
ヨティさんが生まれ育った土地、ミュッケ領へは、トーリを出てから十日ほどで到着した。
まずはそのままミュッケ伯爵家――ヨティさんのご実家へやってきた。
ヨティさんのおうちに来られるなんて、なんだか嬉しい。
「ヨティ、おかえり」
「父上、母上! ただ今帰りました」
「レオポルト殿下、聖女シベル様、それから皆さんも。お疲れでしょう。どうぞ、おくつろぎください」
「ありがとうございます」
広間に案内されると、ヨティさんのお父様とお母様が私たちを迎えてくれた。
ミュッケ伯爵は、ヨティさんによく似た金色の髪と青い瞳の、爽やかな方だった。
伯爵夫人もとても優しそうで、美人というよりどちらかというと可愛らしい方。
なんとなくヨティさんとお顔が似ている。
ミュッケ伯爵家は代々騎士の家系らしく、ヨティさんのお父様も昔騎士を務められていたそう。
現役を退いてもう何年も経つようだけど、今でも騎士様だった頃の名残があって、どこかたくましい……。
「アルミン」
「……!」
リックさんの影に隠れていたアルミン君だけど、伯爵の声にびくりと肩を弾ませ、そっと前に出た。
「勝手にヨティのところに行くなんて」
「だって……」
「まったく。心配するだろう」
「……ごめんなさい」
伯爵はそんな彼を見て小さく溜め息をついたけど、どこかほっとしているようにも見える。
アルミン君は、〝王都に行ってくる〟という書き置きだけを残して勝手に家を出てきてしまったらしい。
私たちと一緒にミュッケ領に帰るということは手紙で伝えていたけれど、顔を見るまでご家族は心配だったでしょうね。
「あ! ヨティお兄様!」
「兄上! 帰ってきたのですね!」
「お帰りなさい、お兄様!」
「ああ、ただいま」
そのとき、男の子が一人と女の子が二人、ばたばたと広間にやってきた。
三人ともヨティさんに似た癖のあるやわらかそうな髪に、可愛らしい顔立ちをしている。
「弟と妹たちだよ」
「まぁ、こんにちは。お邪魔しております、シベルです」
「わ~! 綺麗な人~! お兄様の恋人ですか?」
「え?」
「違う違う、シベルちゃんはこちらにいる、レオポルト殿下の婚約者様だ」
「え! レオポルト殿下?」
ヨティさんの言葉を聞いて、彼らは私からレオさんにキラキラとした視線を移す。
「わ~! 本物の王子様だ! 格好いい~!」
「握手してください、レオポルト殿下!」
妹二人は頰を赤く染めて嬉しそうにレオさんに近づいた。
気持ちはとてもわかります。レオさん、格好いいですよね。
「こら、馴れ馴れしくしたら、不敬罪にされちゃうぞ!」
十四歳くらいの弟も、一瞬興奮したように駆け寄ったけど、はっとして妹たちを注意する。
「ははは、大丈夫だよ。君たちの兄君にはいつも助けられている」
「王子様を助けてるなんて、ヨティお兄様すごい!」
レオさんは優しく笑って、彼らに手を差し出した。
みんな嬉しそうにレオさんの手を握り、「やっぱりヨティお兄様はすごいのね!」と騒いでいる。
話に聞いていたけれど、ヨティさんは五人兄弟の一番上で、弟や妹たちからとても慕われているようだわ。
ヨティさんの家族はみんな明るくて元気いっぱいなのね。とても素敵。
「それじゃあ、お姉さんは聖女様なの?」
「え?」
そんなことを考えて微笑ましい気持ちでいた私に唐突に声をかけてきたのは、八歳くらいの、一番歳下と思われる、くりくりの丸い目をした女の子。
「王子様は、聖女様と結婚するんでしょう?」
レオさんと結婚……。
みんなの前でその質問はちょっと照れてしまうけど、とても純粋な瞳を向けられたので、私も素直に頷いた。
「うふふ、そうよ」
「わぁ! やっぱり! それじゃあ、もう王子様と愛の口づけを交わした?」
「え?」
「王子様に愛の口づけをされると、聖女様は強くなれるんでしょう?」
「…………まぁ」
けれど今度は〝聖女様と勇敢な王子〟という、とても有名な絵本をずいっと見せながら、とても刺激的なことを言われた。
この絵本は、国を滅ぼそうとした魔王に立ち向かう、聖女と王子様の愛と勇気の物語。
「私ね、この本が大好きなの!」
「……そうなのね、私も好きよ」
この国の人間なら誰しもが知っているこの物語は、実話が元になっていると言われている。この国に最初に誕生した聖女様のお話なのだとか。
魔王の力で意識を失った聖女は、勇者である王子の口づけにより目を覚まし、真の力を発揮して王子とともに魔王を倒す。
それ以降、聖女は王子と結婚するのがこの国の習わしとなった。
愛の力で真の力に目覚めたことから、聖女は幸せであればあるほどその力を発揮するとされているし、実際に歴代の聖女もそうだったらしい。
つまり、聖女の幸せがこの国の平和に結びつく。
「ねぇ、もう愛の口づけをした? 聖女様の真の力には目覚めた?」
「……」
とても純粋でキラキラとした瞳に、私は笑顔のまま言葉を詰まらせてしまう。
さすがの私も、正直に〝しました〟なんて、こんなところで言えないわ……。
だって既にそれを思い出して、顔に熱が……。
「よ、よーし! せっかくお兄様が帰ってきたんだ、一緒に遊ぼう! こっちのリックお兄さんは面白い魔法が使えるんだぞ~!」
「あ? 俺かよ」
「わ~い! 見せて見せて~!」
「しょうがねぇなぁ」
た、助かった……。
ヨティさんが誤魔化すように大きな声を出して妹を抱き上げてくれたおかげで、意識はそっちに向いたみたい。
ほっと胸を撫で下ろす私だけど、ふとレオさんが私を見ていたことに気がついて、目が合った。
「……あ」
「うふふふ……」
レオさんもとても照れくさそうにしているけど、とりあえず私は微笑んでおいた。
……それにしても。
「ヨティさんは、とても慕われているのですね」
「ああ、そうだな」
レオさんの前ではいつも、ヨティさんが弟のようだけど。
こうしてみると、ヨティさんは優しくて頼りにされている立派な長男。
私には血の繋がった兄弟はいないし、アニカとは仲良く過ごした記憶がないから、こんなに素敵な家族がいるのはやっぱり少し羨ましい。
「ちょっとだけ、羨ましいですね」
「……シベルちゃん」
「あっ、でも私も今はとても幸せですけど!」
「そうか」
漏れてしまった心の声に慌てて言葉を付け足すと、レオさんは優しく微笑んでくれた。でも、レオさんも同じことを考えているような気がした。
レオさんとマルクス様は血が繋がっているのに、私とアニカ以上に顔を合わせずに育ったのでしょうから。
レオさんは、マルクス様のことをどう思っているのかしら。
ヨティ家は大家族でわいわいしてます。
そう、ヨティさんは意外と長男なんです……!!
本日、騎士好き聖女のコミカライズ第10話が更新されました!(^^)
コミカライズもとうとう10話まできました!
リックがアレをやらかしてシベルがああなるところです!!
作画最強でリックもレオもかっこよくてめちゃめちゃ面白いので、ぜひぜひコミカライズもお楽しみくださいませ~!!
皆様の推しを見つけてくださいᕙ( 'ω' )ᕗ
https://pash-up.jp/content/00002552





