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105.私は構いません!

 朝食を終えて準備を整えたら、私たちはミュッケ領に向けて発つため、馬車に荷物を積み込んだ。


「お義姉様、絶対またすぐ来てくださいね。できれば次は私を迎えに来てください……!」

「ふふ、そうできたらいいわね。それまで元気でね?」

「はい……!」


 アニカとマルクス様、それから第三騎士団の方たちに見送られ、お別れの挨拶を交わしながら、少し名残惜しい気持ちが湧いてくる。


「ヨティさん、また飲みましょうね!」

「リックさんも、また稽古つけてください!」

「ああ、また仕事で来ることがあったら寄るからな!」

「それまでに強くなっておけよ」


 ヨティさんとリックさんは、本当に第三騎士団の方たちと仲良くなったみたいで、別れを惜しんでいる。


 うふふふ……騎士様たちの友情……尊いわ。


「マルクスも、元気でな」

「……はい、兄上も」


 そんな騎士様たちを見ていたら、私の隣にいたレオさんと、マルクス様の神妙な声が聞こえた。

 挨拶を交わしているけれど、やっぱりマルクス様はレオさんの目をちゃんと見ていない。


 結局このお二人はゆっくり話す機会もなかったようだし、まだまだわだかまりが残っているのかもしれない。


「では行こうか、シベルちゃん」

「はい……」


 少し気になるけれど、そう簡単に仲良くなれるものではないわよね。

 これまでずっと、お二人は普通の兄弟として生きてこなかったのだから。

 私もとてもアドバイスできるような立場ではない。

 それでもいつか、少しずつでも関係を築いていってくれるといいなぁ。


「ほら兄貴、行くってよ!」

「おう、アルミン。偉そうに言うなっ!」


 ヨティさんとアルミン君は、相変わらず仲がよさそう。

 今度兄弟と仲良くする秘訣を教えてもらおうかしら。


「どうしたんだい、シベルちゃん」

「いいえ」


 馬車に乗り込み、隣に座ったレオさんをじっと見つめると、すぐその視線に気づいて問いかけてくれる。

 レオさんは本当に優しいわ。

 ご自身も大変なお立場なのに、いつも私やみんなのことを気にかけてくださる。


「レオさん、私と素敵な家族を作りましょうね!」

「え? あ、ああ……、そうだね、もちろん」


 レオさんには本当の家族のような絆で繋がっている第一騎士団の皆さんがいるけれど、私と結婚すれば本物の家族になれる。


 そう思って言った言葉に、レオさんはなぜかほんのりと頰を赤らめた。


「朝から本当にお熱いっすねー。羨ましい」

「殿下をからかうなよ」

「?」


 そんな私たちを見てヨティさんとリックさんが意味深に呟いたけど、私はなにかおかしなことを言ったかしら?


「お二人の子供が生まれたら、俺がたーっくさん遊んであげますからね!」

「ヨティ、それはまだ先のことだ!」

「あ、そーなんすか?」


 にやにやと笑っているヨティさんと、やっぱり照れくさそうにしているレオさんに、ようやく気づいてはっとする。


 そうか……! 私たちが昨夜同じ部屋で寝たから、勘違いさせてしまったのね……!!


「ち、違うんです! いえ、違わないですけど……、素敵な家族を作るというのはそういう意味ではなくて……やっぱりそういう意味なんですけど、そうではなく……!」

「大丈夫よ、シベル。わかっているから」

「……はい」


 エルガさんに諭されてその場は収まったけれど、みんなの前で私が変なことを言ってしまったせいで、レオさんを困らせてしまった……!


 この後しばらく続く馬車での移動を、なんとも言えない気まずい空気に耐えながら過ごした。




     *




「うちの領地は温泉が有名なんだよ」

「温泉……?」


 ミュッケ領について話を聞いていると、ヨティさんが温泉の話題を持ち出した。

 これまで温泉に入ったことがない私は、ちょっとわくわくしてしまった。


「温泉はいいよ~、疲れが取れるし、気持ちいいし!」

「私は温泉に入ったことがないです」

「普通の風呂とは違うんだよ! ね、殿下!」

「ああ、ミュッケ領の温泉は疲労回復効果に美肌効果もあったよな」

「そうそう、だから観光地としても人気なんだよ。まぁ、田舎だけど」

「そうなのですね」


 レオさんやミルコさんは数年前に騎士としてのお仕事でミュッケ領を訪れたことがある。温泉はそのときも騎士様たちにとても好評だったのだとか。


 温泉……。入ったことはないけれど、本で読んだことがあるわ。

 その本では、大きな温泉にみんな一緒に入っていた。


 そう、男性も女性も、一緒に。


 そのシーンを思い出して、胸がドキドキしてしまう。


「一応言っときますけど、混浴じゃないっすからね? シベルちゃんとは一緒に入れないんで~」

「そ、そんなことわかっている――!」


 突然ヨティさんがレオさんに言った言葉に、私は驚きと興奮で言葉を詰まらせる。

 混浴って……、レオさんと一緒に入れると思っていたわけではないけれど、まさかそんな話が出るなんて……!


「私は構いませんよ!!」

「……え?」


 思わずそう叫んでしまった私を、皆さんが驚いたように見つめた。

 恥ずかしくなって、顔に熱が集まるのを感じる。


「いえ、あの、大丈夫です、わかっています! 温泉とはそういうものなのですよね? 大丈夫です、私に変な気持ちはありません!」

「…………」


 レオさんと一緒に温泉に入れたら……なんて素敵なことでしょう……!!

 海も楽しかったけど、温泉も素敵だわ。


 そう思いつつ、やましい気持ちはないのだと伝えたけれど、レオさんが私を見て少し困った表情を浮かべている。


 ……あれ? 私、変なことを言ってしまった?

 落ち着いて、シベル。興奮しては駄目よ。


「もしシベルちゃんが混浴に入ろうとしたら、俺が全力で止めるよ……」

「え?」

「シベルちゃん、心配しなくてもちゃんと男湯と女湯で別れてるから、大丈夫だよ」

「……まぁ、そうなのですね」


 本の中では温泉は混浴だったけど、どうやらミュッケ領では男女別の温泉があるらしい。


「まっ、殿下とシベルちゃんにだけなら貸し切りにしてもいいっすけど」

「なっ!? なにを言ってるんだ、ヨティ!」

「とか言って本当は嬉しいんすよね?」

「ヨティ!!」


 ……まぁ!

 レオさんとヨティさんのやり取りを見ながら、私はその一言で一層テンションが上がった。

 貸し切りだなんて、それは素敵すぎます……!!


 レオさんの筋肉を独り占めだなんて……本当にいいのでしょうか?


 でも冷静になって考えると、きっとヨティさんはいつもの調子でレオさんをからかっているだけで、冗談なのよね。

 さすがの私でも、そろそろわかります。残念だけど……。


 それにミュッケ領にも仕事で行くのよ。トーリでの仕事を無事に終えたからといって、気を抜いては駄目!


 そう、これは遊びではない。アルミン君を送り届けるついでに、魔石に加護を付与しに行くのだから。


 いくら以前より力が安定してきたからといっても、油断は大敵よ!

 聖女として、しっかり頑張らないと!!



「……そんなことより、うちの領地が魔物の被害に遭っていなきゃいいけど」

「大丈夫だって、アルミン。そんなに心配するなよ」

「ミュッケ領は元々魔物の被害が少ない地域だ」

「そっすよね!」


 不安そうな声を漏らしたアルミン君に、ヨティさんとミルコさんが声をかけた。

 けれどアルミン君は、心配そうにそわそわしている。


 直接魔物を見たからね? 魔物はとても恐ろしいものね、わかるわ。


「まぁ、万が一のことがあっても、俺たち第一騎士団の手にかかれば余裕だけどな! それに頼もしい聖女様もいるし」

「はい! 私にお任せください!」

「確かにシベルちゃんはとても頼もしいが、無理はしないようにね」

「はい、レオさん」


 無理はしないけど、やる気は十分ある。

 魔石に聖女の加護を付与して、ミュッケ領の平和を守ってみせるわ!


「それにしても温泉か……。さっさと仕事を終わらせて、たまにはゆっくりするのもいいよな」

「リック、おまえはミュッケ領に来たことがないだろうが、うちの温泉は本当にいいぞ! それに美味い酒もあるし、いいマッサージ師もいる」

「へぇ、そいつは楽しみだ」


 ……お酒に、温泉に、マッサージ。


 それはとても疲れが癒えそうですね。


 リックさんの言うように、無事仕事を終えたら、レオさんや皆さんには安心してゆっくり温泉に浸かってもらい、日頃の疲れを癒やしてもらいたい。


 そうよ、レオさんや騎士様たちの疲れを癒やすことが、私の喜び……!


 私もマッサージの勉強をしようかしら?

 そうすれば王都に帰っても、いつでもレオさんの疲れを癒やしてあげられるし。


 ……もちろん、レオさんの疲れを癒やすことが目的であって、筋肉に触るための口実なんてことは、断じてありません。


「楽しみだね、シベルちゃん」

「……うふふ、頑張ります」

「うん?」


 そのときを夢見て、妄想がどんどん膨らんでいく私を、レオさんがあたたかく見守ってくれていた。



3章までくるとシベルの欲望が爆発しがちですね……

ここまでついてきてくれている読者様、ありがとうございます!作者は書いていてとっても楽しいです!

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[気になる点] シベルちゃんが肉欲に!
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