103.大切なシベルちゃん※レオ視点
レオ視点長くなってしまいましたが甘々いちゃいちゃ回です!ご注意ください!
「うふふふ……レオしゃんと一緒にトーリに来られて、シベルは嬉しいです……」
結局その場の雰囲気に流されて、シベルちゃんはワインを三杯飲んだ。
俺が隣にいるし、彼女も楽しそうだから無理に止めることもできなかったが……やっぱりこうなった。
「こうしてレオしゃんと色んな街を見て回れたら……幸せです」
「そうだね、でも今日はもう休もうか」
「はぁ~い……」
呂律が回らなくなってきているし、顔も赤い。
素直に希望を口にしているシベルちゃんだが、このまま放っておくとその願望はどんどんエスカレートしていくことを俺は知っている。
俺だけの前でなら構わないが、ここでこれ以上彼女の願望を口にされるのはまずい。
「シベルちゃんはもう寝かせてくる。エルガ、悪いが一緒にいいか?」
寝かせるにしても、着替えさせてやらなければ。
そう思いエルガに声をかけたが、なぜかそれを聞いていたヨティが口を開いた。
「駄目っすよ! 今は業務外です! 婚約者の面倒くらい一人で見てください!」
「え……、しかし、このままの格好で寝かせるのは……」
「大丈夫です! シベルは一人で着替えられます!」
「……そうか」
とても大丈夫には見えないが、シベルちゃんが張り切って答えるのを見て、エルガも小さく微笑み、座ったままでいる。
確かに、今夜はエルガもこの場を楽しんでいる。王都に帰ればまた聖女の侍女として相応しい振る舞いを求められるし、こうしてみんなで楽しく宴会に参加する機会はそうない。
少し不安だが、そんなエルガをこの場から連れ出すのは申し訳ないな。
そう思った俺は、まだ起きているのだからなんとかなるだろうと、一人でシベルちゃんを部屋に連れていった。
「――着替えはこれだな。シベルちゃん、本当に大丈夫?」
「うふふ、大丈夫ですよ~、レオしゃん……」
「……」
ベッドの上に畳んで置いてあった寝衣を手渡したが、シベルちゃんはそれをスルーして俺にすり寄った。
その仕草がなんとも可愛らしく、このまま抱きしめてしまいたくなる。
しかし彼女は幸せそうに笑っているが、大丈夫そうではない。
……まぁ、最悪このまま寝てしまってもいいか。
「それじゃあ俺は戻るけど、そのまま寝たら苦しいだろうから、一人でちゃんと着替えてね?」
そう思いつつも念のためもう一度声をかけて、寝衣をベッドサイドの小さなテーブルに置き、部屋を出ようとしたが。
「レオしゃん……もっと一緒にいたいです……」
「……でも、眠くないのかい?」
「今日は、ずっと一緒にいてください」
「え……?」
ぎゅっと俺の背中に抱きついて、ぽつりと囁かれた言葉。
シベルちゃんは酔うと感情がストレートになる。
素直に要望を口にしてくれるのは嬉しいが、〝ずっと〟とは、どういう意味だろう。
「……わかった。シベルちゃんが眠るまで、一緒にいるよ」
「レオしゃんと結婚したら、眠ってからも一緒にいられるのでしょうか……?」
「うん、そうだね」
もちろん俺も、早くそうなりたいと思っているよ。
心の中でそう言いながら、俺にしがみついていたシベルちゃんに、身体を捻って向き合う。
「……シベルは時々、レオしゃんと一緒に眠る夢を見ます」
「俺と眠る夢?」
「はい……夢の中のレオしゃんは、どうしてか服を着ていなくて……あ、単なる私の妄想……いえ、欲望ですけど……」
「え?」
うふふふ、と笑いながらそんなことを口走ったシベルちゃんは、照れたような素振りを見せながらも口元がにやけている。
「夢の中で、俺は裸で……君と寝ているのか?」
「はい……それはそれはたくましい肉体で……本当に素敵な筋肉で……」
「……」
思い出しているのか、頰に手を当てて幸せそうに目を閉じるシベルちゃん。
酔っていなければ、こんなことを俺に言うことはなかったのだろうな。
俺だって、シベルちゃんと結ばれる日を夢に見るほど楽しみにしているが――。
「つまりシベルちゃんは、早く俺とそうなりたいと思ってくれているのかな?」
「はい……私の欲望ですから……うふふふふ」
「……っ」
なんて可愛いんだ。
ヨティが意味深に笑っていた顔が思い出されるが、俺とシベルちゃんはあとほんの少しで結婚する仲だ。
互いに望んでいるのなら、それが少し早まったって――。
「シベルちゃん」
「レオしゃん……」
とても幸せそうにしているシベルちゃんの肩に手を乗せ、まっすぐに瞳を見つめたら、彼女の瞳がとろんと、とろけた。
「レオしゃん……だいしゅきです……」
「俺もだよ、シベルちゃん。愛してる」
そんな彼女をそっとベッドに座らせ、このまま押し倒してしまいたくなる己の欲と葛藤する。
「……」
しかし、やはり駄目だ……、酔っているシベルちゃんに変なことはできない。
ドキドキと高鳴る鼓動を落ち着けるように大きく頭を横に振って、活を入れて彼女から手を離す。
「そのままでは苦しいだろうから、リボンは緩めて寝ようか」
「はぁい」
俺の言っていることを理解しているか不明だが、可愛く返事をしたシベルちゃんの、腰のリボンをそっと解いた。
「うふふふふ、くすぐったいです……レオしゃん……」
「すまない……っ!」
女性の服を脱がせる手伝いなどしたことがない俺の手は、不覚にも彼女の細い腰に触れてしまった。すぐに両手を上げてシベルちゃんから離れようとしたが、ふわふわした口調で、彼女は言った。
「服を脱げばいいのでしょうか?」
「えっ?」
「シベルは自分で脱げます」
そして、ぼんやりとしながらなにか呟いたと思ったら、シベルちゃんは自ら服を脱ぎ始めてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……!!」
「大丈夫です、レオしゃんの手は煩わせません」
「ち、違う……! そうではなくて……!!」
駄目だ、止まらない……!
慌てて両手を顔の前に出し、シベルちゃんから目を逸らしたが、ごそごそと服を脱ぎ終わったらしいシベルちゃんの動きがピタリと止まったのを感じた直後、部屋がシン――と静まり返った。
静かな室内に、俺の鼓動の音だけが大きく響く。
彼女は今、どんな格好をしているんだ……?
気になる……しかし、見てはいけない。
その葛藤はほんの一瞬であっただろう。しかし、俺にはとても長く感じた。
「……レオしゃん」
「!」
そしてその沈黙は、彼女のやわらかな声で破られる。
「レオしゃん……あったかい……」
「!!」
シベルちゃんから視線を逸らしていた俺の胸下辺りに、あたたかくやわらかな感触を受けて心臓が跳ね上がる。
そっと視線を落とすと、そこに顔を押し付け、ぎゅっと俺に抱きついているシベルちゃんが視界に映った。
壊れんばかりに鼓動が高鳴りつつも、ちらりと彼女の身体に目を向ける。
……よかった、ちゃんと肌着は着ていたか。
ワンピースタイプの肌着を身に纏っているシベルちゃんの姿にほっと胸を撫で下ろすが、それでも細い肩紐と短い丈のせいで、彼女の細くなめらかな腕も脚も普段より多く見えている。
おかげで俺の鼓動は鳴り止まない。
「シベルちゃん、今日はもう寝よう。ほら、ベッドに入って」
「レオしゃんのほうがあったかいです……」
「…………」
……ああ、本当に愛おしい。
本当はこのまま、シベルちゃんを俺のものにしてしまいたい。
俺が何度そう願い、夢に見たことか。
だがきっと、シベルちゃんは俺がなにを考えているのかなんて、想像もしないのだろうな。
まるで幼い子が親に甘えるかのようなシベルちゃんに、ふと考える。
彼女は子供の頃に両親を亡くし、すぐに妃教育が始まった。それは厳しいものだっただろう。
まだ大人になりきれていない彼女に、甘えられる存在はいなかったのかもしれない。
酔うと感情がストレートになるシベルちゃん。
もしかしたら、彼女はもっと誰かに甘えたかったのかもしれない。
いつも明るく前向きだが、やはり寂しい思いをしていたのだろう。
「俺がずっと一緒にいるよ」
だからやはり、酔っている彼女に変なことはできない。
純粋なシベルちゃんを裏切ってしまうような野蛮なことは、絶対にしない。
それに、酔っていて覚えていないのも、嫌だしな。
「シベルちゃん、俺は君のことを心から大切に想う」
「うれしい、です。レオしゃん……」
ドキドキしながらも、なるべく彼女の肌を見ないよう努めて、ベッドに横たえさせる。
彼女の瞳が半分閉じかけ、夢見心地のまま俺を見つめている。
その瞳には、俺への信頼と深い愛情が込められていた。
「レオしゃんの匂い……だいすきです……」
「……っ」
俺にぎゅっとしがみついているシベルちゃんは、首筋辺りに鼻を寄せてそう呟いた。
彼女のあたたかい吐息に、理性が飛んでしまいそうだ。
駄目だと思えば思うほど、その緊張感が俺を余計に高ぶらせていく。
「……よし」
だがなんとか無事、理性を保ったままシベルちゃんをベッドに寝かせることに成功した。
「レオしゃん……」
「……俺の婚約者は可愛すぎるな」
彼女はもう目を閉じているが、それでも幸せそうに俺の名前を呟いている。
「おやすみ、シベルちゃん。いい夢を見てね」
彼女の額に、前髪の上からキスを落とし、そのやわらかな感触を胸に焼き付けた。
シベルちゃんの呼吸がゆっくりと安定していくのを感じながら、俺はその場を離れようとしたが。
「レオしゃん……どこにも行かないで……」
彼女の小さな声が俺の心を揺さぶる。
俺も、本当はずっと一緒にいたい。彼女を一人にしたくない。
「…………ああ、ずっとここにいる」
「うふふ……レオしゃん、あったかい……」
「シベルちゃんもあたたかいよ」
手を伸ばしてくるシベルちゃんに応えるように俺もベッドに横になると、彼女はしがみつくようにぎゅっと抱きついてきた。
……正直、理性を手放してしまいそうになる。
だが、幸せそうに笑っているシベルちゃんを見ていると、自然と心が落ち着いた。
俺は本当にシベルちゃんを大切にしたい。
だからそんな愛おしい彼女を布団の上から優しく抱き返し、そのまま彼女の隣で目を閉じた。
果たしてシベルは覚えているのか……。笑
頑張れレオさん……!!